切ない思い3
「凛ちゃん、先にお風呂いいよ、アタシは今から洗濯物にアイロンかけるからさ」
華は食器を片付けている凛に声をかける。
「いいの?私も手伝うよ」
「だって凛ちゃんは食器片付けてくれてるでしょ?だからいいの」
と華は凛をバスルームへと案内した。
「あ、バスタオル出すの忘れた…取ってくるね、脱衣所に置いて置くから入ってて」
凛をバスルームに残し、華は慌ててバスタオルを取りに戻る。
「凛ちゃんといつの間に仲良くなったの?ライバルでしょ?」
待ち構えたようにマキコは聞く。
「別に…凛ちゃん嫌いじゃないし、良い子だもん」
「そうね…良い子ね、お母さんもあの子好きよ、何となく朗が好きになるの分かる気がする…華には悪いけどね」
「アタシにだって分かるよ…けど、別れたんだって」
「えっ?いつ?…まさか、だから仲良くしてるんじゃないわよね?」
ロジックに来た二人は凄く幸せそうだったのに…
マキコは意外性に驚いた。
「違うよ、そんなんじゃないよ…凄く寂しそうに見えて…本当は泣きたいのを我慢しているように…、それに泥棒に入られたばっかりだから怖いって」
「泥棒?そう言えば朗に聞いたような…でも、崇君と住んでるんじゃ…あ、今崇君はエディと居るんだったわ…」
納得するように頷いた。
「だからだよ」
華はそれだけ言うとバスタオルを持ってバスルームへと戻る。
「凛ちゃん、タオル置いとくね」
バスルームの凛へ声をかける。
「ありがとう」
「どう致しまして、じゃっ、ゆっくりいいからね」
華が去ろうとすると。
「待って、華ちゃん」
凛は、バスルームの中から華を呼び止める。
「何?」
「今日はありがとう…凄く嬉しかった」
バスルームから届く声は少しこもってはいるが、本当に嬉しそうな声だった。
「やだ…お礼なんて言わないで」
「私ね、ロジックで華ちゃんを見た時に何て綺麗な人だろう…って思ったの、凄く話してみたいな…って、だから今日は本当に嬉しいの」
お互い顔は見えないが、きっと二人とも照れ臭そうな顔をしている…凛も華もそう感じた。
「凛ちゃん…ありがとう。アタシも凛ちゃんと話せて嬉しいよ」
照れ臭そうに華はそう返した。
「華ちゃんはマキコさん似なんだね、いいなぁ…あんな綺麗なお母さん」
小学生の時に母は亡くなった…そう言っていた凛は寂しそうだった。華にはマキコが居るし、離婚しているとはいえ、エディはバカ親だし…凛の寂しさは両親が揃う華には理解してあげれはしない。
「凛ちゃんのお母さんも綺麗だったんでしょ?凛ちゃん見たら分かるよ、凛ちゃん美少女だもん」
「華ちゃん…照れちゃうわ、ありがとう。…母は綺麗だったと思う、料理も美味しくて、私とお兄ちゃんはチーズオムライスが大好きで…楽しかったなぁ…あの頃は、凄く…楽しかった」
凛はきっと、朗と別れたと言った時と同じ…寂しい顔をしている…華にも痛いくらい想像出来た。
「だから…チーズオムライスなんだね」
「うん」
「凛ちゃん、今夜は三人で寝ようよ!女同士…語り合おうね」
少しでも元気付け出来れば…華は元気よく声を明るくした。
「うん!ありがとう」
華は、急いで寝床の用意をしにベッドルームへ行く。マキコは二人の会話を聞いてたらしく、華が承諾を得るまでもなかった。
二人が別れたから仲良くするんじゃない…、彼女が良い子だと分かったから…、別れを決心するのは辛い事だと華が1番よく分かっている。
◆◆◆
凛は、湯舟に浸かりながらぼんやりと上がっては消える湯気を見つめていた。
湯気は温かい…でも、すぐに冷たい空気に負けてしまう。
自分の気持ちもそうかな?
朗は私の為にさよならを言ってくれた。
とりあえずのさよならではなく…永遠の。もう二度とあの温かい手を握れる事はない。朗との時間は短かった。
それでも、得たモノは大きい。
あんなに愛してくれた。
抱きしめてくれた…でも、私は朗を崇の代わりにしていた。
崇から離れてはダメだ!諦めるな!そう言ってくれた。
だから…私は進む。
これから先、崇が私以外の誰かのモノになっても。それでも…好きという感情は捨てない。自分でもバカバカしいと思う、でも…愛してる感情は本物だから…ごめんね、朗…。
ありがとう、朗。
言葉に出来ない言葉を心の中で呪文のように繰り返す。湯舟にポタポタと涙が落ちる。お湯を両手ですくい、顔を洗う。
さよなら。朗…。




