生鷺郁、享年17歳
馬鹿な作者が思いつきで書いただけです。
私、生鷺郁は虹彩異色症の高校二年生。
もともと色素が薄かったから髪と左目は茶色で、虹彩異色症だから右目は赤色。だから普段は右目に眼帯をしている。
とはいえ眼帯も目立つし、すれ違い様にじろじろ見られることもしばしばある。幼い頃は 「なんで眼帯してるの?」「なんで目が赤いの?」という同級生からの無邪気な質問に傷ついたこともあったっけ。
まぁ高校生にもなるとわざわざそれを馬鹿にしてくる馬鹿も減るわけで。
進級してクラスが替わり二ヶ月、ようやくクラスメイトが私の眼帯について興味を失いつつあった。
そんな時、私はある男子から告白された。しかし、私はそれを断った。
その一連の流れは、ありふれたもので、正直、どこの高校にもあるものだと思っていた。
厄介なのは、その相手だった。
告白してきた男子は、クラス、いや学年の女子のほぼ全員からかっこいいと評判で、後輩の女子にすら名前が知れわたっているほどの、所謂イケメンという奴だった。
その男子に好意を寄せている女子は少なくなく、私がその男子を振ったことを引き金に、主にクラスメイトからいじめを受けるようになった。
虹彩異色症というのも、彼女らにとっては絶好のいじめの材料なのだろう。
というのが、半年前に起きた、私の人生が変わったであろう出来事。
いじめっ子たちは今日も飽きずに私をいじめに来る。
弁当に泥入れるとか靴から靴紐だけ抜き取るとか、地味な嫌がらせで終わる日もあれば、殴る蹴るの暴力を受ける日もある。
いい加減鬱陶しいんだけどなぁ…。
昼休みになり、そんな事を考えながら弁当を机の上に出す。
少し離れた場所で女子グループが固まって笑っている。
オイそこのいじめっ子たち、こっち見てクスクス笑ってんの丸わかりだからな。今日は何するつもりだよ。
そう思ったが口には出さない。面倒だから。
その時、いじめの首謀者が放送で呼び出された。
本人も取り巻きも、不思議そうな表情を浮かべている。
首謀者は無言で教室を出ていった。
十分ほどして教室に戻ってきた首謀者の表情は、すこぶる不機嫌な様だった。乱暴に席に着いた首謀者が取り巻き達に愚痴を言うのが聞こえた。
「なんかさぁ、センセーにいじめしてないかとか聞かれたんだけど!!ホンット何なんだよ!!最悪!!」
…いや、自業自得だろ。
黙々と卵焼きを頬張る。
「まさか、アイツがチクったとか?」
取り巻きの一人が言った。
チクってないよー。私何もしてないよー。担任が勝手に気にしてるだけだよー。勝手に私のせいにしないで欲しいなー。
黙々とウインナーを頬張る。
いつも騒がしい教室が沈黙する。
きっと、教室にいるほぼ全員がいじめグループの会話を聞いていたのだろう。
目の前に影ができる。顔を上げると、いじめの首謀者が仁王立ちしていた。
箸を置き、食べかけの弁当をしまう。
平然とした私の様子が気に入らないのか、首謀者はいきなり胸ぐらを掴んできた。
「ふざけんなよ!お前がいなければ私は楽しい学校生活送れたのに!!お前のせいでセンセーにも呼び出されて親にも連絡するって言われて、私の人生台無しだ!!お前なんかいなきゃいいんだよ!!死ねッ!死ねよクズ!!殺す!ぶっ殺す!!」
首謀者は一息にそう叫んだ。
物凄く、腹立たしい。全部お前の自業自得じゃねえか。
「…今私が死んだら、担任はいじめが原因だと考えるんじゃないの。そしたらあんたはもっと立場悪くなる。それであんたが心地よく過ごせるとは思えない。だからって私を殺せば、あんたは殺人犯だ。どっちにしろ、居心地が良くなるとは思えないけど。担任に呼び出されたのも親に連絡されるのも、自業自得なんじゃないの。」
淡々と、感情を出さないように、そう首謀者に告げた。
首謀者は驚いている様だった。まぁそれもそうだろう。
いじめられても声をださず表情を変えようとしない私がこんなにたくさん喋るのを見るのは初めてだろうから。
「…うるっさいなぁ!!黙れよゴミ!!」
あ、これ何言ってもダメなやつだ。面倒くさい。
どうやって黙らすかなぁ…。
そんな事を考えてる間にも、首謀者や取り巻き達は私に罵詈雑言を浴びせていた。…なんかもう、考えんの面倒だな…。
「うるさい。…鬱陶しい。」
それは、私の口からでた言葉だった。
教室が本日二回目の沈黙に包まれる。
あ、もういいや。
そう思って、私は再び口を開いた。
「そんなに私のこと嫌いなら死ぬよ。そして後悔すればいい」
そのまま教室の出口に近づく。
教室に居る人のほとんどが私の言葉の意思を理解したようだけど、誰一人として口を開く人はいなかった。その方が都合がいい。
「…ッ!待てッ!!」
ゆっくりと後ろを振り向いた。
私に声をかけたのはいじめの首謀者だった。
その表情は混乱と恐怖、怒りが混ざったようだった。
私は嘲笑のような笑みを浮かべて、ゆっくりと言った。
「これからいろいろ大変だろうけど、『必死に頑張って』ね。」
そしてまた歩き出した。向かうは屋上。
本当に、頑張ってくれるといいなぁ。
「同級生を自殺に追い込んだ」なんて不名誉なレッテル貼られて、あいつはこれからどう生きてくのかな?この社会のなかで。
普通は死ぬのは辛いって考える人が多い。でも、生きるのが辛い人にとって、死ぬっていうのは「誰かに救われて生きる」のと同じくらいやさしいことだと思う。
なんて考えてればもう屋上。
でも、屋上に出る扉は鍵が閉まっていた。普通に考えれば職員室で鍵を借りればいい話だけど、それも面倒だった。
私はそのまま数歩下がり、勢いをつけて扉に体当たりした。
数回体当たりすると、老朽化していた扉は案外簡単に壊れた。
屋上に出た。すごく天気が良くて、まさに雲ひとつないって感じ。
屋上の端まで進んで、フェンスを昇る。
フェンスの外側は風が強くて、すごく心地よかった。
一歩だけ、足を前に踏み出した。
青空が綺麗だった。
まるで青空に吸い込まれるように。
すがすがしい秋晴れの昼、私、生鷺郁は死んだ。
郁の思考回路は多分作者と似てる部分ある。