重なる思い4
「ねぇ、人がいっぱい居るよ」
竜之介が目ざとく人だかりに反応する。
「何だ?時期外れの花火か?」
竜太朗も目を凝らして人だかりに集中している。
「違うんじゃない?下を見てるもん」
竜之介の言う通り、たくさんの人達は下を見ている。
「見に行くか?」
こういう時は野次馬根性を出してしまう竜太朗。
「やめようよ」
そう言ったのは朗だった。
江口が殺人現場に居ると言っていた…。
きっと、その現場なんだと人だかりの向こうに見えて来たパトカーを見て、そう思った。
「事故かな?」
車が現場に近づくと崇も興味を示す。
「事故なら救急車が来てるんじゃないか?それかもう来た後かな?」
竜太朗は窓を開け、身を乗り出し なんとか見ようと試みている 。
「オジサン急ごうよ」
現場がもうすぐそこだと言う時に朗が急かした。
「どうした?腹でもこわしたか?ケーキ2個も食べるからだぞ」
竜太朗からからかわれる。
崇が、その言葉を聞いて鼻で笑った。
朗は物凄くカチンときた、だから…思わず。
「殺人現場なんか子供に見せられるか!」
と叫んでしまい、慌てて口をつぐんだ。
「朗、何で殺人現場って分かるの?」
横に座る竜之介が不思議そうに聞いてくる。
「いや…それは…」
言ってしまった事を後悔した、…なんて誤魔化そう?必死に考えるが思いつかない。
「何故知ってるか?それは君が犯人だからだ!君はトイレに行くと言って殺人を犯しに行ったのだ…その証拠に長かった、もう諦めろ!名探偵金田一の孫の俺が」
「もういいから」
朗は竜太朗の口を塞ぐ。
「金田一の孫って言うより、お父さんの年齢のくせに!」
「最後まで言わせろよ!じゃぁ何で殺人現場だって知ってるんだよ」
朗の手を口から外すと最後まで言わせて貰えなかったせいか、少し不機嫌だった。
「江口さんに聞いたんだよ、トイレで電話してたんだ…誘拐の事言おうと思ってさ、それと凛の事も頼もうと思って」
「ほう…それで、何を聞いたのかな?」
「殺人現場に居るってだけだよ」
「本当に?」
竜太朗から疑いの目で見られ、朗は目を逸らす。
「ほ、本当だもん」
朗の声は裏返っていた。
「お前嘘つけないんだから、嘘つくなよ…声、裏返ってるぞ」
その突っ込みに朗は、観念した。
「ウォンの…お兄さんが殺されたって」
その言葉に真っ先に反応したのは崇だった。
「とりあえずホテルへ急ごう」
真っ青な顔になった崇を横目で見ながらエディはアクセルを踏む。
◆◆◆
どうして…こんな事になったのだろう?
ほんの少し前まで普通に暮らしていた。崇が通訳のアルバイトを始めたのは2年前で初めは観光客相手だった。
香港から佐世保に戻ってすぐにウォンから自分も佐世保に移るからと連絡が来た。
ウォンは普通の家庭の子供で、再婚相手の父親も優しく、崇も可愛がって貰った。
ウォンはよく崇に相談をしてきた、その相談を真面目に聞き、時には励まし、笑い合い、少々…喧嘩もした。けれど崇はウォンに相談する事は無かった。
たまにウォンから崇は悩みないの?と聞かれたりしたがいつも無いと答えていた…その時のウォンの顔は少し寂しそうだった。
ウォンはきっと、自分が悩みを打ち明けるように崇にも悩みを打ち明けて欲しかったのだと今なら分かる。
でも、言いたくても言えない…。
実の父親を殺した事なんて打ち明ける事なんて出来ない…それが原因で心的外傷後ストレス障害に苦しんでる事なんて言えなかった。
でも…どうして言えなかったのだろう?
ウォンが自分の秘密を知ったら離れて行くと思ったから?
ウォンはそんな人間じゃないと分かっているのに、勝手にそう想像してしまう。自分は心を見せていない…ズルイ人間。
だから、本当に大事な時に相談して貰えなかったのだろうか?
そう考えたら体が震えてくる。結局はウォンを見捨てた事になるのではないのか?
違うとは言えない…もしかしたらウォンはもう…そう考えると息が苦しくなる。
吐き気さえしてくる…苦しくて、苦しくて、どうしようもないと思った瞬間に誰かが手を握ってくれた。
『崇、大丈夫か?』
必死に自分を呼んでくれるエディの声で目を開けた。
『良かった…気がついた』
エディが崇に微笑みかけてくれる。
何故かエディは自分を見下ろしている…
崇はキョロキョロと回りを見た。
さっきまで車の中に居たはずなのに、見回すとエディが泊まっているホテルの部屋だった。
そして自分はベッドに寝ている。
そう理解した時に、
「崇、目覚めたんだ」
と朗も顔を出した。




