重なる思い8
「いや、私が行くよ、お父さんが居なくなったら竜之介が寂しがるよ、用事もあるからついでだよ」
エディはテーブルの上の車の鍵を手に持つ。
「どこ行くの?」
と華。
エディは華に近寄り耳元で、『マキコにプロポーズしてくる』と言った。
『嘘、アタシも行きたい!』
華は嬉しそうに訴えたが恥ずかしいからって却下された。
『崇、ベッドから抜け出したらクビにするぞ』
と崇に釘をさし、朗と部屋を出た。
「エディ何て言ったの?」
エディが出た後すぐに崇が興味津々で聞く。
華は嬉しいさを隠しきれないと言う弾んだ声で、
「お母さんにプロポーズしに行ったの」
と答えた。
「マジで?!」
男性陣の声が揃う。
◆◆◆
「朗、どうした?眠いなら寝てもいいよ、竜太朗の家だろ?着いたら起こしてあげるから」
運転しながらエディが気を使ってくれる。
「眠いけど…、でも考えがまとまらなくて」
元気ない声で言う。
「考え?昨日の謎解きかい?」
「それもあるけど…崇の事…」
「夕べの事でビックリしたんだろ?私も発作起こしてるのは何度か見たけど…手を洗うのは知らなかった、カーターに説明受けたんだろ?」
朗は頷く。
「トラウマってやつだろ?崇の事は凛に聞いてるから…」
「そうか…彼女はずっと泣いてたよ、かわいそうに…誰も心のケアをしてあげなかったんだね…カウンセリングを受けてたのも知らなかったみたいで、崇には自分が知っている事を言わないで欲しいと言ってたよ、あの二人はお互い思い合っているね…崇も彼女に心配させまいと必死だ」
エディの言葉に朗は深いため息をつく。
「俺って…ズルイよなぁ」
「何が?」
「凛の事…俺達付き合ってるだろ、もともと凛は依頼人だったんだ、初めて彼女を見た時に彼女に一目惚れして…それで俺から告白した」
「そうか…でも、彼女は何を依頼しに来たんだ?」
「兄が笑わなくなった理由を探して下さい…もし、原因が自分なら兄の前から消えます…そんな依頼だった、その時は血の繋がりがあるって思ってたから、けど…繋がりが無いって知ってる今なら分かるよ…ううん、初めっから知ってた…凛の心の中には崇しか居ない…きっと、崇の中にも」
朗はそう言って切なく笑う。
「朗…」
朗が何を言いたくて、何を考えているかエディにも想像はついた。
同じ男だし、恋愛の辛さも知っている…相手を愛せば愛する程、相手を想い、時には身を引く。
「俺ってズルイんです、凛が崇の事で悩んでいるのを知っているのに弱い部分に付け入ったんです、凄くズルイんです…でも、好きなんです…ズルイ手を使ってでも彼女を手に入れたかった、…けど、それでも彼女を諦めなきゃいけないんだよなぁ…本気で愛する意味が何となく分かった」
俯く朗は泣いているのかとエディは思った。
朗の頭を撫でると、
「君はいい子だね、華は見る目あるよ」
と言った。
「はっ?」
「何でもない」
とエディは優しい顔をした。
◆◆◆
朗は凛の仕事場近くの公園のベンチに座る。このベンチで凛を好きだと言った。
「朗、いきなりどうしたの?」
凛が白衣に上着を着て息を切らして走って来た。
「ごめん…呼び出して、仕事平気?」
朗はベンチから立ち上がる。
「大丈夫、休憩中だから」
そう言って笑う凛は凄く可愛かった。
初めて見た笑顔に見とれた…あの笑顔と変わらない。
別れを決意すると…どうして、愛しくてたまらなくなるのだろう?
「じゃぁ、手短に話すね」
「何?」
朗の決意を何も知らずに微笑む凛に朗は深呼吸をして…思いを断ち切るかのように、「別れよう」と言った。
「えっ?」
凛は聞き間違いかと聞き返す。
「別れよう…短い間だったけど楽しかった」
「…待って、その冗談笑えないよ、私…朗に嫌われる事した?」
凛は顔を強張らせている。
「してないよ」
「嫌いになったの?」
凛は泣きだしそうだった。
「好きだよ」
「じゃぁ…どうして?」
「凛が心に嘘ついてるから…崇と離れる事なんて無理だろ?」
凛は言葉を失った。
「俺は崇には敵わない…あんな状態の崇から離れちゃダメだ!凛だって側に居たいんだろ?俺が好きな凛は笑ってる凛なんだよ、俺は…凛を笑顔で居させる事は出来ない…出来るのは、崇だけだよ」
凛は俯いて答ない。
「俺さ、人を愛する意味が分かった…凛を好きだからさ…」
朗は堪らずに凛を抱きしめる。
「ごめんなさい」
抱きしめられた凛は我慢出来ずに泣き出す。




