切ない思い
『聞いてくれない…アメリカには絶対に行かないって、ロジックも辞めるつもりはないっても言われた…貴方だって仕事辞めるつもりは無いんでしょ?って』
エディは深いため息をつく。
『お父さん、頑張ってよ!アタシも崇君も応援してるから』
華は励ますようにエディの背中を叩く。
『そうですよ、応援してますから』
崇がそう言って微笑むと『崇が頑張るなら頑張る』
とエディは主語が無い話を彼に振る。
『はっ?何をですか?』
もちろん崇はキョトンとなる。
『好きな人に頑張って告白する』
『はっ?何を言い出すんですか、今はエディの話ですよ』
『崇もちゃんと想いを伝えると約束するなら』
『えっ?崇君って好きな人…やっぱり居るんだね!誰?仕事場の人?』
華は更にワクワクした表情をしている。
『あ~、もう!俺の話はどうでもいいでしょ?』
崇は少しキレ気味に言い返した。
『でも…やっぱり、お母さんとお父さんって気が合うよ』
マキコも華に同じような事を言っていたからだ…似た者夫婦。
いや、似た者元夫婦だ…華は笑ってしまった。
◆◆◆
朗と竜太朗は屋上に居た。
「そうか…なるほどな」
朗に、凛と別れた理由を聞いた竜太朗は、納得している。
「お前、偉いな…泣かなかったのか?」
「誰が?凛?」
「お前だよ」
「泣かないよ…泣いたら凛が傷つくだろ?」
「そうか、偉い偉い!」
頭をくしゃくしゃに撫でる。
「あれ?髪の毛、なんか白いぞ」
蓮に粉のついた手で撫でられたので、まだ白い粉が残っていた。
「蓮さんかな?仕事を少し手伝ったから…俺さ、探偵辞めて…連さんの弟子になろうかな?」
朗は屋上から見える夜景を見つめた。
遠くで船の汽笛らしい音が微かに聞こえる。
「おっ!なればいいじゃん!ジイサン喜ぶし、何より華ちゃんがやっと朗がまともな定職についたって喜ぶぞ」
「確かに…文句言われなくなるな…真面目に考えようかな?もうすぐ26だし…これで最後にする」
そう言うと上着のポケットからウォンの携帯を出す。
「やっぱりウォンの携帯だったよ」
「マジ?中見たのか?」
竜太朗は面白そうなネタに食いつく。
「うん、崇とのメールのやり取りがあってさ…悪いと思ったけど少し読んだ…それで分かった」
色んな秘密がこの携帯の中にある。
気になるモノが中にあった。ジッと携帯を見つめる。
「何が?」
「パソコンって図書館にあるよね?」
「あるよ、何だよ~勿体ぶらずに教えろよ」
竜太朗はヒーローショーを見る子供のようにはじゃいでいる。
「明日教えるよ、じゃぁ…風呂入って来る」
朗は一人中へ戻った。
竜太朗は、チラリとテラスの陰で、ずっと二人の様子を伺ってた人物に目をやると。
「朗は大丈夫みたいだぞ」
と声をかけた。
「そうか」
蓮が顔を出した。
「心配なら話に加われば良かったのに」
「何って言って慰めたらいいか分からん…お前なら上手く励ませるかな?って…泣かれたらかなわん…さっきも粉をこねながら泣かれた時、言葉が出てこなかった」
「何だアイツめ!泣いてたのか、嘘つきめ!」
そう言って竜太朗は笑った。
◆◆◆
「お兄ちゃん、着替え置いておくね」
凛はそう言うと着替えが入った紙袋をベッドの近くに置く。
「具合は?熱下がった?」
額を触ろうとすると崇はその手を払い除け、「大丈夫だって、熱下がったし、仕事も明日から出来るし…それよりお前、もう遅いんだから早く帰れよ」ちょっと、ぶっきらぼうに言う。
「大丈夫ならいいんだけど…お兄ちゃんってすぐ無理するもん」
凛の頭には必死に手を洗っていた崇の映像が鮮明に残っている。
大丈夫と言うのは大丈夫じゃない…という心のサインかも知れない…そのサインをずっと見逃していた自分が悔しい…そして、辛い。
「それに…お兄ちゃん、アパートに帰って来ないから私一人だもん…まだ、怖いよ」
凛は寂しそうに崇を見つめる。
出来れば…離れたくはない。
「竜太朗さんちに世話になってるんじゃないのか?」
凛は途端に俯き首を振る…これ以上…竜太朗の所には世話にはなれない。だって…朗とさよならしたのだから。
どの面さげて行ける?
別れた男に世話になるほど凛は非常識ではない。




