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投稿した後の作品を見返してみると、『ここはこうだったほうが良かったなぁー』とか、『日本語間違ってんじゃん』ってのが見えてきて直したいとは思うんですが戒めとして残しておく事にします。面倒だからじゃないですよ。
「こっちが1組であっちが2組、双方とも外で模擬店をする予定っす」
「なるほど、で、3組は?」
「3組は、まぁ、俺のクラスだけど…、お化け屋敷です」
「出店名は?」
「ダークハロウィン」
「なんだそのダサいネーミングは?今時の小学生だってもっとマシなネーミングできるぞ。大体一般公開の時にはすでにハロウィンは終わってるじゃないか」
「俺に言われたって気が付いたら決まってたんスもん」
「抵抗くらい出来るだろ、呆れたよ。準備は進んでるか?」
「俺は内装の方を担当したんですけどもうほとんど終わってますよ」
「ストレートに聞くぞ、お前が客だったら楽しいと思えるのか?」
「つまんなくは…、ない、と思う。多分」
「なんて曖昧な判断だ。まぁ、いい。次行くぞ、4組だ」
「ラジャー」
一ついいニュースを言おう。
今の俺の格好についてだ。
あの後、
部長はニヤリと笑って、手の甲のコインを俺たちに見せた。
10円玉には平等院鳳凰堂はなく、昭和33年という文字と10という数字が書いてあった。
裏。
運命の女神、もとい美影が俺に微笑んだのだ。
「ッチ」
露骨に舌打ちをうつ部長。
悪いけどそういう運命だったと思って諦めてほしい。
「しゃ!」
知らず知らずのうちに俺はガッツポーズをとっていた。
「…雨音、剣道の試合でガッツポーズしたら負けになるって知ってたか?」
「へぇ、そうなんスか。それでぇ、それがどうかしたんですかー?」
「っぐ」
いつもやられている仕返しだ。盛大に喜んでやれ。
「ふん、まぁ、いい、早く事前調査に行くぞ。パパッとやるからそんなに時間は食わないはずだから」
「はーい」
と、いうわけだ。
つまり、今、俺は普通の男子高校生が着るべき制服を着て部長と一緒に歩いている。かつらも化粧ももちろんしていない、素の『俺』の状態、なんだか開放された気分だ。
全く、こんなにも心臓が痛むのは部長のせいだ。もし心労で逝ったら全部彼女の責任だからな。
ちらりと部長を見る。
無駄に整った柿沢秤部長の顔がそこにはあった。部長はその性格さえ前に出来過ぎ無ければなかなかモテるのだ。
そんな部長と一緒に歩いていると周りの男達からの羨望のまなざしがたまらない、それはそれで俺に何とも言えぬ優越感を与えてくれる。
なんていうか『勝った』っていう感情?
「ここいらで引き上げるとするか」
部長と俺は一通り回った後、部室に一旦戻る事にした。
ざわ…、ざわ…、ざわ…、
それにしても前日になると昨日までが嘘みたいに活気が出て来て大わらわになるもんなんだな。
昨日なんて無気力過ぎてもうすぐ文化祭なんて嘘みたいな感じだったのに、一日経つだけでこんなにも雰囲気が変わるなんて驚きだ。
…効果音と光景があってない場合がありますが、仕様です。
「入るぜ」
部室に入る。
中には和水と楓しかいないため外の喧騒に比べたら中は随分と静かだった。
「芳生と美影は?」
「二人ともクラスの手伝いに行った。会わなかったか?」
「いや、会って無い。美影はお化け役やるから打ち合わせにでも行ったのかな」
「ああ、そんな事言ってたな。美影は打ち合わせに、芳生は模擬店の買い出しに向った。うちのクラスの焼きソバの隣りでお好み焼きをするそうだ。…おい、和水、まだか?もうすぐで一分経つぞ」
「むぅう〜、もう少しだけもう少しだけ待ってよー、ここに角を持ってくると桂馬で取られて…」
俺の質問に答えてくれた楓の正面に座っている和水がいつもに比べやけに静かだと思ったら楓と将棋を指していて次の手を考えていたかららしい。
和水が将棋のルールを覚えたのはつい最近、駒の動き方を完璧に覚えたのは一週間前、始めて勝ったのは三日前(芳生相手に)の事、ちなみに俺はそろほど強くないが、彼女の一手をみていると間違いなく弱いという事が分かる。
「ここだわッ!」
ビシィ、と進めた駒は飛車、残念、そこは角の射程距離内だ。
そんな彼らの試合を椅子に座ってぼんやりと眺める。
というか、なんか違和感があると思ったら和水の格好が制服じゃなくてさっきまで俺が着ていたメイド服になってるじゃないか。
なんであいつ自分とこの使用人の服なんか着てんだよ。
「王手」
ピポン、詰みです。
「負、け、たァあ〜」
決着に時間が結構かかったな。原因は和水の思考時間の長さだろうけどね。てか、あいつの服装がほんとに気になってきたぞ…、いいや、聞いちゃえ。
「和水、お前なんでそんな格好してんだよ」
「そんな格好って?」
「いや、だから、…メイド服」
「ああ、これね。たまにはお世話になってる人たちの気持ちも理解しなくちゃねって」
「お世話になってる人々?」
大抵の人はお前には世話焼いてるけどな。
「だから下々の人達の気持ちよ」
下々って、くそぅ、金持ちがぁ、しかし実際に金持ちだから文句も何も言えねぇー。
「てめぇ〜、和水、下々をなめんなよ!」
「別になめてないわよ。実際に上と下とがあってたまたま私が上で他の人達が下だっただけじゃない。対した違いじゃないわよ、同じ人間だって事には変わりないんだし」
「む、その通りだが…」
「だが、お金がある人が羨しいのは俺が下々の人だからかな?」
む、なんだ、何処からか負のオーラが…、
「か、楓?ど、どうした髪の毛が逆立ってるが」
あの部長が珍しく怯えて楓を見据えて動けなくなっている。さっきの10円玉も使って自販機で買った紙コップのジュースを落としそうなくらい視線が外せていない。
オーラが…、俺は恐る恐る部長から楓に視線を動かす。
!
スーパー楓3だぁ!
鬼の様な形相で、和水を睨み付けながら楓はやおら立ち上がる。一体楓に何があったんだぁ!
「これが格差社会ってやつか…」
ゴゴゴゴ…
楓はいつか誰かが言ったセリフを言いながら界王拳を発動してるとしか思えないほどのピリピリとした空気を発している。
なんていうかグレイバッチがないと操れられないレベルの威圧感。
「か、楓?どうしたのかしら?」
和水でさえどこか怯えていた。
「テメーは俺を怒らせた」
っは、そうだ。思い出したぞ。あいつの家は貧しく、その上、貧乏子沢山の5人兄弟の上から2番目の長男、加えて兄弟は楓以外全員性別が女だという何ともドンマイな状況で育って、最近無事に父親の事業が成功を納め生計を立て直す事が出来たそうだが、それ以前があまりにも酷い惨状だったらしい。
「怒らせたって、なにが…?」
そんな楓の心情など微塵も知るよしも無い和水は何(どんな発言)が悪かったのか分からはずなく、急にいつもの冷静な楓がいなくなってしまった事に困惑している。
「分からないのかッ!貧しさに負けた、いいえ、世間に負けそうになった俺たち一家の気持ちがわからないのか!」
「いや、なに言ってるのよ!楓?あなた何か悪いものでも食べたの!」
「あぁ!いっぱい食べたさ、ゴミ箱の中にあるハンバーガーで体力回復させるなんていつもの俺の生活だったさ!」
「いやいやいや、なんの話してんのよ!」
「この五十崎楓は…いわゆる貧乏のレッテルをはられている、道端に落ちてるE缶を拾うなんてしょっちゅうよ、だが、こんな俺にも吐き気のする『ブルジョア』はわかる!!『ブルジョア』とはテメー自身のために弱者を利用しふみつけるやつの事だ!だが、法律にはふれていねぇ…、だから、俺が裁く!!」
「ブルジョア?新しいコーヒーの商標かなんか?」
「オラオララ!」
楓は手に持っていた文化祭のパンフレット丸めて和水に襲いかかった。
「きゃぁ!ごめ、ごめ、謝る、謝るから、そ、そうだ。これでチャラにしましょ!」
いまいち何が悪かったのか理解出来ていない和水は財布から紙切れを取り出すとそれを地面にまき、楓の様子を窺いながら後ろに2、3歩後退した。
「これは…」
「年末の大きな夢…」
「まさか、」
「宝くじよッ!」
地面にあるのは無限の可能性を秘めた紙切れだった。
「こ、これを俺にくれるのか!?」
「えぇ、あげる。だから今回の事はこれで終わりにしましょ!」
「宝くじってのは一枚200円はする…それを俺にただでくれるというのか?」
「しつこいわね、あげるってば」
「本当にいいのか?お前も当たったらなにか欲しいものでもあるんじゃないのか?」
「私が当たったらその宝くじで買えるだけまた宝くじ買うだけだもの」
外れるまでの続くサイクルですね、金持ちの道楽だな。
「なんか悪いな、だが、いつもは人からのほどこしは拒否する俺でも、和水の好意を無駄にするわけにはいかないな。これは有り難くいただくぜ、ただ一人キレてた俺がバカみたいだったな」
そのから楓は和水に謝ってから椅子に座ると、文化祭のパンフレットの冊子を広げ、
「当たったら本がいっぱい買えるな、今のうちに欲しい本のリストでも作っておこうか」
と皮算用を始めた。
いつもの低血圧楓に戻ってる。
「ふぅ、なんだってのよ」
その隣りで和水も溜め息まじりに椅子に座り
「雨音、将棋指しましょ」
俺の方を向いて言った。
「いいぜ」
俺もその提案に乗り楓にちょっとどいてもらい、和水と向き合う形で座る。
和水は楓に聞こえないように俺の耳元で囁いた。
「あの宝くじ、去年のだけど」
「なんだそりゃ、楓のやつけっこう喜んでんぞ」
「私だって悪いとは思うけど『他人に恵みを与えてはいけない』ってのが水道橋家の家訓だもの。言わずもがな楓の事もそうだけどね」
「あ〜あ、知らねぇぜ、楓は本当に貧乏の話になると性格が変わるからな」
「本当よ、驚いたわ」
それから15分後、将棋の決着がついた。
結果は言うまでもないだろう。