重なる思い3
「何で聞かないんだよ」
「人と逢うのをいちいち聞けるかよ、そりゃぁ、俺だってもっと詳しく聞いてれば良かったって思うよ、そしたら、行方不明になんかならなかったかも知れない」
崇は感情的に言葉を吐き捨てた、それは誰に言われなくても自分が1番そう感じていたから。
「崇、落ち着きなさい」
エディがいち早く崇を制しした。
朗は崇の迫力にのまれ、無言になるがやがて。
「ごめん…そんなつもりじゃ」
と謝った。
「ウォン君から始まったのならウォン君が鍵なんだね、ウォン君から何か預かったりしてないの?」
竜太朗が聞く。
「預かり物はないよ…ウォンがいなくなる少し前に戦艦の乗組員と揉めてたくらいかな…預かり物はないかって」
「誰からの?」
「ウォンのお兄さん…でも、ウォンとお兄さんは両親の離婚で離れ離れになって、ウォンが日本に来てからは会ってないって」
「お兄さん?…もしかしてウォン君が逢う人ってお兄さんだったんじゃ?」
「だったら、俺に言うはずだし」
「言わない…と思うよ、俺がウォン君なら言わない…君を巻き込みたくないなから」
竜太朗の言葉に崇は黙り込む。
俯いてしまった崇は泣いているのかと朗は思ってしまった。
こんな時、何て言ってあげればいいのだろうか?
ウォンは大丈夫さ、きっと見つかる。どれも根拠がない慰めの言葉だ…気軽に言える言葉ではない。
「あ~もう!」
朗は声に出すつもりはなかったのだが声に出してしまい、崇を始めとする全員の視線が集まり、愛想笑いで誤魔化した。
◆◆◆
「江口さん、携帯鳴ってますよ」
若手の刑事に言われ江口は慌てて胸ポケットから携帯をだして電話に出た。
「はい。江口です…」
「こんばんは朗です」
電話は朗からだった。
「何だ朗君どうしたの?」
「あの…俺、江口さんに言ってない事あって…」
朗は誘拐されそうになった事を説明した。
「そんな大事な事は早く言いなさい、今どこに居るの?」
「レストランのトイレ…エディと崇とかで食事に来てて」
「エドワードさんと崇君も一緒なの?」
「エドワードって誰?」
「はっ?誰って…エディさんの名前…エディは愛称だろ?いや…それはともかく崇君に伝えて…、今 殺人現場に居るんだ…殺されたのは韓国人で…ウォンの兄だ」
朗は、携帯を落としそうになった。心臓がバクバクと大きく動き出す。
「朗君?聞いてる?崇君は兄とは顔見知りではないけど一応知らせておいて、エディさんにも事件に協力する代わりに情報を流す約束なんだ」
遠くで江口を呼ぶ声がする。
「悪い、また後で」
そう言って、江口は電話を切った。
朗は暫く茫然としていた。今…何を聞いたっけ?
携帯を切り、頭で整理をする。
殺された…って言ってたよな…。
誰がだっけ?ウォン…ウォンのお兄さん…朗はようやく我に返ると慌ててエディ達の元へと急いだ。
「朗、遅いぞ」
竜太朗が文句を言う。
朗は、エディと崇を交互に見る。
「何?どうした?お前もイチゴタルトが良かったのか?」
「へ?」
竜太朗に言われ、テーブルを見ると崇とエディの前にはイチゴのタルトが置かれてあり、自分の席にはガトーショコラがあった。
「お前さ、チョコとか好きだからさ勝手に頼んだ」
「朗はイチゴ好きなんだよ、この前も勝手にお店のイチゴ大福食べて、おじいちゃんに怒られてたもん」
「朗、お前…そんな情けない事してたのか」
竜太朗が情けない顔をした。
「朗、食べたいなら私のをあげるよ」
エディが朗の前にイチゴのタルトを置いてくれた。
「おじさん…」
朗は真顔で、エディを見つめる。
「なに?」
「…ありがとう」
そう言って朗はタルトを貰った 。殺人事件の話をするのは後にしよう…竜之介にこれ以上人が殺された話なんてしたくない…朗はタルトを食べ始めた。
◆◆◆
食事も終わり、5人は駐車場へと来た。
車に乗り込むと朗は、運転席のエディに、
「おじさん、話があるからホテル行ってもいい?」
と聞いた。
「いいよ」
ウォンの兄の話をする気だった。
「おじちゃん、今日はありがとう」
竜之介がお礼を言う。
「美味しかった?」
「うん、美味しかった」
「そうか良かった…、竜之介がオジサンを怖がらないでくれて嬉しいよ、怖い思いをしたからね、嫌われたらどうしようかと思ってたよ」
「だっておじちゃんは優しいもん怖くないよ」
その言葉にエディは微笑む。
車が海の近くまで差し掛かると、人だかりが見えてきた。




