ココロのドア7
マキコは珍しく感情的で、目に涙を浮かべている。
竜太朗はマキコを引き寄せると頭を撫でた。
「一人で泣いてないで、一緒に泣きたかったの!」
そう言うとマキコは我慢出来ず泣き出した。
「まだ…好きなんだろ?エディの事、好きだから華ちゃんを側に行かせるんだろ?マキコちゃんも一緒に行けばいいのに」
竜太朗は優しく頭を撫でる。
「嫌!」
マキコは顔を上げ即答する。
「即答かよ…」
「朗はどうすんのよ、あの子のご飯とか世話とか」
「やっぱり朗がネックになってんのか…朗は俺が面倒みるから」
「それでも嫌!」
「なんなんだよ」
竜太朗は少し呆れたように言う。
「ずっと意地張って来たのよ、今更素直になんてなれない」
「はいはい、意地っ張りもマキコちゃんらしいけどね」
「竜太朗」
「ん?」
「力いっぱい抱きしめて」
「はっ?」
突然の申し出に竜太朗はキョトンとなる。
「いいから早く!」
「わ、分かった」
迫力にのまれ、竜太朗はマキコを力強く抱きしめる。
「懐かしいな…この感じ、高校の頃に抱きしめてもらったじゃない?チエコと付き合ってるって知ってたけど、竜太朗に告白してフラれて…わがまま言って抱きしめてもらった」
マキコは竜太朗の胸に顔を埋めて懐かしそうに言う。
「あったなぁ…、でもあの現場をチエコに見られてさ、フラれた」
「嘘!本当に?ごめん」
マキコは顔を上げ、驚いた顔をしている。
「いいよ、昔の事だし、アイツにも他に好きなヤツ居たみたいだし…それにこんな場面見たら誰だって誤解するな…って今更思う」
「確かに…今、この誤解も説かなきゃね」
マキコは竜太朗に後ろを見るよう合図を送る。
後ろを振り返ると華が呆然と立ちすくんでいた。
華を椅子に座らせ、竜太朗は誤解だと説明をした。
「そっか…安心した」
華は説明を受けるまで不安げな顔をしていたが、誤解だと知るとたちまち笑顔になる。
「そりゃぁ…抱き合ってる所だけ見たら普通は誤解するからね、ごめんね華、余計な心配させちゃって」
マキコが、そう謝ると華は首を振り。
「誤解よりも、お父さんをまだ好きだって事に安心した」
嬉しそうに言う。
マキコがエディの文句ばかり言っていたので、華は本当にエディを嫌いになったのかとずっと不安だった。
「マキコちゃんは誰かさんと一緒で、意地っ張りで臆病で、素直じゃないからな」
マキコに笑いかけながらに言う竜太朗は案の定…マキコに拳で殴られる。
「だから、手加減してよ」
顔を押さえながらに泣き言を言う。
「ねぇ?誰かさんって…アタシの事?」
そう言いながら華が、竜太朗を見ているものだから、竜太朗は後ずさりしながら、
「待て!謝るから殴るな」
と半分、ビビっている。
「失礼しちゃうな」
華はムッとしている。
「華は、お母さんみたいになっちゃダメよ」
「何が?」
「朗の事よ、素直になって告白してみたら?」
「ば、バカ言わないでよ、言えるわけないじゃない!凛ちゃんが居るのに、朗が困るよ…それに」
言いかけて華は急に黙った。
「それに?」
マキコは華の前にしゃがみ込み俯く華の顔を覗き込む。
「気まずくなるのヤダもん」
華は、まるで玩具を買ってもらえない、小さな子供みたいに拗ねたような顔をしている。
「気まずくなんてならないでしょ?」
「だって、アタシは気まずいもん…まともに顔も見れないし、…悪いなぁって思うのよ、向こうは普通に話掛けてくれるのに」
「ん?誰の話してるの?」
マキコは首を傾げる。
「晴彦君…アタシが朗を好きだって知ってるけど、それでもいいって告白されたの」
「いつ?」
マキコと竜太朗の声が揃う、二人は興味津々だ。
「映画に行った後…断ったんだけど…凄く気まずいの」
「あ…だから晴彦君、最近見ないのね」
マキコは一人、納得する。
「今までの関係を崩しちゃうもん」
「崩しているのは華だけでしょ?晴彦君は普通にしてくれてるのに、気まずくしてるのは自分でしょ?勇気を出して告白してくれた晴彦君に悪いわよ…、それに晴彦君の気持ちは今の華なら分かるでしょ?もし、自分が朗に告白して、朗に気まずくされたら悲しいでしょ?それと同じ、相手には好きになってくれて有難うって言わなくちゃ、朗はそのタイプよ、告白しても変わらない」
マキコの力強い言葉に、華も納得が出来た。
確かに…朗は変わらない。
「そう…だよね、晴彦君にはちゃんと有難うって言わなきゃ…それに朗も粋なり変わる人じゃないもんねキスした後も変わらなかったし」




