君の涙の理由
『そうはいかない、私は崇の主治医だし。眠っている子も、あの男の子の心配だからね』
カーターは全く帰る気はないようで、しかも…彼が粘り強いと言う事をエディも崇も承知している。
崇があれだけ拒んでたカウンセリングにこぎつけたのだから。
2人は諦めたように笑う。
ドアが急にノックされ、3人は同時にビクッとなった。
『お父さん居る?』
華の声が聞こえ、エディは安心したようにドアを開ける。
『ハンバーガーの差し入れ』
何も知らない華は無邪気に笑い、袋を高く上げて見せた。
その姿にエディは癒され、微笑み、華を部屋の中へ入れた。
「崇くん」
すぐに崇に気がつき微笑み掛ける。
「華姉ちゃん」
華の声を聞き付け、竜之介が華の元へ駆けてくる。
「えっ?竜之介君…何で?」
崇は通訳をしているからエディの側に居てもおかしくはない…
でも、竜之介は?
すぐにピンと来ずに華はただビックリしている。
『華、この男の子を知っているのか?』
とエディ。
『うん、竜太朗さん知ってるでしょ?お母さんの幼なじみの…その人の息子さんよ』
『あぁ、カステラ屋の』
華の説明で竜太朗の息子だとようやく分かったエディは、竜之介がまだ赤ちゃんの時に遊んであげた事があったのを思い出した。
『あの時の赤ちゃんか…大きくなったな』
産まれた時から知ってるとわかるとさらに愛情が増す感じがした。
「華姉ちゃん、この外人さん知ってるの?」
華と余りにも親しげに話すので気になったようだ。
「知ってるわよ、この外人さんはアタシのお父さんよ」
「本当に?怖い人じゃないの?」
「怖い人?いやーね、竜ちゃん。ただのバカ親よ」
華が笑い出したので竜之介も安心したのか、ようやく笑顔になった。
「ところで、何で竜之介君がここに居るの?」
「朗も一緒だよ」
「はっ?」
華は驚いてエディを見る。
エディが奥くの部屋を指差すと華は急いで奥の部屋へと行った。
そこには朗がベッドで眠っていた。
嘘…何で?
ドキドキと心臓が高鳴るなか、朗に近づく。
よく見たら氷枕があり後頭部が冷やされ、熱があるのかな?と額に手をあてるが熱くはない。
シーツから出ている手は手当されている…
『あまり体を揺すらないでね、彼は頭を殴られてるから用心しないと。』
いつの間にかカーターが部屋へ来ており、注意をした。
『頭?彼どうしたんですか?…あ、えっと、父の知り合いですか?』
華は初めて逢うカーターに少し警戒をする。
『エディの娘さんだね。成る程…自慢したくなるわけだ、美人だね。私はジョン・カーターと言うんだ、医師をしてる。初めまして』
微笑み華に握手を求める。
『初めまして、娘の華です。…あの、彼は…朗はどうしたんですか?』
華は握手を交わしながら必死の形相で聞く。
『彼は大丈夫だよ。頭は軽い打撲で、後は手と足に擦り傷があるだけだよ』
『殴られたって喧嘩とかしたんですか?』
『怪我した経緯は私はよく知らないんだ。話は君のお父さんと崇に聞いてくれないかな?』
カーターの言葉に華はエディと崇の前に仁王立ちをし、
『どういう事か説明してよね!誤魔化したり、あやふやだったりしたら承知しないから』
と二人に凄む。
『竜之介にも聞くの?まだショックが大きいから無理かも』
と崇。
『後で朗に聞き出すわ!どうせ危ない事に首を突っ込んでるに違いないんだから!』
華の勢いは止まらず、朗以外の全員が彼女の迫力に呑まれていた。
エディと崇は華に朗と竜之介を保護した時の状況の説明をした。
けれど、肝心な部分。何故朗が見知らぬ外国人に誘拐されそうになったのか?何に巻き込まれているのか分からずに華はイライラしていた。
『保護した時の状況は分かったわ、お父さん達は車で偶然に通りかかり、竜之介君に助けを求められた…、それで誘拐されそうになった朗を助けたのね?…で、外国人は二人が来たから逃げて行った。…それで、朗と竜之介君をホテルに連れて来た…ってわけね』
エディと崇は同時に頷く。
『でも、肝心な部分が抜けてるじゃない!どうして朗は誘拐されそうになったのよ、アイツを誘拐したって身代金払う人居ないじゃないの!』
華は興奮の余り、声が大きくなり、目の前のテーブルを力いっぱい叩く。
『はい。落ち着いてね、そんなに怒鳴ると部屋に居る男の子がビックリするよ』
とカーターが冷たい水が入ったグラスを華に持って来てくれた。
『ごめんなさい、だって』
華が言い訳をした時に竜之介が顔を出した。




