狙われる探偵3
『ショックが大きいみたいだね、無理もないか…こんな小さな子が危険な目にあったんだから。崇、タクシーを呼んで この子を家まで連れて行ってくれないか?きっと家族も心配している』
エディは提案する。
『そうですね、きっと心配している』
『朗は私が見てるよ、カーターも、もうすぐ来るから。大丈夫だって言ってあげなさい』
エディがそう言うとドアがノックされ、ドアを開けるとカーターが立っていた。
『いつも悪いね』
エディはカーターを中へ入れる。
『いえ、大丈夫です。崇、また倒れたんですか?』
『違う、今日は別の子だ』
『エディは保護活動でもしてるのか?』
カーターは思わず笑う。
竜之介は自分が知らないカーターを見て、怯えたように崇にしがみつく。
「彼はお医者さんだから大丈夫。今から朗を診てくれるんだよ」
怯える竜之介に崇は優しい口調で教える。
「お医者さん?僕も朗の側に行く」
「ダメだよ、診察の邪魔になる。大人しくここで待っていよう」
崇に諭され、竜之介は渋々納得した。
『あの子は?』
カーターは自分を見て怯えた竜之介が気になるようだった。
『事情は話すよ、取りあえず診てほしい子が先だ』
とエディは朗の所へ案内する。
竜之介はだいぶん落ち着きを取り戻し、もう泣かなくなっていた。
多分、医者が来てくれたからだろう。
「事情は落ち着いてから聞くね、まだ怖いだろ?」
崇の問い掛けに竜之介は大丈夫と首を振る。
「あのね朗は、崇兄ちゃんと間違えられたの」
竜之介の予想もしない言葉に崇は驚き、一瞬…言葉を失った。
「朗を殴った人が崇と朗の事を呼んだの」
崇は言葉が出て来なかった。
◆◆◆
『そうか、見知らぬ外国人に襲われたんなら怖いな、あんな小さい子だし』
エディに説明を受けながらカーターは朗の診察をする。
『大丈夫かな?』
エディは心配そうな顔で診察される朗を見ている。
『外傷は頭と、倒れた時に出来た手と足の擦り傷で…あと、気になるんだけど、この首筋の痕は?』
カーターは朗の首筋に残るスタンガンの痕を指差す。
『それはこの前襲われた時に出来たらしい。スタンガンの痕だよ』
『スタンガン?…彼、どこかの国の王子か何かかい?襲われ過ぎだよ』
そう言うカーターにエディは苦笑いをした。なんせ、スタンガンには自分も関わっているのだから。
◆◆◆◆
「俺と…間違えられた?」
崇は聞くと言うより、自分に問い掛けるかのように呟いた。
「うん。英語だったから名前しか聞き取れなかったけど、崇って朗を呼んだの」
どうして…朗は自分と間違われ、そして誘拐されそうになったのだろう?
「俺、何に巻き込まれてるんだ?」
急に不安になるし、胸騒ぎもする。
どうしても、ウォンとの事件と上司に聞いた事件が関わっているように思えてならなかった。
「ウォンのお兄ちゃんは?」
竜之介がウォンの名前を出し、驚いたように顔を上げる。
「なんで?」
今まさに…ウォンの事を考えていた崇は…やはり。と言う確信が頭に浮かぶ。
「また、遊ぶ約束したのに来なかったから」
「あぁ、そうか…ウォンは風邪ひいちゃって」
行方不明なんて言葉を小さな子供に使いたく無かった。
「そうなの?…僕、心配しちゃったの。だって、朗を連れて行こうとした外国人は公園でウォンのお兄ちゃんと話してた人達だったもん」
崇はもう…何も言えなかった。
関係ないわけがなく、全ては繋がっているんだ!
崇は逃げ去る車を頭に思い浮かべる。
乗っていたのは運転手を含み3人でワゴン車だった。
横顔だけだが、見覚えがあるように感じた。
軍の関係だろうか?
だったらどうして彼らはウォンや自分を狙うのだろうか?
「待って、今ウォンと話してたって言ったよね?ウォンはその人達とどこかに行った?」
「ううん、話をしてただけだよ。後から違う人が来たもん」
「それって月曜日?」
「うん。そうだよ」
月曜日…ウォンが会うと言っていた人と誘拐犯が仲間だったら?
ウォンは上手く逃げ出したのだろうか?
もし、拉致されてたら携帯はすぐに没収されて外部との接触を閉ざされるはず。電話をかけてくる事が出来たウォンは上手く逃げ切って…それで俺を拉致しようとしたのかも?
だったら説明がいく。
『崇』
エディの声で我に返る。
カーターも診察を終えて一緒に出て来ていた。
2人の姿を見た竜之介はすかさず部屋に走り、朗の側へと行く。
『朗は大丈夫なんですか?』
『大丈夫だよ。頭を殴られてるから彼が目を覚ましたら一応大きな病院へ私が連れて行くよ。それと、男の子には怪我は無いのかな?あと、ショックが大きいようならカウンセリングに連れて行った方がいい。』
カーターは竜之介の心配もしている。
確かにカーターを見た時の彼の怯えた方は尋常じゃなく崇も心配だった。
『あの子は私にも怯えてただろ?車内では朗にくっついてて、ホテルでは崇にしがみついてた。』
エディは苦笑いをする。
あそこまで怯えられたらエディもへこむのだ。
『怪我はないです。俺がみましたから』
と崇も朗の所へと行く。
「朗は大丈夫だって、お医者さんが言ってるよ。良かったね」
そう言って崇は竜之介の頭を撫でる。
「本当?」
「うん、本当だから竜之介はもう、お家に帰ろう。お父さん達が心配してる」
「嫌、目を覚ますまで側に居る!だって、僕のせいだもん。それに朗は親友だもん、一緒に居る」
竜之介は朗の手をギュッと握りしめる。
「親友?」
「朗と僕は親友なの!朗がそう言ったもん」
竜之介は子供ながらに親友の心配をして、責任を感じている。
大事だから余計にそう思うのだろう。
親友…その言葉で崇の頭にはウォンの顔が浮かんでいた。
「親友かぁ…、お兄ちゃんにも親友居るよ。お兄ちゃんも親友が心配で帰らないと思う。…でも、お父さんには連絡しなきゃ」
そう言って崇は竜之介に自分の携帯を渡す。
自分も同じだ。
親友を思い、助けたいと願う。
大人でも、子供でも…友達を思う気持ちは変わらない。
竜之介は素直に携帯を借りて、電話を掛けてる。
崇は部屋を出て、エディの元へと戻る。
『朗が目を覚ますまで側に居たいそうです』
『けど、親御さんが心配するぞ』
『俺と帰る方が危ないですよ。朗は俺と間違えられて狙われたみたい』
エディとカーターは互いに目を合わせ、驚いた表情を見せた。
『あと、ドノバンさんにある事も聞いたし』
ドノバンとはウォンの上司の名前だ。
『何の話だ?』
事情がいまいち飲み込めないカーターは首を傾げている。
『君はいいよ。巻き込みたくない』
エディはカーターに話を聞かず帰るように言う。




