重なる思い5
「お前、車の中で突然意識無くしたからビックリした…具合悪かったのか?それなのに俺、ガキみたいに絡んでさ…ごめん」
いつになくしおらしい朗に崇は笑ってしまった。
「なんだよ!人が真剣に謝ってんのに笑うなよ」
笑われて、つい怒りだす。
「こら、病人の前で騒ぐんじゃない」
エディに注意され、また大人しくなる。
「…竜太朗さんと竜之介は?」
崇は回りを見ているが、エディと朗の姿しかない。
「もう遅いから家に帰ったよ、竜之介は崇が心配だから帰らないって頑張ってたんだけどね」
「えっ?今…何時?」
「11時を回ったくらいかな」
朗は携帯で時間の確認をする。
『11時…?俺、また迷惑かけちゃいましたね…すみません』
エディに申し訳なさそうに頭を下げる。
『崇は謝り過ぎだって言っただろ、気にしなくていいよ』
エディは微笑む。
「それと朗、お前…凛を向かえに行けよ、仕事終わってるから」
「凛?凛なら居るけど」
「はっ?」
崇は慌てて起き上がる。
「お前が倒れたから凛に電話入れたんだよ、そしたら医者連れて来た、医者はさっき帰ったけどね」
調度ドアがノックされ凛と江口が入って来た。
凛の姿が目に入った途端に崇は、
「何で言うんだよバカ朗!」
と朗を睨みつけた。
「ば、バカって何だよ!倒れたりすると普通は家族に連絡するだろ?」
「余計な事するなよ、ちょっと具合が悪かっただけなんだから」
「心配させてもいいだろ?家族なんだからさ」
「うるさい!」
崇はそう怒鳴るとベッドを降りようとする。
『崇』
エディがそれを止める。
『平気です』
「平気じゃないわ」
凛が怒った声でそう言うと、
「いいから寝てなさい、先生から2、3日安静にさせておくようにって言われてるんだから」
崇に詰め寄る。
「平気だって言ってるだろ!」
「ダメよ!言う事を聞いてよね…お願いだから」
強い言葉とうらはらに凛の顔は悲しそうだった。
その顔に崇は大人しくベッドに戻る。
「はい、薬」
薬と水を崇に渡そうとするが、崇はいらないと首を振る。
「そう言えばお兄ちゃんって薬嫌いだったよね、子供みたい」
凛は、わざと大きい声で朗達に聞こえるように言った。もちろん朗は凛の言葉に笑いをこらえる。
崇はムッとすると無言で薬を取り、口に入れるとすぐに水で流し込む。
後味が苦い…崇は凛の言う通り、薬が嫌いだった。
「飲んだ?じゃぁ、寝なさい」
凛の迫力に圧され、崇はベッドに潜り込むとシーツをスッポリと被った。
「本当に子供なんだから」
凛はため息をつく。
◆◆◆
崇が寝入ったのを見計らって、エディと江口、凛、朗はソファーに座り、ウォンの兄の話を聞いていた。
ニュースではすでに流れており、エディが崇が気にするといけないからとテレビを消していた。
「江口さん、俺や凛も聞いていいんですか?」
「いいよ、聞くなって言っても聞きそうだし」
江口は事件の話をする。
「まず、警察に電話がかかって来たんだ、死体が海に浮かんでるって…しかも死体の身元も電話の主が言ったらしい、電話はそれだけ言うと切れて、逆探知でヨロズ町の市場近くの公衆電話からだった…、身元確認でウォンの兄だと分かるがウォン君はすでに行方不明…兄は弟を頼って今月初めに佐世保に来てた」
「ウォンのお兄さんはどうして殺されたんですか?」
朗が聞く。
「兄は麻薬のディーラーだったんだよ…兄弟は離婚で離れて暮らすようになり、兄は韓国に父親と残り、弟は母親とアメリカで母親の再婚相手と幸せに暮らし…でも、兄の方は幸せじゃなかったみたいだ、父親が借金を残し蒸発、残された兄は生きる為に悪い世界に足を突っ込む…弟とは離れてからも連絡は取ってたみたいだけど、兄が裏でヤバイ仕事始めた頃から連絡はあまり取らなくなったみたいだ…兄が連絡しなかったのか弟が見放したのか」
「違う!ウォン君はそんな人じゃない!香港に居た頃、よくお兄さんの話をしていたもの…、お兄さんが悪い事をしているとは知らなかったはず、知っていたら助けたわ、彼はそんな人よ」
江口の説明に凛は泣きそうになりながら訴える。
「ごめん」
「けど、結局…ウォンとお兄さんは逢えたわけ?あと崇が言ってたけど、ウォンは少し前に韓国の戦艦の乗組員に兄から預かり物ないかと争ってたって」
と朗。
「逢ったみたいだよ、兄は隠れてた空き家で殺されたんだ…後から見つけた…そこに微量だけどウォン君の血もあったんだ」
その言葉に朗と凛は驚き、顔を見合わせる。
「待って…じゃぁウォンは…」
まさか…と嫌な考えが頭を過ぎる。




