重なる思い9
「まだ崇の事好きなんだよな…知ってたけど気付かないふりしてた…ごめん」
「朗…ごめんね」
凛のその言葉で自分が言っている事に間違いはないのだと思い知らされる。
「謝るなっつーの!あのさ、別れたからって気まずくなるのは無しにしような、明日も笑って話をしよう…それから、相談にも乗るから泣きたくなったら来い!」
強がりで明るく言ってみる…強がっていなくては泣いてしまう。
「なんか…偉そう」
凛は明るく振る舞ってくれる朗の顔を見上げ、笑った。
「よし、もう泣くな!」
朗は凛の頭を撫でる。
「仕事、戻れよ…」
ポケットからハンカチを出す。
本当は凛の涙を拭いてあげたかった…けれど、もう…凛は自分のモノではない。
これからは…見守る方に回ろう。
そう決心した。
崇にかなうわけがない…そんな事は初めから分かっていた、手放す事がいきなりなのは…自分が傷つくのが怖いからかも知れない。
崇のせいにして、自分が傷つくのが怖い。
やっぱり俺はズルイ…そう思った。
凛の後ろ姿を見送って…朗はまた一人っきりの自分の人生へと戻る。
◆◆◆
竜太朗の家へ着くと店の奥で蓮が饅頭に使う粉をこねる作業をしていた。
「あ、それやりたい」
ただいまも言わず、蓮に近寄る。
「おかえり、竜太朗達はどうした?」
「崇と遊んでるよ、蓮さん俺もやりたい」
と朗はこねやすくする為に袖を捲くる。
「こねかた分かるか?」
蓮はその場をあける。
「もちろん」
そう返事を返すとこね始める。
「凛ちゃんは今夜遅いのか?」
少し、ドキッとした。
でも、平静を装い、「来ないよ」とだけ答える。
「どうして?喧嘩でもしたか?」
「別れた」
こねる力を増す。
蓮は暫く無言だった。
きっと何って言えばいいのか分からないのだろう。別にそれでいい、下手に慰められるより…。
蓮は「そうか…」と小さく言った。
「俺、蓮さんの弟子になろうかな?」
しんみりとなる空気を壊すかのように話を変える。
「仕事辞めてか?別にいいぞ、お前は素質あるし…良い子だし」
粉のついた手で頭を撫でる。
「顔はちゃんと拭きながらこねないと…しょっぱくなるぞ」
朗の肩に自分のタオルをかけ、出て行った。
大丈夫!明日、凛に会っても笑える…。
絶対に笑える…
泣いているのは今だけだから…そう、何度も心で繰り返すとタオルで涙を拭く。
タオルに顔を埋めると涙が止まらなくなる。
声を殺して泣くのは未だに慣れない…。
◆◆◆
朗は竜太朗の部屋で大の字に転がっていた。
真っ直ぐに天井を見つめる。そして、ポケットから携帯を取り出す。
これは崇が預かるはずだった…。携帯はやはりウォンの物だった。
悪いとは思ったがメール等、手掛かりになるモノをとチェックしてみた。
崇とのメールのやり取りの中で、ウォンも凛が好きだと分かった。
ため息が出る…。
そして、急に竜之介が見下ろす形で現れた。
朗はビックリして思わず起き上がる。
「竜之介、いつ帰って来たんだよ」
「今だよ、オジイチャンが今夜はスキヤキだから早く帰って来いって電話して来たの」
そう言われてみれば、スキヤキの美味しそうな匂いがしてくる。
きっと、蓮なりの励ましなんだろう。
「凛姉ちゃん来るんでしょ?」
「来ないよ…」
朗は竜之介から目線を外した。
「どうして?」
「なぁ…、竜之介、俺が寂しかったらギュッて抱っこしてくれるんだよな」
敢えて、どうして?と言う質問には答なかった。
「うん。朗、寂しいの?凛姉ちゃんが居ないから?」
「うん…居ないから」
そう答えると竜之介はギュッと抱きしめてくれた。
「おっ、何してるんだ?今夜はスキヤキなんだろ」
竜太朗も部屋に顔を出した。
「朗、寂しいんだって」
朗の代わりに竜之介が答えてくれる。
「何で?」
「凛と別れた」
朗は顔も上げずそう言った。
「朗…」
竜太朗も朗を抱きしめる。
「苦しい、おしくらまんじゅうかよ」
潰されそうな勢いの二人に文句を言う。
◆◆◆
エディがホテルに戻ると『それで、どうしたの?』華は身を乗り出しワクワクした表情をしている。
『嫌だと即答された』
エディは力なくイスに座る。
エディはロジックに行き、マキコに一緒にアメリカに行かないか?と言ったのだが…
客が多いせいもあり、マキコに追い出される形になったのだ。
『話、ちゃんとしたんですか?』
ベッドで大人しく話を聞いていた崇も話に加わる。




