君の涙の理由2
「竜ちゃん…ごめんね。大きい声に驚いたんでしょ?」
華は急にしおらしくなり、驚かせてしまったんだと竜之介に謝った。
「ううん、華姉ちゃんの怒鳴り声はもう慣れてるもん」
竜之介は無邪気な笑顔を見せ、怒鳴り声に慣れてると言われた華は恥ずかしくなる。
崇は俯いて笑っている。
「崇君、笑わないで!じゃぁ、どうしたの?トイレ?」
「あのね、喉渇いたの。このミルク貰っていい?」
とエディが渡したミルクを手にした。
知らない大人と朗の心配と緊張で彼はミルクを飲む事が出来なかった。
エディが華の父親と判り、朗も大丈夫だと分かったのでようやく安心出来たのだ。
『それはもう冷たいから、温め直してあげる』
とエディは竜之介の手を引き、レンジの前へ連れて行く。
『エディって子供好きだよね』
その様子を見ながら崇が言う。
『そうなの。好きなんだけど、見かけ迫力あるでしょ?だから子供に泣かれちゃうの』
華のその台詞に崇とカーターは笑った。
『それにしても崇君が朗と知り合いだとは思わなかったな』
『俺も、君の失恋相手がアイツだとは思わなかった。』
華は驚いたように崇を見る。
崇には朗の名前を言ってはいなかったから…。
『そうでしょ?君の態度を見れば分かるよ…』
華は静かに頷く。
『しかし、アイツモテるなぁ~どこがいいわけ?俺の妹の彼氏だしさ』
「えっ?凜ちゃんって崇君の妹なの?」
驚きの余り、華は日本語になる。
「うん。妹だよ…」
妹と言う言葉を口にし、崇は寂しい気分になる。
『あのぉ~、突然日本語は止めてくれるかな?』
日本語が分からないカーターは一人ポツンと取り残されて寂しそうだ。
『けど、彼は罪な子だね。こんなに綺麗な子に思われて』
『カーターさん、アタシは綺麗なんかじゃないわ。崇君の妹に比べたら…アタシなんて』
華は本気でそう思っていた。
凜は誰が見ても可愛くて綺麗で…それに大人しくて怒鳴ったり、説教したりしない。
自分とは正反対の凜を羨ましく思う。
自分も彼女みたいだったら…朗だってきっと、そう卑屈になりそうになる。
『なんか…ね。そう思ってしまってはお父さんに悪いよ、君はエディに取って自慢の娘だし、私は君を綺麗だと思う君の魅力が分からない彼がダメなんだよ』
カーターの言葉は嬉しかった。
『カーターさんってモテそう…』
彼の人を和ます優しい笑顔と、その優しい言葉にそう感じた。
◆◆◆
「朗、目が覚めた?」
竜之介がミルクを手に部屋に戻ると、朗が目を開けていた。
「竜之…介?…ここどこ?」
彼のぼやけた視界に見知らぬ部屋が映る。
『大丈夫か?』
竜之介と一緒に部屋に来たエディも顔を見せた。
「おじ…さん?何でおじさんが?」
焦点が合わない目でエディだと確認するかのように質問をする。
「お医者さん呼んでくるね」
竜之介は急いでカーターを呼びに部屋を出た。
「医者?なんで?」
朗は体を起こそうとするが頭に激痛が走り、手で押さえ、顔を歪め枕に倒れ込む。
「急に起きるからだよ、あまり動かない方がいい。」
エディは日本語でそう言うと朗の頭に冷たいタオルをあてた。
朗はここがどこで、どうしてここに居るのかを考えていた。そして、自分の部屋が荒らされていた事、外国人に襲われた事を思い出した。
『大丈夫?意識はしっかりしてる?』
カーターが部屋へ来た。
『大丈夫みたいだよ、話せる』
エディはカーターに場所を空けた。
『君は英語分かるかな?私は日本語がわからないから…分かると助かるんだけど?』
カーターはゆっくりと話ながら朗に聞いた。
『今…みたいにゆっくり話してくれたら分かる。マキコさんに習ったから』
朗は崇みたいに流暢では無かったが綺麗な英語を話した。
『マキコ?』
『私の元妻の名前だよ』
エディは苦笑いする。
『元奥さんにね…』
カーターはニヤリと笑った。
『エディや崇にも事情は聞いたんだけど、君の口からも聞きたいんだけど話せる?』
『崇?…崇が何で?』
とキョトンとする。
『ねぇ、俺…なんでここに居るの?ここはどこ?外国人は?俺の部屋も荒らされてて』
朗は起き上がりエディにしがみつくように必死に聞く。
『朗、落ち着いて。ちゃんと説明するから』
エディは朗をベッドに寝かせる。
『もうちょっと落ち着いてから話聞いた方がいいかな?私は医者なんだよ、君の診察させて欲しい、いい?』
『医者?アメリカにはこんなカッコイイ医者が居るの?』




