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6 誕辰



城の厨房関係の部屋は幾つもあります。



まず、メインとなる料理を作る厨房室があり、その隣は、通常のディナーを配膳する配膳室。晩餐はその人数によって使う広間が違いますので、広間の隣に配膳室が各広間にあります。



今日は、イセプロン王国の王であるヒンデンゲルグ生誕82年の祝賀会なので、各国の王室の者や首脳たち、もしくは大臣が招かれていました。


また、国内でも王室に関係がある親族や貴族、そして各大臣たちも例外ではありません。




ですから、広間は城で一番大きい広間になります。




厨房室隣の配膳室には王妃が総料理長と一緒に、料理の出来具合を最終チェックしています。


「このスープは、アドリア王国のヒメリア妃には濃すぎるわ。ナスター。チトーヌに付き添ってもう一度作り直してちょうだい。微妙なところだから、あなたが教えてあげて。あまり叱り付けてはだめよ。料理に反映されるから。」




王妃ルイーゼは、ヒンデンゲルグが60歳を過ぎてから妃になった女性です。その時、彼女は18歳になったばかりでした。





アドリア王国の国王ヘイムッソーの第9王妃の娘が彼女でした。





彼女は、ヒンデンゲルグが若い時に(めと)った妃が子供を産まずして死んで以来の2番目の妃として迎え入れられました。



妃を迎えるまでヒンデンゲルグは、戦争に明け暮れていました。





それは、ヒンデンゲルグにとっては、勇敢なる戦績となり、国民からは国の英雄として崇拝されるほどでした。





しかし、若くして妃を亡くして以来、彼は妃を愛しすぎて新たに妃を取ろうとは思っていませんでした。




しかし、60歳を過ぎると、世継ぎ問題が浮上します。


また、度重なる戦争も、自らが指揮を執ることもなくなってきて、この問題に向き合わねばならなかったのです。




ルイーゼは、若く美しい女性で常に献身的に王と共に妃として、3人の子供を産みました。







それが、フリードとジーク、そしてエーリッヒでした。



3人の教育係として、彼女はイセプロンで最も信頼している賢者ヘルムートをつけるなど、3人に使える者をすべて、彼女が選びました。






彼女は総料理長と話し合いながら、晩餐に出される料理をチェックし終わると、総料理長に言います。


「そうね。これなら大丈夫ね。あとは料理長。あなたに任せるわ。お願いね。」


料理長が「畏まりました。」という言葉を聞き終わると、

足早に御付の従者たちと共に配膳室を出ていくのでした。







彼女は、多忙です。







今回の料理に対しても、各国からくる来賓個人個人の好みまで把握していなければいけません。


国王が外遊するときに付き従い、そこで会う各国の要人ひとりひとりをよく把握するために、従者に個人情報を記録させて、国に戻ったら、記録の整理をして、個人個人を記憶していかなければなりません。




また、晩餐会当日だけではありません。




料理は、晩餐会の予定が決まった当日からメニューを総料理長と打ち合わせて作りますし、会場の選定、王との謁見室のチェック、王室関係者の衣装全ての選定、城に宿泊する者の段取り、城下町のホテルに泊まる者のチェック、また、そのホテルまでの配送と出迎えなど、様々な事を決めていかねばなりません。




彼女は言わば、総合プロデュースに値します。





王様の御妃(おきさき)様となれば、優雅にのんびりとお茶でも飲んでいるなど大間違いです。






その都度、着る服を選び、デザイナーと共に服をデザインするなどしています。それから、城の清潔さのチェックも怠ったらいけませんし、様々な行事にも出席や視察にも行かなければなりません。のんびりできる時間などごくわずかです。


また、貴族たちとの交流などは、貴族出身の政治家である魔導士たちの裏事情まで聞いて、情報を城に帰って整理するなど多岐にわたります。






厨房でのチェックが終わったルイーゼは、子供たちの衣装を見るために、王子達の部屋に向かいます。


王子達の部屋は、王子達が一堂に会する待合室を中心にして、その部屋から王子達の個室に扉一枚で繋がっています。






ルイーゼは、王子達が待っている待合室からやって来たメイドに状況を聞きます。



「どう?王子達は皆着替えたかしら。」



メイドは、ルイーゼ手前で立ち止まり一礼している間に通り過ぎる彼女に付き従いながら答えます。

「はい、お着替えは滞りなく終わりました。」


「そう、街で女を拾ってきたと聞いたわ、彼女はどうなったの?」

「女は怪我をしていたので、魔法で直しました。」

「エレメント人だったわね。自分の怪我も魔力を使わないなんて、徹底しているのね。」

「お妃様。女は(いた)く感謝しておりました。」

「そうなの?丁重に返しあげたのね。」

「はい、その通りに致しました。」



ルイーゼは、立ち止まり扉を開けます。



彼女は、両手を広げて、待合室で談笑している三人の王子を出迎えます。



「お帰りなさい。王子達!」



エーリッヒが一番に走って、王妃に抱き着きます。

「母上様!」


ルイーゼは、エーリッヒをギュッと抱きしめて出迎えます。


遅れてジークがやってきて、エーリッヒを抱きしめるルイーゼに話しかけます。

「母上、お久しゅう御座います。」

「ああ、ジーク。私にもっと顔を見せて。」

ジークは頬を赤くして、母ルイーゼに近づきます。



ジークが近づくと、エーリッヒと同じようにギュッと抱きしめるのでした。



彼らにしたら、母親とは英才教育のために離れ離れになっている身。毎日小言を言う母とは違います。



彼女も愛する我が子と離れて暮らしているので、嬉しい気持ちで一杯でした。






また、同じ城で公務に来ているジークとフリードとも会えず終いなることも多かったのです。






「母上、お元気そうで何よりです。今回も大変なのでしょう?」

フリードが少し離れてルイーゼに声を掛けます。



彼女は、フリードに近づくと彼の成長ぶりを頼もしく思います。

「また、身長が伸びたようね。少し見ない間に、また、立派になったんじゃない?」


フリードとは、ハグで済ませてそう言います。




彼は照れながら、母ルイーゼに言います。

「街の女を介抱してもらい、有難う御座います。」

「ローゼンハインツの私兵がやったそうね。話は聞いてます。国の女性を助けるなんて、母は嬉しいですよ。」


エーリッヒが頬を膨らませて、ルイーゼに言います。

「母上、助けたのは私です。兄上は、おいしい所を持って行ったんです。」


フリードは、頬を膨らませるエーリッヒを見て、可愛いなと思いながら謝ります。

「すまない。エーリッヒ。しかし、第1王子の俺がいて、何もしない訳にもいかない。俺がああ言わなければ、ジークの立場も悪くなる。勘弁してくれ。」


「そうですよ。エーリッヒ。お前の働きも素晴らしいものだけれど、お前だけ良い恰好をしては、兄上たちの立場を悪くします。そうなれば、王室の権威も悪くなってしまいます。気を悪くしないでね。」



彼女にそう言われると、膨れた頬を治めて、今度は頬を赤くしているエーリッヒでした。

「それは当然のことだわ。お兄様方、ごめんなさい。怒ったりして。」





素直に謝る所も、可愛らしいエーリッヒでした。





「さぁ、父上に挨拶に行きましょう。」



ルイーゼがそう言って、王子達を引き連れて、王の間に向かうのでした。








王の間ではヒンデンゲルグが深々と専用の椅子に座り、恰幅が良い体形を椅子に預けていました。







彼は、いかにも軍人らしいワインレッドの制服に、王である称号のバッジを左胸に着けています。


バッジは、イセプロンの家紋が細工してあります。家紋は王の盾に鹿が左右に二頭、後ろ足で立って向かい合わさっています。その後ろに向かい合う二頭の鹿を包み込むように燃え盛る太陽が形どられています。






彼は、王直属の従者長ドリントルと衛士長シャルンホルストの二人と来賓のリストを見て打ち合わせをしています。


彼は四角い顔にカイゼル髭の先をつまみながらリストを見ていると。



扉が開いて、王妃と王子達が入ってきます。



エーリッヒは、ヒンデンブルグが瞳に映ると一目散に走って、彼に抱き着いて胸に顔を埋めます。


「父上!お会いしとう御座いました。」



「これ、エーリッヒ!まだ、公務中であるぞ。」

ヒンデンゲルグは、抱き着いた我が子を嫌な顔一つせずに、喜びながら叱ります。



エーリッヒは、顔をあげると溢れる嬉しさを表情に出して、父ヒンデンゲルグを見つめます。

「お元気でしたか。最近お風邪をひいたとお聞きしましたが。」

ヒンデンゲルグは思い出したように、咳をします。


「ゲホッ!ゴホッ!ゴホン!どうやらまだ風は治っとらんようだな。なにか、熱もまだあるようだ。」



「え!本当に?」



エーリッヒが心配になって、ヒンデンゲルグの額に白く美しい手を当てます。








「嘘だよ。」






ヒンデンゲルグはそう言って、エーリッヒの両頬に両手を当てて柔らかい感触を楽しみます。

「もう、お父上まで、私を揶揄うんですの?」


ヒンデンゲルグは、怒るエーリッヒを楽しんでいます。


「お前の、怒った顔は世界一可愛いからの。つい揶揄ってしまうんだよ。皆もそうだろ?」


誰もが、この親子の微笑ましさに、笑みを浮かべずには負えませんでした。



そして、改めて見つめ合う王と第3王子でした。


「元気にしているようで、何よりだエーリッヒ。」


フリードがエーリッヒと入れ替わって王の前に行き片膝をついて、王に祝いの言葉を向けます。

「父上、お祝い申し上げます。」

「おお!フリード。また、ひと月前に会った時より、背が伸びたようだな。どうだ、剣士の腕前は?魔法は何を覚えた?」

フリードは、少し照れながら王を仰ぎ見ます。

「はい、来月、聖剣士の称号を受ける予定です。」

王は甚く喜びます。

「なんと、14歳にしてもう聖剣士の称号を得るのか!聞いたかルイーゼ。もう聖剣士の称号をこの私がフリードに渡さねばならんのだぞ!」


「ええ、フリードがこんなに立派になるとは、あの泣き虫だった頃が昔のように思えます。」

そう言って、ルイーゼがジークに付き添われながら王に近づいてくるのでした。



王はルイーゼに付き添っているジークを見つけて、嬉しそうに目を細めます。

「これ、ジーク。恥ずかしがっとらんと、私の近くまで来なさい。お前の名前は兄フリードの上につく名前だ。兄に遠慮せずに堂々とこっちに来なさい。」

王に言われて、トコトコと王の前にいるフリードの隣に行くと、フリードと同じように片膝をつきます。



「ご機嫌宜しく、この度は生誕82年のお祝い、素晴らしき日と思います。」



王は、少し(しか)めっ面をしてフリードとジークを見ます。


「遠慮はいらん、二人とも私にお前たちを抱擁させてくれ。」


二人は立ち上がり、ジークが先に王とハグをして挨拶します。



「会いたかったです。父上。」



王はその一言が聞きたかったのです。だから、王は感激に打ち震えます。



「私もだ。ジーク。元気にしていたようだな。」



フリードも、ジークと入れ替わって王をハグします。

「私もお会いしとう御座いました。」








王はフリードを見て溢れる喜びを抑えることは出来ませんでした。

「公務ですぐ近くまでいるのに、会うことが出来ない王を許しておくれ。」





王は、3人の王子に会えただけで涙を浮かべます。








王は高齢で、老衰が進行して政務も一日の4時間ほどです。ですから、例え王子と言えども例外にはなりませんでした。



フリードは言います。

「父上のお顔が見れただけでも光栄です。」

彼も、王が活動できる時間が数時間しか活動できない事をよく理解していました。ですから、一年の内、片手で済ませるくらいしか会えません。ともすれば、一回会えれば良い方でした。





王の間の扉が開き、メイドが入ってきます。


「王妃様、謁見の間の準備が整いまして御座います。」

メイドは、全て王妃の下につく者達です。ですから、何事も王妃に報告します。




「解りました。すぐ王が参りますので、そのように計らいなさい。」

「畏まりました。王妃様。」

メイドは一礼するとすぐ出ていきました。




王がフリードとジークに支えられながら、弱弱しく立ち上がります。


「すまんのぉ。子供たちよ。こんな老いさらばえた王を許しておくれ。」


そう言いながら王は立ち上がると、三人の王子に付き添われながら謁見の間に向かうのでした。






謁見の間には玉座があります。政務の公式の儀はすべてここでやります。





謁見の間の一番奥に、剥製となった巨大な二頭の鹿の頭が左右に飾られています。









その昔、この二頭の鹿は健国王を導き、この地に国を開けと教えたそうです。そして二頭の鹿は健国王と共に戦い、王を勝利に導いたと言われています。やがて、二頭の鹿は死に。そして剥製となって代々この謁見の間を見守って来たと言われています。








そして、二頭の鹿の間にある玉座に、ヒンデンゲルグはドカリと座って、来賓専用の待合室から順番に国賓がやって来て王に祝いの挨拶をするのを受けるのです。








王子達は床から5段上がった玉座より2段下がった位置から、フリード、ジーク、エーリッヒの順に一段ずつ立っています。


王妃は玉座の隣の椅子に座り、来賓の挨拶を受けます。


ヒルデンゲルグの傍に衛士長シャルンホストが王と共に来賓の挨拶に受け答えをしています。







王と王妃に挨拶が終わると、去り際に王子に挨拶をして、晩餐会の会場へとメイドに案内されながら、謁見の間を去っていきます。






謁見の間の入り口は、王室専用の入り口が玉座の近くにあります。それ以外の入り口と言えば玉座から対面の方に入口があります。その入り口は壁を取り払われて吹き抜けになって廊下に続いています。廊下はベランダになって、闇夜に街の明かりが城壁の向こうに見えています。







その景色が玉座からも見えるように造られています。






来賓の挨拶が終わると国内の親族や貴族たちの挨拶になり、入り口にいる従者が一人一人声を張り上げて名前を王に告げます。







エーリッヒは、この間退屈でした。







ただ、立って挨拶するだけで、誰が誰なのか解らないし、知っている人などいないからです。




欠伸をしそうになるエーリッヒは必死で堪えていました。

しかし、次は眠気が襲ってきます。


「ねぇ、まだ挨拶は終わらないの?」


隣のジークに小声で言います。

ジークはジークで、たまに知っているものと会ったりはするものの、それ以外は知らない人ばかりなので、エーリッヒと同じように、眠気と格闘していました。

「まだみたいだ。お前も眠いのか?」

「うん。でも安心した。お兄様も同じで。」




ジークは、第3王子と一緒にされて笑います。




「あと少しだよ。最期がローゼンハインツだと聞いてるから。」

そう言うと、従者が声を張り上げます。










「経済担当官ローゼンハインツ様!」








従者の声の後に、薄暗い闇に包まれているベランダから一人の女聖魔導士が現れます。


背中の中程まで伸びた金髪の彼女は、白いローブに身を包み左胸に二つの剣が交わるところに鷹が羽を広げている紋章を、ふくよかな胸の上に着けています。白いローブには赤い刺繍で燃え盛る炎をデザインされています。






彼女は美しくも野心に燃える顔つきをしていました。






彼女は、ゆっくりとした足取りで王子達を横目で見ながら前を通り過ぎます。


エーリッヒは、嫌悪感を表情に出してローゼンハインツを見ていました。




ジークがこっそりエーリッヒに言います。

「そんな嫌な顔をするな。気持ちをみだらに出すもんじゃない。」

そう言われて、赤くなりながら表情を変えようとするエーリッヒでした。




ローゼンハインツは玉座の前に行き、片膝をついて祝いの言葉を述べます。



「陛下に致しましては、この日は言葉に尽くせぬ祝いを送るほかありません。いかな祝いの言葉でも、この日を迎えた事は格別だと思われます。」



「ローゼンハインツ、今宵は、わしの祝いより、お前を労うために呼んだ。先の大戦で多額の賠償金問題も徐々にではあるが解決に向かっている。これも、お前の手腕があったればこそ。お前も楽しんで帰るがよい。」


王は彼女に優しい表情でそう言うのでした。


「ありがたき幸せに御座います。されど、その前に陛下への忠誠として謝罪致したき儀があります。」




王の表情に優しさが消えます。




「ほう。それは何か?」






「は!今日我が私兵が陛下のご子息にご無礼を働いたとの事、その件で陛下とご子息に謝罪致したき儀であります。」




「その件は、王子達より聞き及んでおる。確か、不問に付すという事だ。気にするでない。」



「いえ、此度の不忠は我が私兵が起こしたこと、主である私は陛下に忠誠を誓い、陛下の物となっております。なれば我が私兵も陛下の物。その物が陛下のご子息に不忠を働くなどあってはならない事。」











王は厳しい表情でローゼンハインツを見つめます。










「なれば、お前はどのように示す。」







ローゼンハインツは王に言います。

「此度は祝いの席なれど、我が忠誠を見ていただきたく、斯様(かよう)なものをお持ちしました。グスタフ兵士長!」



ローゼンハインツが呼ぶと、薄暗い闇に包まれたベランダから白い制服を着た屈強な兵士が白い兜を被って登場します。



白い兜には赤く染めた房が付いており、腰に付けたベルトにはローゼンハインツの家紋である鷹のバックルが付いています。


グスタフは四角い二つの箱をトレーに乗せて白い布で覆って玉座に上る階段手前で片膝をつき頭を垂れます。





ローゼンハインツがこの男の所に行き、王を見上げます。








「これが陛下の忠誠の証です!」










彼女は白い布をはぎ取ります。



「ひっ!」

王妃は吐き気を手で押さえて顔をそむけます。




フリードは驚き目を大きく開けてそれを見ます。




ジークは眉間に皺を寄せて目をつむります。




エーリッヒは、見たくないものを見てしまったという表情で顔を背けます。



衛士長シャルンホルストは、驚いた顔でそれを見ていました。




唯一、王が眉毛をピクリと動かしただけで、厳しい表情でそれを見つめます。











それは、王子達とは知らずに喰って掛かった白シャツの兵士とその上司分隊長リンゲンでした。










生首でした。










二人は、口を少しだけ開けて、目を見開いたまま血の気を亡くしてそこにいました。












衛士長シャルンホルストがローゼンハインツを叱ります。

「この馬鹿者が!祝いの席にそのような者を持ってくるとは、貴様、何を考えている!」



ローゼンハインツが怒鳴り返します。

「斯様な日なればこそです。我が忠誠を明かさずに、陛下の労いを何故受けられましょうか!」



ルイーゼが嫌悪感をあらわにして彼女に言います。

「王子達が不問に付すという面目を、お前はつぶす気なのですか?」



ローゼンハインツは言います。

「では、私の忠誠心をどのように表せばよいでしょうか。叱って済む問題ではありません。」






ルイーゼは彼女に腹を立てます。



しかし、ヒンデンゲルグ王がルイーゼを止めます。







「止めぬか!」






ルイーゼは黙ります。







ローゼンハインツは、その場で片膝をついて首を垂れます。



「ローゼンハインツ、お前の忠義しかとわかった。この件はこれまでとする。それは、そなたが持ち帰るがよい。それから、お前に、その忠義に免じて、国務大臣経済担当官に任命する。明日から、国務大臣として、内政に力を尽くすがよい。」


「は!有難き幸せに御座います!」




ルイーゼは驚きます。

「陛下!」


王は笑ってルイーゼに言います。

「良い、これは決めていた事だ。ローゼンハインツは忠誠を形で見せるために決死の思いでやったことだ。少々、過ぎたやり方かも知れぬが、この忠誠心を咎めることは出来んだろう?」


ルイーゼは唾を飲み込みます。

「陛下がそれでよろしいのなら、わたくしが言う事ではありません。」







ルイーゼは、ローゼンハインツを見下ろします。

この女性は、夫でありこの国の王の誕生日の席に見るもおぞましい生首を持参してきて、祝いの席を汚した責任は取るつもりは全くない事に怒りが込み上げてくるのでした。




何食わぬ顔でローゼンハインツは、生首の横に片膝をついています。





「ローゼンハインツ!早くそれを下げなさい!」

ルイーゼは、おぞましいローゼンハインツに向かって怒鳴るしかできませんでした。









ローゼンハインツは、立ち上がり一礼をして、グスタフを連れてその場を去っていきます。







誰もいなくなると、エーリッヒがジークに寄り添い涙します。



「私のせいで、あの二人は死ぬことになるなんて。」



ジークは、エーリッヒを抱きしめます。

「お前のせいじゃない。泣かなくて良い。」



王は、ジークとエーリッヒを見つめ王妃に言います。


「あの二人には、これを受け止めるにはまだ早かったかもしれん。お前が、部屋に連れて行って介抱してやってくれ。そして、私が謝っていたと伝えてくれ。それから猪の事もな。時間がなくて言えなかった。心から愛していると伝えておいてくれ。」


そう言って、玉座を衛士シャルンホルストに支えられながら立ち上がり、王室専用の扉の方に向かうのでした。




フリードは、こぶしを握り締めてさっき見たことが現実だと噛み締めていました。




ジークは悲しみに暮れるエーリッヒを抱きながらローゼンハインツの忠誠心に幾ばくかの疑問を持ち始めていました。






忠誠心の見せ方が派手過ぎると思ったからでした。






第6話です。

だんだん物語が長くなってきましたが、まだまだ、描き切れない所も沢山ありましたので、ここに記しておきます。

まず、調理です。調理は基本魔法で調理します。炒める料理は火を使いますが、火は魔法で造り出して火加減を自在に調整します。水は瞬時に魔法で沸かしますので、手間が省けます。ですから晩餐直前にルイーゼがスープを作り直せと言ったのは、時間的に余裕があったからです。また、とにかく調理も人海でやります。とにかく魔法が誰にでも使える世界なので、けが人や死人が出にくい世界なので人口がやたら増えすぎている世界です。その分、ワークシェアが盛んにおこなわれている世界でもあります。ですから、調理する人間もワークシェアするために非常に多くの人を雇っています。そして、この人口問題も、この物語では重要になってきます。増えすぎた人口のおかげで、資源の枯渇問題とも国々は向き合わなければいけません。

その為、資源の無駄遣いを止めて庶民は、それほど贅沢はしません。王室でも、そうで、晩餐や何かの催し以外はあまり贅沢に資源を使うことを嫌います。

とにかく物価を安くする方法を考えて、物をあまり作らない。物は大事に使って壊れるまで使う事を基本に考えているのです。ですから、国も物価を安く抑えて経済の利潤追求を抑える政策を各国はしています。

また、そのモデルとなる国は、各国から視察団がやって来て、お互いに学べるところは取り入れようとしています。また、我々の世界より、物が豊富にあるわけではありません。冷蔵庫やキッチン周りの製品もありません。包丁やお玉などもなくまな板さえもありません。大雑把に言うと鍋やフライパンさえあればすべて魔法で事足りるからです。ただし、王室の厨房などは、料理を美しく見せるために包丁を使う事もありますが、一般家庭ではまず使いません。また、電灯もそうです。ライトの魔法を使って、夜は部屋を明るくします。その明るさは昼間と変わりません。そうやって、魔法で済ませられるものの製品は出てこれない世の中になっているのです。その分、失業率問題などは各国何処でも問題になっていることは確かなのです。それから農作物の消費率は、生産率より多い時期も出てきます。その為にこの世界の最近では、魔法で効率よく生産する方法が取られるようになりました。

そして話は変わりますが、やっと悪役ローゼンハインツが出てきました。

彼女を男にするか女にするかは、この第6話を書くまでかなり悩みました。

しかし、結局野心家の女性に決まったわけですが、この女性が今後物語でどうかかわってくるかを読んでくださいましたら、有難き幸せです。


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