重なる思い7
「朗、カーターに電話をしてくれ、携帯はテーブルにあるから」
そう言いながらとエディは崇を抱き上げる。
朗は急いでテーブルの上の携帯を取り、カーターに電話を掛ける。
「凛、大丈夫だよ」
エディは泣いている凛に声を掛け、一緒に部屋へと入ると崇をベッドに寝かせた。
凛はベッドの側へと座り込む。
ただ泣き続ける凛の頭をエディが優しく撫でてくれた。
電話を終えた朗はその光景を見つめていた。
◆◆◆
カーターは深夜にも関わらず来てくれていた。
『覚えてない?』
朗はカーターに聞き返す。
『夕べの事は全く…ね』
朝になり、崇は目を覚ましたが昨日の事は全く覚えておらずいつもの彼だった。
『どうして?会話もしたのに…』
『無意識の中の意識ってやつかな?酔っ払って家に帰り次の日、どうやって帰って来たのか記憶にない…それと同じかな?彼は多分、君達の話を聞いてたんじゃないかな?それで不安になり、あんな行動を取った』
『手を洗う行動?どうしてあんな行動取ったの?』
『君は崇の過去を?』
『知ってるよ、凛に聞いた』
『そっか、なら話せるね…崇が血がついてると言ったのは父親の血だよ、手についた父親の血の感触を未だ忘れないんだ…不安になったり、似たような現場に遭遇した時に夕べみたいになっちゃうんだよ、トラウマってやつ…分かる?』
『トラウマ?』
『うん、例えば小さい時に犬に噛まれたとする、そしたら大人になっても噛まれた恐怖が残り、犬が怖かったりする』
『あぁ、分かる…トラウマかぁ…親に捨てられた子供が誰も本気で愛せないように?』
そう言って朗は寂しそうに笑った。
『君もカウンセリング受けるかい?』
『うーん?考えときます、じゃぁ、崇に夕べの事は言わないでおきますね』
『そうだね、言わないで欲しい』
朗は頷いた。
『あの、凛は?凛は平気そうでしたか?』
『朝はね…崇が普通通りだったから安心したみたいだよ、けど、彼女もカウンセリングを受けさせた方がいいな』
それには朗も賛成だった。そして、朗は凛の話をカーターに始める。
もう…どうしていいか分からない。
好きだと感じるだけ辛さが増す…昨日の凛を見ていただけで本当に愛しているのは崇だと分かったから。
そう…だから、崇と間違えられて携帯を受け取った事は黙っておこう……そう思った。
携帯のせいで、凛の部屋が荒らされていたり、自分が誘拐されそうになったのなら、凛まで巻き込んでしまう。なによりも崇にもしもの事があったら…凛はどうするだろう?
昨日…あんなに崇の為に泣いていた彼女は、きっと…壊れてしまう。
「朗、どうしたの?」
竜之介が手を引っ張った。
「何でもないよ」
笑ってみせる。
カーターが帰り、それと入れ代わりのように崇のお見舞いと竜之介、竜太郎、華が部屋に来ていた。
凛は崇を気にしながらも仕事へと出掛けた。
本当は崇の側に居たかっただろうが彼女が気丈に振る舞い元気にしていたので敢えて何も言わなかった。ただ…健気だな、と感じた。
「朗、食欲ないの?」
華が朗の目の前にサンドイッチを差し出す。マキコの差し入れだ。
「食べるよ」
そう言ってサンドイッチを一つ摘む。
「なんか…元気ないよ?」
華は顔を覗き込む。
「元気だよ」
笑って返事を返した。
「なんか…こんなにお見舞い来てくれるとは思わなかった」
照れ臭そうに…そして、嬉しそうに言う崇はいつもと変わらなく見える。
「崇兄ちゃん元気になった?」
竜之介がベッドの側に座る。
「元気なんだけど、エディが見張っててベッドから下りれないんだ」
「そりゃぁ、崇君が朝から仕事に行くと駄々をこねるからだろ?」
「こねてません!」
からかう竜太朗に崇は真顔で言い返す。
「こねてたよな、朗!」
と朗に話を振るがぼんやりとしている。
「朗?」
顔の前で手を上下に振る。
「えっ?何?」
キョトンとして竜太朗を見返す。
「何って、どうしたお前?具合悪いのか?」
「えっ?あっ、大丈夫…ちょっと眠いだけ…帰って寝ようかな」
そう誤魔化した。
「本当に大丈夫か?」
「うん、じゃぁ帰るね…崇、竜之介、華、バイバイ」
とベッドに居る崇とその側に居る華と竜之介に手を振る。
「朗、帰っちゃうの?」
つまらなさそうに竜之介が朗の側に来た。
「竜之介は残って崇と遊んでやれよ、ボードゲームはその為だろ?華も居るし、俺は眠いし」
「帰るなら送るぞ」
竜太朗はポケットから車の鍵を出す。




