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33(3)


明日も更新します。

書くことが思い浮かばないときの更新予告!


無駄に体力をつかわされた怒りは簡単には払拭できない。

とはいえ場所が場所なので俺自身の評価を落とさないような声の大きさで二人に説教する。

大人な注意だ。


「呼び出すんなら山本先生を呼び出せ!悪戯をするタイミングじゃないでしょ!」


↑大人な注意。

俺の言葉を受けた柚ちゃんは目を合わせないで、そっぽを向いたままである。


「ええっ、悪戯?なんのことですかピューピュ」


「…口笛ふけないならやるなよ」


口でピューピュー言ってるだけじゃないか。


「失礼な。吹けるよ。スースー」


吹けてないよ。


「二度手間でしょ!大体こんな悪戯して困るは君たちだろうが!」


「柚ちゃん。違う。もっと息を優しく」


「こ、こう?ふーふー」


「だいぶ良くなった」


「話をきけぇ!」


呼び出しといてシカトかよっ!

俺の心からの叫びにようやく柚ちゃんと梓ちゃんはめんどくさそうにこちらに視線をやった。


「それでなんなんです。話って?」


「つまらなかったら幻滅する」


お、女を殴りたいと思ったのは生まれて初めてだ。

……落ちつこう。彼女たちは楓の妹だ。殴ったらマズい。うん、いろいろと。

ひとまず大人の余裕で二人を許して要件だけ短くいこう。


「君たちが探してる山本先生だけど学食にいたよ」


「「えっ!?」」


二人同時に声をあげた。

そこまで驚くようなことかと思ったが、二人にとってみたらはぐれた親を探す迷子みたいな存在なんだから大変なんだろう。

……それだけ困っているなら放送で呼び出すのをやっぱり俺じゃなく先生にすりゃ良かったんだ。


「それを早く言って下さい!」


「い、急がなくちゃ」


俺の発言を邪魔していたのは間違いなく君たちです。


「ああもう。めんどくさいけど引率の先生いないと施設が回れないし……」


「行こう、柚ちゃん。学食へ」


「うん行こう」


「……」


口では行動を促す二人だけど足が全く動いていなかった。

まるで根でもはったかのように突っ立っている。


「学食って、どこです?」


「……いいよ。ついて行く」


場所がわからないから動きようがなかったんだな。

俺は年上として彼女たちを優しくエスコートすることにした。


「どうも」


「ぐずぐずしてるとまたはぐれちゃうよ。ほら早く!モヴェーレクルース!」


そりゃこっちのセリフだ。


「はいはい。学食はこっちだよ。焦らないにしても少し早めに足を動かそうか」




そんなこんなで行きと同様駆け足で学食に到着した俺らだったが、さっきいた位置に山本はおらず、あとにはただ斎藤が食後のお茶をすすっているだけだった。

一応辺りを見渡して見たが、やはり先生の姿はない。

どこに行ったんだ、あの人は。俺が離れてからたかが5分ばかししか経っていないだろ。


「斎藤」


証人斎藤。すべてを見てきたであろう彼にどういうわけか訊いてみることにした。


「ん?なんだ」


「山本先生はどこに行った?」


「うおっ、女子中学生再びっ!」


振り返るなり、俺の質問とかなにをかもを振り切った言葉が彼の口から飛沫と共に吐き出される。きたない。


「いやぁ、さっきぶり。なんかもう運命の再会だよね?どう?コレを機会に俺と付き合っちゃわない?」


随分安っぽい運命だな。なんでそういう思考に至るのか、今度時間がある時に小一時間問いただしたいところだ。


「……えーと、誰です?」


「むっ。非道いなぁ。もう忘れちゃったの?ほらさっき雨音と一緒に会ったじゃない」


「柚ちゃんわかる?」


「ん〜、いたような気がする」


随分と記憶力がない……というわけではなくただ単に嫌がらせなのだろう。

斎藤はその反応に、ショックを表す、アメリカのホームコメディドラマみたいなリアクションをとった。首をふりながら片手で頭を抱えるアレだ。

それを流し目で呆れたように二人は見ている。斎藤もよく恥ずかしげもなくできるな、あんな古典的リアクション。


「……存じ上げません」


「むう」


「すみません。まったく記憶にないです」


「いやはや何とも。俺は心が広いからこれっぽちも気にしないけどね」


「あ、いや」


「忘れられたなら新しい思い出を作り出せばいいじゃないか。50回目のファーストキスだろうが101回目のプロポーズだろうが関係ねぇ。好きという感情さえあれば男は生きていけるもんさ」


斎藤、名(迷)言リストに新たな言葉が加わった。

個人的には彼の人物紹介の時、後ろに浮かばせたいセリフナンバーワンだ。

そして若さ故の過ちに一生苛まれて悶死しろ。


「こっちにはないから」


自分ではかっこいい発言をした気になっているようだが、相手方の中学生にしてみると何をとっち狂ったこと抜かしてんだ?コイツ、てな具合であり、現に柚ちゃんと梓ちゃんは無表情のまま不快感を露わにするという不思議な現象を引き起こしている。

って、違う!

そんなことより、今重要なことを訊かなきゃ!

バカみたいなナンパをしている三者の間に割り込んで俺は再度斎藤に質問を浴びせることにした。


「ねえねえ、別にいいじゃん。そんなに年齢差ないし、俺と付き合ったら優し〜くエスコートしてあげるよ」


「そういうの間に合ってるから」


「えっ?なにもしかしてカレシいるのッ!?」


「……いないけど」


「だったら試しに俺と、」


「おい斎藤。俺の質問に答えろよ」


見苦しくも引き下がる斎藤に大きな声で呼びかけた。

梓ちゃんがあそこまで不快感をあらわにしているのによくしつこくナンパできるな。いくら半分冗談だとはいえ。……冗談だよね?


「んあ?ああ、わかってるって。どうしたらゲレゲレを倒せるか、だろ?まずビアンカのリボンを……」


「違わい!お前話訊いてなかったな!」


「し、失礼な。訊いてましたよ。イオナズンはフローラが覚えるって」


思わず頬が引きつる。

なに言ってんだ、こいつ。


「テメー、ふざけんのも大概にしろよー。こちとら切羽詰まってんだ。さっさと質問に答えやがれ」


「う、あ、ひ、ひとしこのみはリメイクじゃ出来ないぜ!」


「おい斎藤」


「……すいまセェン。僕嘘ついてましタ。雨音の話なんて全然訊いてませんでした」


だったら最初からそう言えよ。

無駄になった時間と文章量をかえせ。殊勝な態度になるのが遅すぎる。


「……まぁ、いいや。もう一回言うからよく訊いとけよ。山本先生はどこに行ったんだ?あの人に用があるんだけど」


「山本、先生?」


ふと、斎藤はとぼけた表情になった。普段からさして変化はないけど微妙にだ。


「あれ、会わなかった?お前が職員室に行った後、遅れてあの人も職員室に向かったんだけど?」


「む?すれ違ったか?」


「ああまさしくすれ違いだな。宿屋に人が来るくらいすれ違いだ」


「ゴメン何言ってんのかよくわからない」


「ッチ、これだからレトロユーザーは。デボラについてお前とは語れないと薄々感づいてたよ」


そう言って斎藤はお茶を啜った。

まったく話がわからない。なんでドラクエ押しなのかも理解できない。

でも、まぁ、一応教えてくれたんだしお礼は言っておこう。


「ほい、そいじゃサンキュー斎藤助かったぜ」


「はいはい。もうすぐ中休み終わるから気をつけろよ。俺はもう教室に戻るから」


淡黄色の壁にかけられた時計をチラリと見る。

三時間目開始時刻まで、準備時間をいれて15分しか残されていなかった。


「りょーかい」


斎藤との話を終えた俺は振り返って、黙って話を訊いていた二人に話かけた。


「だってさ」


「面倒なことになった」


さながら仙人のような口調で梓ちゃんが呟く。


「こんなことなら大人しく先生の方を放送で呼び出しておけば良かった」


「うん。全くもってその通りだね」


思い出し、プチぃ。

だけど過ぎた時間は取り戻せないのだ。

人は前に進むことしか出来ない香車のような生き物だからな。


俺達はまた学食を後にし、駆け足で職員室に向かうことにした。


職員室の雰囲気にさしたる変化は見られなかった。

当たり前だ。さっき離れてからまだ5分も経っていないのだから。

早速中に入った俺達三人は山本先生の席を見たが、先程同様空席になっている。不在らしい。だらしなく机の上に広げられたプリント類の山がそれを物語っていた。


「すみません」


「あら、また会ったわね」


「ええ、とまぁ、はい。あのところで山本先生がどこに行ったかわかりませんか?」


中途半端な敬語で目の前を通りすがった先生に話かける。

奇しくも先ほど梓ちゃんと柚ちゃんの頼みをきいた先生だった。


「山本先生?んー」


話かけられた先生は顎に指をあてて考えている。

それから思い出したように続けた。


「あ、たしか図書室に次の授業の準備をしに行くって言ってたわ」


「図書室ぅ?」


「うん。そう。何でも三時間目受け持ってるクラスが今、各班で調べ学習してるんですって」


またかよ。あいつ図書室好きだな……。

国語でなんの調べ学習をするのかはさておき、無事山本の居場所がわかった俺と柚ちゃんと梓ちゃんの三人はまた移動を開始することにした。


「ありがとうございました」


「はいはい。それじゃまたね」


ひらひらと笑いながら先生は軽く手を振った。

それに元気いっぱいに梓ちゃんと柚ちゃんの二人は振り返している。なんかもう仲良し、みたいな雰囲気だ。

俺がいない短時間の間にどれだけ打ち解けたんだ、アンタら。


「図書室ですか」


歩きながら柚ちゃんがポツリと呟いた。


「うん。そうらしいね」


「図書室はどこら辺にあるんですか?」


「すぐそこだよ。ロッカールームを越えた先。ウチの図書室はなかなか広くて有名なんだよ」


「へー。ということは蔵書数もなかなかありそうですね」


「そうだね。結構あるよ。といっても俺は本の虫というわけしゃないからあまり利用しないんだけどね」


「もったいない話です。図書室で始まるラブストーリーなんかに憧れたりはしないんですか?こう同じ本を取ろうとして手と手が合う見つめ合う、みたいなシチュエーション」


「そんな夢物語、リアルじゃおこらないよ。強いていえばパソコン出来ない機械音痴と自称口下手男の切なくも甘酸っぱくもない電波青春劇くらいしかないかな」


「なんの話ですか?」


「ん、いや、こっちの話」


とかなんとかやっているウチに図書室に到着してしまった。

盥回しはこれで終わりにしたいところだ。図書室にいるらしい山本先生にこの二人を預けて早々に教室に帰り次の授業の準備でも開始したいところである。

そうと決めたら行動は早い。

図書室の扉を開けて中に入った俺達は早速山本先生を探すことにした。





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