狙われる探偵2
二人は全力疾走で路地まで行くと隠れた。
様子を伺う。どこから現れるか分からない相手に朗はどう逃げ切るかを考える。
「朗、こっち」
竜之介が朗の手を引き、迷路みたいな通路を歩き出す。大人の朗よりは好奇心旺盛な子供の竜之介の方が気付かない道をよく知っていた。
通路を抜けると道路に出た。
少し、大通りだという事に朗は安心した。
道路を渡ろうとした時に目の前に車が行く手を塞いだ。
瞬間に危険を感じ、竜之介を後ろに庇い、後ずさる。
朗は前にばかり気を取られて後ろには全く気を配っていなかった。
「朗…」
怯えたような竜之介の声に振り向くと、彼はすでに人質に取られていた。
『残念だったね、可愛い子ちゃん』
車から男が降りて来て、朗が振り向くと同時に頭を殴られ、その場に倒れた。
「朗!!」
竜之介は倒れて気を失っている朗に必死で名前を呼ぶ。
「離して、離してよ」
竜之介は掴まれた腕を振り切ろうと暴れる。
『この子供はどうする?』
竜之介を捕まえている男が朗を殴った男に聞いている。
『取りあえず乗せろ』
男はそう言うと朗の体を抱き上げようとする、竜之介は腕を掴む男の手に思いっきり噛み付き、男が痛さで手を緩めた隙に逃げ出し、朗の元へと走る。
「朗に触らないで!」
竜之介は男を突き飛ばし、朗にしがみつく。
『このクソガキ』
手を噛まれた男が竜之介の元へと近づき、殴ろうと手を振り上げた。
竜之介は殴られる覚悟をした…。その時ー
バシュッー、音と共に車のフロントガラスが蜘蛛の巣状にヒビが入った。
『クソッ、』
朗を殴った男は辺りを見回す。
対向車が近づいて来るのが見え、竜之介はその車に向かい走り出した。
慌てて、竜之介を捕まえようと追い掛けて来た男が派手に転んだ。
その隙に竜之介は車の真正面に飛び出した。
車は寸前で停まった。
「危ないよ」
助手席から崇が顔を出した。
知ってる顔に竜之介はホッとしたように涙を浮かべると、
「助けて、朗が!」
と崇の元へ急いだ。
◆◆◆
「しかし、何が目的なんだろうね」
凜の部屋で竜太朗が呟く。
部屋はまだ荒らされた時のままだ。
「今、調べてるよ」
朗に頼まれ凜の護衛に来た江口が答える。
「ところで、崇君は大丈夫だったの?」
そう聞きながら竜太朗は倒されたソファーを起こす。
「お兄ちゃんは知り合いの部屋に泊めてもらってたみたいで」
「崇君が帰って来ないと不安で部屋に戻れないね。今日は?」
「お兄ちゃんの友達が行方不明になってるから…必死で探してるの、多分今夜も」
「友達ってウォン君?」
凜は頷く。
「行方不明…」
竜太朗は嫌な胸騒ぎを感じた。
◆◆◆◆
「お母さん、お父さんの所行ってくるね」
華は荷物を持ち、マキコに声をかける。
「あら、何しに?」
「お父さんがハンバーガー食べたいって言うから行ってくるね」
「あら、そう。…エディによろしく」
とマキコは華を見送った。
◆◆◆◆
「もう、大丈夫だから泣かないで」
朗を心配して泣きじゃくる竜之介を崇が慰めている。
崇とエディが偶然に居合わせ。朗は無事、誘拐されずに済んだのだ。
エディが気を失って居る朗を抱え、自分が宿泊するホテルに連れて来てくれた。
「朗は大丈夫だよ、お医者さんも呼んでるし」
崇は竜之介の頭を撫でる。
『崇、ホットミルクだよ。…その男の子に』
とエディが来て、カップを崇に渡す。
「ほら、ミルク飲んで。温まるから」
崇は竜之介の手にカップを持たせる。
「朗は?朗は大丈夫?」
竜之介はずっとその言葉を繰り返す。
「うん、大丈夫。ここは安心だし、朗は奥くの部屋のベッドで休ませてるし…だから、竜之介も安心してミルク飲んで元気になろう」
竜之介を安心させるように崇は優しく微笑む。
「でも、僕のせいなの。朗は危ないから家に居ろって言ったのに…僕がついて行ったから…朗は殴られて」
竜之介は大粒の涙を零す。
自分がついて行ったから
自分が捕まったから…
だから朗は殴られてしまった。竜之介の小さな心は罪悪感と不安で張り裂けそうだった。
崇はホットミルクを竜之介の手から取り、近くのテーブルに置くと彼を引き寄せギュッと抱きしめた。
まるで不安だったあの時にエディに抱きしめて貰ったように。
「大丈夫、大丈夫だよ。」
そう繰り返す。




