ココロのドア6
『俺…息子さんの代わりにはなれません』
真剣に言う崇に申し訳ない気持ちを感じた。
『ごめん…そんなつもり…』
謝ろうとするエディの言葉を遮り。
『でも、親友にはなれますよね?エディがそう言ったんですよ』
そう言って微笑んだ。
『崇…ありがとう』
エディも嬉しくて微笑み返す。
『…ところで、見てたんだよ、朗に足をかけて転ばしただろ?』
エディがニヤリと笑うと崇は苦笑いで返した。
『見て…たんですか』
少し罰が悪そうだった。
そう、確かに腹が立ち思わず足を掛けてしまった。
まさかエディに見られていたとは思っても見なかった。
『うん、面白かったよ、…それと親友なら教えて欲しいんだけど』
『何をですか?』
『崇は胸が大きい方が好きかな?』
『エディ…』
崇は困った顔をした。
◆◆◆
夕方ー
ロジックのドアが開き「華ちゃん、マキコちゃんは?」と竜太朗が入って来た。
「お母さんなら裏に居るけど?…あれ?朗は?」
華はキョロキョロと周りを探す。
「何?朗に来て欲しかったわけ?」
竜太朗はニヤニヤする。
「ち、違うもん」
華は慌てて首を振る。
「朗はジイサンに説教食らって、罰として店の掃除を竜之介とやってるよ」
「あ~…、連さん迫力あったもんね」
「俺も初めて見た…、マキコちゃん裏なんだろ、カウンター通るよ」
そう言うと竜太朗はカウンターを通り抜け、裏手に出た。
「よう!マキコちゃん」
マキコは座って野菜の皮むきをしていた。
「あら、朗も一緒?」
作業の手を止め、顔を上げた。
「その台詞二回聞くと何か朗にムカついてくるな」
「華も聞いたの?じゃぁ、一緒には来てないのね」
「そう、華ちゃんにガッカリされたよ…俺だって、よか男とに」
「よか男ね…確かに」
マキコは笑うと皮むきを始める。
「俺も手伝うよ」
と向かい合い側に座る。
マキコが皮むきを渡そうとすると、
「ナイフでいいよ、俺は皮むきの名人だからな、ガキの頃によく手伝いをして小遣い稼いでた」
竜太朗は器用に皮をむいていく。
「民宿だもんね。あっ、オバサンに漬け物貰ったの、ありがとうって言っておいてね」
「あのババア、またロジック来たのか」
「昨日来たわ、野菜もたくさん貰った、ついでにお見合いの話も置いていったけどね」
「はっ?…痛っ」
竜太朗は思わず指を切る。
「もう、名人なんでしょ?」
マキコはポケットの中の絆創膏を出して竜太朗の指に貼る。
「見合いって…、どこのどいつだ!」
鼻息が荒く興奮している。
「さぁ?断ったからね」
「何だ、断ったんだ」
安心した顔に変わる。
「何かつまらなさそうね」
「別に…」
竜太朗は、また皮むきを始める。
「結婚はもういいかな?面倒臭いし…でも彼氏は欲しいかな?年下で可愛くて素直で…忠誠で」
マキコはそのまま、竜太朗の横に座る。
「本気で言ってる?だったら、それに当て嵌まるのは崇君だけだな」
器用に何個も野菜を剥きながらに言う。
「崇君か…、少し意地悪しちゃったからな」
「強制ワイセツは犯罪だぞ」
竜太朗は真顔でそう言う。
マキコは彼のほっぺをつねり「そんな事するか!」と怒る。
「いたひ…マキコひゃん」
「意地悪言っちゃったの、エディが優しいのは死んだ息子の代わりだって、何であんな事言ったんだろ?誰だって、誰かの代理だと言われたら気分悪いと分かってんだけどな」
マキコは、俯くと膝をかかえる。
「ヤキモチ?」
「うるさい」
マキコは、竜太朗のほっぺたをつねる。
「華ちゃんってさ、朗に意地悪ばっかり言うだろ?本当は好きなくせに…本人の前だと意地悪をして心を隠す感じで、…目の前の誰かさんにソックリ」
「うるさいわよ!あ~、もうムカつく!そうよ、ヤキモチよ、あの人が私に会う度に崇君か華の話ばっかりでさ、崇、崇ってお前はホモか!って喉まで出かかったくらいよ、だから崇君に八つ当たりしたのよ、悪い?」
正々堂々と勢いよく、そう言い放つマキコに竜太朗は迫力にのまれ。
「悪くないです」
と即答する。
「崇君を息子の代わりにするなら私だって朗を代わりにしてきたわよ…私も十代でエディと結婚しちゃって、すぐに子供産んで…若すぎたせいもあるんだろうけど…死んだ子供のせいにして離婚したのが悔しかった…エディは私を責めなかった…私のせいで死んじゃったのよ、幸せにしてあげたかったのに…責めてくれればよかった…君の方が辛いだろうって…バカみたい、自分は我慢して心に鍵かけて…カッコつけてんじゃないわよ!」




