重なる思い
竜太朗の言葉に崇が上乗せして鼻で笑った。
「ムカつく~」
朗は悔しそうにジダンダを踏む。
「…負けてるよ朗」
竜之介がポンッと朗の腰辺りを叩く。
エディが車の用意が出来たからと呼びに来たので喧嘩は一時中断となる。
「あ、ねぇ…今から行くレストランって、キチンした格好じゃないと入れないとか言わないよね?俺、何も考えないでラフな格好なんだけど」
今更ながらに思ったのは崇とエディがスーツだったから。
「お前今更、もう着くのに…それにまともな服持ってないくせに」
竜太朗にからかわれ、「いちいちムカつくんだけど」朗はムッとしている。
「大丈夫だよ、普通のレストランだから」
運転席からエディがそう言ってくれた。
「だよね」
朗はホッと胸を撫で下ろした。
「あれ?おじちゃん日本語話せるの?」
竜之介が運転席のシートに後ろから顔を出した。
朗の質問に日本語で答えたからだ。
「少しならね…、解らなかったら崇がオジサンの通訳してくれてる」
「本当?文字とか解らなかったら僕教えてあげるね」
竜之介はニコッと笑う。
「じゃぁ、お願いしようかな?」
「うん」
竜之介は、元気に返事を返した。
◆◆◆
エディの言う通り、ラフな格好でも大丈夫なレストランだったのだが…朗はメニューを見ながら値段に目を丸くした。
ファミレスや回転寿司にしか行った事がない朗は、悲しくもケタを数えている。
信じられない…どうして、スープだけにこんな値段がつくのだろう?
「どうした?食べたいものない?」
エディに、声を掛けられ我に返る。
「竜太朗さん…ここ値段高いよ…こんなの奢ってもらえない、話があるって言ってたけど、変な事頼まれたりしないよね?」
隣に座る竜太朗の耳元で、小声で言う。
「朗…、お前は本当に可愛いなぁ」
貧乏が染み付いている朗に同情している。
「竜之介は決まったかな?」
エディは、優しい口調で竜之介に聞く。
「おじちゃん、メニュー日本語だよ、読める?」
竜之介は、自分に与えられたメニューをエディに見せる。
「あ、そうだったね、竜之介が教えてくれるんだったね」
エディは、微笑むとメニューを閉じた。
エディには、英語で書かれたメニューが来ていたのだが、竜之介の好意に甘えた。
「朗、決まった?僕はこれ…おじちゃんはこれだって」
竜之介はメニューの料理を指さす。
「あ、うん…まだ」
朗は値段が頭で回り、料理を選べずにいた。
「朗、だったら私が適当に頼むよ」
エディに言われ、朗はお願いしますと頷いた。
エディは、料理を注文すべく合図をした。
◆◆◆
しばらくすると、料理が次々に運ばれて来た。
「オジサン、話って何?日本語でもいいの?」
「構わないよ、解らない言葉は崇が通訳してくれるし」
「なら、良かった…」
朗はホッとして笑った。
英語は話せても崇みたいに完璧ではなかったからだ。
「話と言うのは君が誘拐されそうになった事…どうして襲われた?」
「それは…、充電器を取りに部屋に行ったら、荒らされてて…気配がしたから振り向いたら何か光って、スタンガンだと思うけど、ギリギリで交わして、竜之介を連れて逃げたんだけど、回り込まれて…後は殴られたから覚えてない」
「部屋荒らされてたのか?盗られた物とかあるのか?警察には?」
「盗られた物なんてないよな朗、泥棒が同情して何か置いていくかも」
竜太朗がからかうように肩を叩く。
朗はちょっとムッとしながら、
「盗られた物は無い、警察と言うか知り合いの刑事さんに部屋荒らされた事は言ったけど、誘拐は言ってない」
と言った。
「どうして?」
「俺を崇と間違ってたみたいだから、もし言ったら凛に知られるだろ?心配するかな?って」
「バカ!お前、それなら尚更言わなきゃ!凛ちゃんも狙われるかも知れないだろ?竜之介を人質に取られたりしたんだから」
竜太朗の言葉に朗はあっ、という顔をした。
崇の事で、凛に心配をさせたくない…朗はそう思っていた。
半分は自分のエゴだ、崇の事を思い泣いて凛を見たくない…ヤキモチに近い、けれど…竜太朗の言葉で間違っていたのかも知れないと思った。
「どうしよう…、仕事の帰りとかに狙われたら」
朗は、真っ青な顔で立ち上がった。
崇も同じ気持ちだった…狙われていたのは自分だったのだから、力の弱い凛は狙われやすい。
どうして、気付かなかったのだろうか?
一人にしてはいけない!崇も、真っ青な顔で立ち上がった。
「こら、二人とも食事中に立つな」
竜太朗に注意される。
「でも、凛が…」




