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まずは軽く謝罪。

投稿が遅れた理由は、作者がエスタークLV50を倒せなかったからです。正直に言ってみました。偉い。


さて、語ることがないからって、毎回気温の事で済まそうとしてる自身を反省するとします。


そこで、今回の前書きは久しぶりに真面目なやつにしたいと思うわけです。しかし真面目な前書きとはなんだろう?


というか、普通小説で前書きといったら『この作品を○○に捧ぐ』みたいなロマンチックなことが書かれているわけです。そうじゃないにしても、その小説の品評やらが、前書きを飾るわけですが、コレに至っては、どれもしっくりきません。


だとしたらどうでしょう。


やっぱり前書きはふざけたおしたやつになってしまうのが、常軌なのではないでしょうか?


ふざけたくなくともふざけてしまう。あぁ、なんと数奇な運命でしょう。


私は真面目な文を飾りたいのに、さすがに毎回では書くこともネタ切れになってしまうというものです。


それでも、なんとか前書きっぽいのをやってみたいと思います。


『この作品を、ペットのハムスターに捧ぐ』


…不思議とロマンチックな響きになりましたね。

ハムちゃんが私の愛で心労にならなければいいのですが……。




梓ちゃんが駆けていったという階段を急ぎ足で下る。

視界がガクンガクンと大きく上下する度に、この先にいるという彼女についての考察ぷかぷかと浮かんできた。

一段抜かしだから気を緩めたりしたら危険だが、今後の予定を組み立てるのに集中力はさかれている。


青い顔をしていたとのことなので相当なショックを受けたのだろう。実の兄貴に恋人(候補)だ。兄弟のいない俺には想像できないが、凄まじく衝撃的だったに違いない。それが自分の憧れの人(兄貴)ともなればなおさらだ。


ともかく、そんな光景を目の当たりにして、耐えきれず逃げ出した哀れの子羊をみつけなくてはならない。引き留めて、それからどうするかは全く考えていないけど、無駄に校内をうろちょろされるのも困りものなので、ひとまずは目の置くところに保護しなくては。

その後は、…やはり帰ってもらうのが一番だろう。彼女の精神を和らげるのは家が一番だし、なにより俺の日常を脅かしす危険分子とお別れしたいのだ。


「お、いた」


梓ちゃん自体は思ったよりも早く見つかった。

階段を下っていった先の一階の廊下に普通に歩いていた。

だけど、問題はその後にある。


その後ろ姿に声をかけた瞬間、振り向きもせず、逃げ出したのだ。


「えっ、ちょ、梓ちゃん!?」


手が触れる前よりも速く足を動かす彼女に、唯一届くのは音を媒体とした声のみだった。その声でさえ無視されるから大変である。俺から彼女を繋げるすべての要素が、拒否という名の脱兎に阻まれているのだ。なんで逃げるのか見当がつかないけど、迷惑なので止めてほしい。というか勘弁してください。


「梓ちゃん、まって!」


「……」


馴れ馴れしく『ちゃん』付けするな、と叱咤が飛んでくることもなければ、足を止めて俺の話を聞いてくれるなんてこともなく、彼女からくるのは仄かな残り香だけであった。


廊下に2つ、足音のビートが響きわたる。

つられて走りだした俺を眺める周りの生徒達の視線は限りなく冷たいものだった。それもそうだ。自身を客観視してみるとほとほと危険なやつにしか見えない。

二人で賑やか昼休みの廊下を鬼ごっこ。それは浜辺で笑いながら、追いかけっこするカップルよりも目立っている。

しかも俺が相手にしているのは中学生。逃げ回る彼女を真顔で追いかけるているのは紛れもなく高校生の俺だ。

目立つというか、そういった次元を一つ飛び越えていた。


……羽炉高校はホームグラウンドのはずなのに、まわりの視線はさらに鋭く冷たくなっている。


「だぁぁ〜、待てってば!」


中一女子にしては足が速い彼女の手を捉えたのは廊下を抜けた先の校舎裏で、だった。

地面は板張りから、土に変わっている。上履きのまま突撃するはめになるとは思いもしなかった。

彼女も途中で気づいていたはずなのに節操がなさすぎる。廊下を飛び出した時点で立ち止まってくれれば楽できたのに。


「だからぁ、ちょっと落ち着けって、はぁ、」


校舎裏まで駆けてきたその勢いは認めるけど、元気良すぎるのも問題だ。

上履きが泥だらけになるのは勘弁だし、冷たい空気で火照った体が急激に冷やされるのも、風邪になりそうで嫌だ。

そして、何より問題なのは。梓ちゃんにとって、ここ校舎裏というのはなかなか因果な場所ではないだろうか。

件の中津川が楓に告白した因縁の地である。まったく不思議な縁がでてきたな。


「……私は」


「完璧に外履きでくるところだよ。上履きが汚れちゃうじゃないか。急に走りだして何がしたいのかわからないけど、とりあえず一旦中に戻ろう」


「私、」


「梓ちゃん?」


彼女は相変わらず振り向くことなく地面を睨みつけている。俯いたまま、動かない。

まるでそういう銅像がもとからあったかのように、自然の背景と同化している。

断片的に彼女の口から単語が漏れているので、死んではいないと安心はできるが、妙に不安になってきた。


「さ、もどろう。走って体も温まってるかもしれないけど、今に冷えてくるよ」


「おもて、さん」


「……なに?」


驚いた。

梓ちゃんが、初めて、俺の名前を呟いた(と思う)のだ。

あれほど人を毛嫌いしていたのにどういう風の吹き回しだろう。

できることならこれからも俺の呼称は茨木だとか変態だとか隊長なんかよりも、生まれ持った名字と名前でお願いしたいところである。


「表さん」


もう一度さっきより強く俺の名を呼んだ彼女は、こちらをくるりと振り向いた。


「どうしたの」


「私、私を、」


金谷先輩が言っていた青い顔とはほど遠い、真っ赤なリンゴのようなかんばせを震わせて彼女は続けた。


「私を抱いてくださいっ!」


「え?」


脳みそが沸騰する。

視界がぐらりと歪んだ。


「わっ」


彼女がいきなり俺の胸に飛び込んできたのだ。


……

うん、えっと。


「ホワットアワンダフルワールドッ!?」


口から混乱の言葉が飛び出る。そんな飛散しだした俺の意識を収束させるように、彼女はさらにギュッと俺を抱きしめてきた。

中学生女子と男子高校生が人気の無い校舎裏でハグっ!


「ああああああ梓ちゃん…、なななななにがしたたたいい」


な、なんなんだこの状況!

顔から火がでそうなくらい恥ずかしい。女性に抱きつかれるのは安藤さん以来だ。

って今はそんなのどうでもいい、なんて、なんて彼女は言って、俺に飛びかかってきたんだ!?


抱いて、ください。

抱いて……。


「私をメチャクチャにして!」


顔を俺の大したことない胸板に沈めたまま、もごもごとだが確かに彼女はそういった。背中に回された彼女の腕が、ぴくぴくと脈動しているのが感じられる。

それを聞いて、かっー、と体温が一気に上昇していくのがわかった。

足の先から頭の天頂まで、ふざけたみたいに温かい何かが、ロケット打ち上げのように昇ってくる。

抱く、抱くってその……。メチャクチャ、ってその……。

俺だって子供じゃない、その言葉の真意くらい掴めている。問題は、その言葉を吐き出した少女の年齢にある。中一、ってことは12か13、その年頃の俺は、少なくともまだ性には目覚めていなかった、と思う。その年代のことはあまりよく覚えていないけど馬鹿みたいにキックベースに熱中していたような気がするし、中当てとかに夢中だったかもしれない。つうか、俺は高一で少なくともその年齢差3歳くらいは離れているわけだ。これくらいなら犯罪にはならないし、仮に彼女の要望に応えたとしても逮捕されることはないのだ。たかが三年、年の差カップルとは言わないし、大人の世界なら違いなんざもとから無いようなもんだろ。だからここで、バリバリOKだぜ!って、彼女をメチャクチャにしたとしても俺は全く気兼ねすることはないハズ。彼女は憧れの人(楓)が女の人と付き合ってると勘違いしてるだけとはいえ、そのことを説きふせるより、心の傷を癒やしてあげるほうが手段としては効率がいい。そうさ、そうだよ。何も気にすることはないさ!大体将来俺が成人して、中学生のお相手なんかしたら、警察のお世話になっちゃうのが関の山だし、今のう

ちに体験できることはしとくのが一番なんじゃないだろうか。若いころは経験が大切、っていうしさ!和水だか誰だか言ってた通り、色を知る歳ってのか今なのかもしれない。昔の人も言ってたじゃないかっ、据え膳食わねば男の恥!そうさ!傷ついた彼女を癒やすのは、俺がやるしかないんだ!いや、俺にしかできない!いやいや俺にやらせてくださいっ!というわけで、食べちゃうぜッッッ!


って、


「出来るわけないだろ!」


理性が煩悩との綱引きに辛勝。なんとか叫びながら彼女の肩を掴んで、俺から引き剥がした。

背中から脇を通り抜けていった彼女の細腕は、最後にだらんと力なく宙にたれる。


「梓ちゃん、君、なにを言ってるかわかってるな?」


「それくらい知ってる。私と男と女の関係になろう、と提案してるの」


「そ、」


カァ、と男なのに間違いなく俺の頬は赤くなっているのだろう。


「そんな簡単に言えることじゃないんだよ!そういうのは」


「私が簡単に言ってるってなんで決められるわけ?もしかしたら、本当に前からアナタのことが好きで恋慕ってきたかもしれないじゃん」


「実際はそうじゃないでしょ!梓ちゃんはただ単に楓が女子と弁当をいっしょにしてるのを見て、自暴自棄になってるだけでしょ」


「……っ」


動揺が顔に浮かぶ。


「あー、そう。そうかもね。だけど違うかもしれない!当てつけとかそんな酷いこと考えるわけない。私は本当に表さんとお付き合いしたいだけだもの!」


「い、い」


お、落ち着け俺。顔を真っ赤にして俺に愛の告白をする梓ちゃんを可愛いとか思ってはいけない!高鳴るな心臓、それは勘違いだっ!

俺には美影という心に決めた人がいるし、なにより彼女は親友の妹じゃないか!そんなことやれるハズがない、しちゃいけない!倫理的にっ!というか口では彼女、なんやかんや言ってるけど結局は自暴自棄になって俺を楓への当て馬にしようとしてるだけじゃないか!


「強く抱きしめて!」


「……」


宇宙をかける流星群が小さくなって、頭蓋骨の中を飛び跳ねまわってるみたいだ。

何も聞こえない。何も聞きたくない。ホールドミータイトとかわけわかんない。

これ以上聞いたら俺の理性の堤防はいとも容易く崩れされるだろうから。


「返事をして!」


「ふぁい!」


叫びながら梓ちゃんもう一度、俺の腰に手を回して抱きついてきた。

立場が逆だったら普通に訴えられておしまいなのだろうが、こういう場合、そんな野暮は起こさない、なぜだって?嬉しいからさっ!


「メチャクチャにしてくれる?」


「う、あ」


当然、返事は、こ、断るのだけど、その場合彼女はどうなるのだろう。今の彼女のテンションからいって、そこらの行きずりの男を相手にするなんてこともありそうだ。そうなったら楓にも申し訳が立たないんじゃないだろうか。だから、ここは少しでも事情を知ってる俺が、……


……はっ、いかんいかん。ま、惑わされるな!

俺には、

俺には、美影がいるじゃないかッーー!


深く深呼吸をして、間違った方向に進みそうになっている自我を必死で繋ぎとめる。気分を落ち着かせなくては、小さな彼女の要望に応えてしまいそうだからだ。そのために必要なのは自分を見返すこと。

必死になって、いずこかにいる俺の思い人の美影に呼びかける。そうすることによってなんとか俺の理性は留められるのだ!

美影美影ッー!美影が俺にはついているんだ!美影ぇーっ!

美影ぇー!



「雨音さん、そこで何をしてるんですか?」


「へ」


美影が、正面に立って、いた。

は?

俺は意味もなく空を眺めたりと辺りをキョロキョロしてから再度同じ正面を確認する。

やっぱり美影が立っていた。


混乱を極めていた脳内は一気に氷河期に突入。何も考えられなくなる。

それでも芽吹く2つの疑問は、静かに俺を紫色に変えていく。いまなぜ美影がここにいるのか、そして、よりにもよってなぜ今なのか。


とりあえず、さっきまで名前を呼びかけといて俺から美影に言える言葉はこれだけだ。


よんでないYO。


「雨音さん……」


「ち、違う!誤解だっ!」


叫ぶのはドラマなど浮気現場を抑えられた夫の言葉。修羅場みたいになっているけど、今の状況は笑えない。それでもなお、俺に抱きつく梓ちゃんは、セーターにひっつくカブトムシみたいにはがれそうになかった。


美影……タイミング悪いよ!

だから今は呼んでないって!

見なかったことにして回れ右して!

つうか、いつになく複雑化してきたな、おい!勘弁してくれよ!まじで!




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