第0話
激しくパロディを入れる予定ですので苦手な人や嫌いな人は読まないで…、とまではいきませんが了承しといてください。
右手には丸めた新聞紙。
左手にはお鍋の蓋。
頭にあるのは紙風船。
なんとも珍妙な格好だが、これは小戦争、格好いい、良くないよりも大切な事は勝つか負けるか、その二つだ。
ルール。頭の紙風船を割られたら負け。割ったら勝ちというシンプルイズベスト。
敵は4体。
今日こそ勝ち残ってあいつらにオレの存在をアピールしてやる。
そんな意気込みをもって挑戦したはいいけど、
今日も暑いなぁ。
そんな熱気にやられてすぐにやる気が無くなってしまう。
突き刺さるようなセミの鳴き声を鬱陶しく思いながら空を見上げると大きな入道雲が浮かんでいて、まさに夏!というのを象徴しているかのようだ。
日陰にあるベンチに腰掛けたいとは思うが今は戦時下、そんな余裕と油断はしてはならない。
「雨音とったりぃ」
「っぬ!」
突然の背中からの攻撃を体を反転させ、左手を突き出す事でなんとか防御する。
危ねー。鍋の蓋持って無かったら殴られてたよ。
「くそ!勘のいいやつ」
目の前に突如として現れた木の枝を持った少年、芳生は悔しそうに地団駄をふんで、ビシッとオレに枝を向けてきた。
土宮芳生。羽炉高校第1学年。オレとは同じ部活の友人で悪知恵が働くが基本天然。
「いや、攻撃する前にそんな事叫んだらだれだって…」
「だが、それだけじゃどうにもならない事を教えてやる。この青龍厭月刀でね!」
「…」
誇らしげに掲げているのはやっぱり木の枝だ。
しかも随分と細っちい。
つうことは、さっきから気になってたんだけどズボンのゴムにはさんであるフサフサした馬の尻尾みたいなのは…
「赤兎馬さッ!」
「心を読むな!」
「さぁさぁ、我こそは関羽!いざ、尋常に勝負せい!」「シカトかよ!つか、さっき後ろから襲いかかったじゃん!?」
尋常も何もあったもんじゃないじゃないか!
「黙れ!くらえ必殺ほーうてん、…がげきッ!」
関羽じゃなかったのかよッ!
芳生は枝を振り回しながらこっちに向かって走ってくる。
「や、やめろ、危ない!ヒュンヒュンいってる!枝を振り回すなッ!お前、あたっても痛くない武器にしろよ!」
「問答無用!魔神剣、双刃!」
「もはやなんでもありだなッ!」
だが、その雄叫びはゴングだと判断させてもらい、オレも反撃に出させてもらうぜ。
今こそうなれ、新聞紙、もとい選定の剣、エクスカリバー!
左手のお鍋の蓋で芳生の枝を軽くいなし、弾いて出来た隙をついて
ここだッ!
彼の死角となった紙風船を狙い新聞紙を振う。
「勝った!!」
しかし、人生とは思い通りにはなかなかいかないもので、芳生はなんと急にしゃがみこみ、見事にオレの攻撃は大振りで彼の頭の紙風船に掠りもしないで
「すかった、だと!?」
「まだまだだね!行くよ!秘剣燕返しぃ!」
うわッ!あいつの枝がしなって顔面に…
「危ねぇ!目の入ったらどうするつもりだ」
辛うじて避ける事が出来た。マトリックス避けを練習しといて良かった…。
「良い子は真似しちゃダメだぜ。もちろん悪い子普通の子もだ」
「お前もやっちゃだめだろ!」
「…ヤッチャッタ、テヘ」
「テヘ、じゃ、ねぇよ!」
オレの新聞紙が火を吹くぜ?
「双方とも武器を納めい!帝王のごぜんであ〜る!」
いきなり、間の抜けた大声がオレたちのバトルフィールドに響きわたった。
て、その声は…
『和水!?』
「フフフ、その通り、私の名は水道橋和水。帝王、和水様よッ!」
ドン!
いきなり登場したはいいが、いきなり現れたはいいがどこかの世界にトリップしていると見られる和水さん(16)。
本当にいつの間に現れたのだろうか…。その気配遮断スキルは認めよう。
水道橋和水。オレ達と同じ第1学年で親がかなりの金持ち。そんな金持ちの一人娘が何故オレ達の高校に通っているかは不明。
そんな和水に芳生は不機嫌そうに食ってかかっていった。
「何訳分からない事いってんのさ!僕達の戦いを邪魔した罪は重いよ!」
「フフフ、私はどんな相手にも勝てるコーメイばりの秘策を考えついたのよ!」
「秘策?」
はて、いっちゃ何だけど彼女はそんなに頭がいいほうじゃ無く、まんまいえば馬+鹿…、彼女がどんなに知恵を絞ろうと、たかがしれてるけどなぁ。
「聞きたい?聞きたいでしょ?」
「はいはい、どうでもいいけど、水をさされたからオレ達二人はお前を集中的に狙うぜ?」
「僕と雨音の一騎討ちを妨害したんだからそれくらい当然だよね」
「ふんだ。いいわよ!アンタ達は私に触れる事なく敗れさるんだからね!このまま第二次戦争は私の怒濤の勢いで優勝よッ!」
「あ〜、はいはい早くしてくん無いかなぁ」
ハッハッハ、勢いに乗じて『はい』って8回も言っちまったぜ。
「ザ・ワールド!時よ!止まれぇい」
「!」
な!
なんという奇策!
でも孔明を馬鹿にしてる気がする!
「ふふ、分かってるんでしょ?コレを言われた者はなにがあろうと…
動いてはいけない!」
うぅ。
もちろん、動こうと思えば動ける、が、しかし、それは誇りにかけてしてはいけない行為なのだ。
「ぐぬぬ…」
「1秒経過、2秒経過…」
最低9秒経過しない限り動くことが出来ない…ッ!
「4秒経過、ふふ、動けないのに後ろに立たれる気分てのはどう?雨音?」
それはお前のセリフじゃないだろ…。
とにかく耐えるんだ!誇りVSプライドの戦いに打ち勝て!
「6秒経過、そろそろ終わりにしてあげるわ」
そう言って彼女は…
「ロードローラーだッ!(OVAではタンクローリー)」
大きく右手を振り上げた…
パンッ
紙風船が軽快な音をたててわられる音がした。
ぐぁ、やられた。
おおアマネ、死んでしまうとはなさけない…
王様、お許しを…
「ん?」
衝撃がないな。
おそるおそる恐怖(?)のあまり閉じていた瞳を開けて広がる光景をみてみる。
そこにあったのは地面に落ちた紙風船の残骸、
オレのじゃなくて和水のやつの。
「え?なんで、なんで動いてんのよ!?」
和水の後ろに立ってある芳生は彼女の頭にくくり付けられていた紙風船を枝ではたく事なくその手の平で叩き潰していた。
一応和水も女だし、そこんとこは気を使ったのだろうか。多分、そんな事ないだろうけど。
「ロード?なんでもないような事が〜♪」
「ま、まさか、あなた…」
まさか、こいつ…
『知らないのかッ!?』
いかん、和水と被ってしまった。
てっきりみんな知ってるものだと思ったら、いや、まぁ、今回はそれに助けられたんだけどね。
「そんなぁ。完璧な作戦だと思ったのにぃ」
随分と穴があったと思うよ。
それ効くのオレくらいのもんだし、部長あたりには相手にもされないんじゃないかなぁ。
ひっかかった身としては何も言えないんだけどね。
「ま、気にすんな」
今のオレにはそれしか言えない。さよなら、最初の脱落者。
「あぅぅう、悔しいぃ」
和水は頭を抱えてそのままうずくまった。地面に拳を叩きつけ心のダメージを表している。(知能の)ライバルである芳生にやられたんだから、さぞや悔しさも一塩だろう。
「さぁ、雨音!邪魔者はいなくなった!決着をつけようじゃないか」
芳生は鼻息をフンと、いきり立って足を前に踏み出して、…あ、コケた。
「うわ」
「きゃひん」
うずくまっていた和水に躓いて。
芳生は顔面から勢いよくズデンと転んで、その拍子に彼の頭についてる紙風船の空気がプシューと抜けて萎れた。
うん、芳生には悪いけど、なんかオレ運がいいな。
ラッキョ食ってないのに幸運の星の下に生まれたのかもしれん。
あと、和水、ドンマイ。
目がグルグルと回しながら星を飛ばしている2人を横目に見つめ作戦を考える。
コレで残る敵は2人、秤さんに楓か、く、最後に手強いのが残ったか…。
「む、噂をすれば影がさす」
公園の入口の方から一つの頭に紙風船をつけたシュールな人影が走りこんできた。
どうやら我らが部活メンバーが一人、五十崎楓その人のようだ。
「来たな、楓!ぶっ倒してやるよ!」
「おァァ!ぬぉ!?雨音!?」
「貴様の紙風船をいただくぜ」
「助けてェェ」
「は?」
物凄い勢いのままオレをスルーして後ろに周りこむ楓。
あとに残されたのは一陣の爽やかな風と、たつ砂埃だけだった。
いた、目にゴミ入ったよ…。
五十崎楓
。
同学年の一年生。頭はいいが運がないし、金もない。中学校の時に一回ホームレスになった事があるらしい。…あえて突っ込まない方向で。
「逃げる!?なんでだよ!」
「起きたんだ…」
楓はオレの後ろにぴったりとくっついてまるで盾にするようにこそこそと隠れた。
「起きる?なんのはな…!」
その時公園に新たな人物が入ってくるのが見えた。
「楓?なぜ逃げる。戦士たるもの堂々としたらどうだ、女々しいにもほどがある」
「そんな格好でよく言えますねッ!」
あ、逃げた理由が分かったぞ。
新たな乱入者、柿沢秤が現れた!
コマンド?
にげる にげる にげる
「逃げろー」
オレを押さるように固定していた楓の腕を払い除け、秤とは逆方向にダッシュする。
だって、勝てるわけないよ!
あれ反則だろ!
まず第一にサバイバルゲームの格好をしている事
そして次に、彼女の手に持たれているエアーガン。
いくら今回のゲームの提案者だからって、限度があるでしょ!部長!
「止まれ」
ぱしぃ、足下で弾けるBB弾。
威力はさほどないが当たったら痛いのだけは確かだ。
「…はい」
素直に足を止める。
逆らったら身体をうってきそうなんだもん。
「てか、人に向けちゃダメでしょ!」
「撃つのは紙風船と私に逆らった豚だけだ。問題ない。」
「ありまくりんぐっすよ!」
さて、この人、柿沢秤は我が母校、羽炉学園のマドンナにしてオレの所属する『娯楽ラブ』の部長、普段は猫を被っていて部活内以外のみんなは気付いていないがかなりのSっ気のある女狐だ。
そんな彼女があらゆる娯楽を追及するという名目の『娯楽ラブ』の部長をする際に色々と問題があったそうだが、色々と長いので割愛。
『娯楽ラブ』の部員は全5名で、彼女だけが二年生。他は全員一年生という構成だ。
「楓」
「はいィ!?」
「一騎討ちだ。お前のその空のペットボトルの切れ味(笑)見せてくれよ」
秤さんは楓の右手に握られているペットボトル(彼の所有武器)にガンを向けて挑発した。
「…はい」
逃げ切れない事を悟ったのだろう、楓は大人しく秤さんと向き合って剣道よろしく、死合が開始された。
そして…
10秒後には元気に走りまわる楓の姿が…
後に彼はこう語る
『あの時は本当は早々にやられて楽になりたかったんですよ。でも、男の意地?プライドってやつですかね。そうです、全身全霊をかけて、まぁ、満身創痍でしたが』
「負けるかー」
ヤバい、楓、凄いぞ、かっこいいぞぉ。
あの秤さんに互角、いやそれ以上に戦ってるよ。
「っく、なかなかのペットボトル捌きじゃないか!楓、見直したぞ!」
「今学期の部長はオレがいただきですよ!」
ペットボトルをクルクルと回しながら秤さんのエアーガンから放たれるBB弾をパチンパチンと弾いて見事に頭の紙風船を守っている。
マジであいつどこかの剣豪とかやってたのかな。
「っち、弾ぎれか!」
秤さんのエアーガンがパスンパスンと虚しい音をたてている。どうやら弾が切れたみたいだ。アレだけパンパン撃ってたんたから当然だろう。
「チャンス!」
もちろんその好機を楓が見逃すハズがない。秤さんが弾を補填してる隙に一気にリーチを縮めていく。
「ふははは、血湧き肉躍るとはこの事か、ひさしぶりに本気だす事にするわ」
まさか、秤さん…
そう言うと彼女は懐から新しい拳銃を取り出した。
「二丁拳銃の秤、聞いた事ない?心弾(BB弾)装填、ここからが本当の地獄よ」
「…ごめんなさい」
「遅い」
ああ、空は青いし、風が心地よい。
喧しいと思っていたセミの声も慣れてみると素敵なハーモニーだったりしちゃうわけだ。
こんなに気分がいい休日は日陰でのんびりと居眠りなんてしたいなぁ。
「さ、待たせたな。最後の相手はお前か雨音?」
「…よろしく、お願いします…」
さよなら、お父さん、お母さん。そしてまだ見ぬ何処かの世界にいる妹よ。
頬を伝う今までの無邪気な日々は地面で弾けて土に染み込んでいった。
露と落ち 露と消えにし 我が身かな 部長の事は 夢のまた夢
(雨音 16、辞世の句)
「今学期の部長も私、柿沢秤に決定。異存はないな?」
「異議なーし」
みんな口をそろえて言う。
反則級な装備でも勝ちは勝ちだ。
オレ達部員は公園の芝生に横一列に並ばされ、気を付けの姿勢で部長の話を聞く。
回りの目が痛い。
何というか、その、「いい歳こいてなにやってんだあいつら、ぷぷ」みたいな視線。
コレは罰ゲームなのだろうか。
こんな争いに参加した時点で罰ゲームと大差はないのだが、負けた敗者は口答えしない。たとえ大人気ない方法でも勝ちは勝ちだ。
『常に遊びに真剣であれ』
部長の持論には誰も敵わないだろう。
かくして、二学期『娯楽ラブ』の部長決めは柿沢秤の二連破で終わりを告げた。
悔しくなんかないんだから!
「それでは、部長の権限を再度発表させてもらおう
1、偉い
2、敬語を使え
3、命令には絶対服従
4、逆らった者には罰を与える」
高らかに宣言する部長以外のメンバーはみな眉をしかめて溜め息をついた。
こうして、2学期も独裁政治がスタートしたのだった。
前途多難だ、文字通り。
TO BE CONTINUED…