切ない思い2
朗が自分の為に身を引いてくれた…優しくてかっこよくて、不器用で…朗なら愛せると思った。
朗となら幸せになれると思っていた。でも、それは全て身勝手な考えだった。
寂しさを埋める為…崇の代わりだったのかも…自分はズルイ女だと思う。
朗の優しさと愛情を利用した最低な女…愛せると思った。
でも…唇を重ねる度、体を重ねる度…どうしても崇と重ねていた、もし…唇を重ねるのが崇なら。
体を重ねるのが崇なら…そう考える自分が嫌だった、きっと…朗から別れを切り出されなかったら…自分から別れを言っていたかも…。
「別れた…」
「何?聞こえない」
か細い声で言う凛に崇は聞き返す。
「別れたの…だから、もう…」
凛の瞳には涙が滲んでいた。優しい朗を傷つけた事が許せなかった。
「なんっ、アイツ!」
朗が悪いのだと崇はとっさに判断した。
「違う、私…私が悪いの…だから、竜太朗さんちには行けないよ」
凛は俯く。泣いているように崇に映る。
「じゃぁ、泊まって行きなさい」
後ろから声がした。
振り向くとエディが立っていた。
「でも、お兄ちゃんがお世話になっているのに」
遠慮がちに首を振る。
「じゃぁ…ウチに来る?」と華がエディの後ろから顔を出す。
「ウチはお母さんと二人だし、それにアタシって友達少ないから女の子が泊まりに来た事ないの…ねっ?」
華は凛の両手を掴み、可愛いらしい笑顔になる。
その笑顔に釣られ、凛は頷く。
「決まり!お母さんに電話するね」
と華はマキコに早速電話を入れ、了解を得ると嬉しそうに凛を連れ、帰って行った。
『さて…君の想い人はシングルだよ…どうする?』
凛が華と出て行ったすぐにエディがそう口にした。
『どうするって…どうもしないですよ』
崇は冷静に返事を返した。
『どうして?』
『どうしても…、どうしてもです。凛がお兄ちゃんと呼ぶ度…凛は妹なんだよと言われているようで』
『それは君がそう思ってるだけだよ』
『それでも…それでもお兄ちゃんと呼ばれる度に凛にとっては兄なんだと思い知らされる』
『思いは秘めるのかい?』
崇は頷く。
◆◆◆
華の家に泊まる事になった凛は、マキコや華と夕飯の買い出しの為、スーパーに来ていた。
「凛ちゃん、好き嫌いとかある?」
マキコは野菜を手に取りながらに聞く。
「ありません、何でも食べれます」
「そう、良い子ね~華はピーマンとかセロリ食べれないのよ、子供みたいでしょ?」
とマキコはわざとピーマンを手にする。
「お母さん、ばらさないでよね」
華は、余計な事を言うな!と言わんばかりに怒っている。
「お兄ちゃんもピーマン嫌いなんですよ、人参なんかも料理に入れると必ず除けちゃうんです」
「えっ?崇君って子供みたいな所あるんだね、意外…なんか、天下無敵ってイメージがある」
華が驚いたような顔をしている。
「子供だよ、苦い系がダメみたい…薬とかも苦いからって理由だけで飲もうとしないもん…コーヒーもミルクと砂糖いっぱい入れるし」
「…なんか…朗と近い」
華は嫌そうに言う。
「あら?凛ちゃんって崇君の妹なの?」
華の口から崇と言う名前が出て、マキコは意外そうな顔をしている。
「はい。兄を知ってるんですか?」
「綺麗な子よね…凛ちゃんも綺麗だし…さすが兄妹」
とマキコ。
「血は繋がってませんよ、親同士が再婚したんで…兄から聞いてませんか?」
マキコと華は知らなかったと首を振る。
「今、ご両親はどうしてるの?二人が家から出てるから寂しいんじゃない?」
「私の母は…小学生の時に亡くなりました。義父…兄の父も中学生の時に亡くなって…兄の母は兄を産んですぐに亡くなっていて、私の実の父は生きてはいますけど…どこで何をしているかは知りません」
マキコの問い掛けに凛はそう答えた。
マキコは凛の頭を撫でると「今日は私が凛ちゃんのお母さんね、凛ちゃんが好きな物作ってあげるわ何がいい?」優しく笑った。
「チーズオムライスとツナサラダ!」
凛は素直にそう答えた。まるで小さな子供のように。
「分かった!ツナサラダにはピーマンいれるわよ」
マキコは華をチラリと見た。
「ヤダ!絶対ダメ!凛ちゃんからもお願いしてよ」
華は、必死に凛に訴えている。
親子の会話にすんなりと入れた凛は、久しぶりに家族の温かさに触れた感じがして幸せそうに笑った。
「マキコさん、美味しかったです」
夕食を終え食器を片付ける。




