事件の始まり14
「えっ?」
「エディから、貴方の話を聞いたの。貴方崇君よね?」
「はい。エディが俺の話をですか?」
崇は途端に笑顔になる。
「とてもいい子だって、でも弱い子でもあるから心配だって言われたわ」
崇はエディが自分の話をされていたのが嬉しくて仕方がないと言う様子でマキコも見てて彼を可愛いと感じた。
「きっと貴方に重ねているのね」
「えっ?」
「華には本当はお兄さんが居たの…、でも赤ちゃんの時に肺炎でね。…生きてたら崇君くらいかな?だから、崇君を息子のように思ってるのかな?」
崇は嬉しそうな顔から一転して、しんみりとなってしまった。
彼も大事な人を亡くしている。…でも、それでもエディは人に優しく笑顔だ。
きっと、それだけ人の痛みが分かるのだろう…。そんな彼を本当に凄いと感じた。
「…どうして、離婚したんですか?」
「子供が亡くなってから少しづつ関係がズレ始めてね、華が産まれても喧嘩が絶えなくて、娘に仲が悪い所を見せたくなくてね、…それで離婚したの。」
「そうですか…」
「彼をよろしくね。初めてなのよ、彼から誰かの話を聞くなんて。あの人はめったに他人を誉めたりしない人なの、よっぽど崇君が好きなのね」
とマキコは優しく崇に笑いかける。
その笑顔はとても綺麗で、少し華に似ていた。
「綺麗ですね、お母さんって。華ちゃんが綺麗なのも納得出来る。エディはまだ貴女の事を好きだと思います」
崇も微笑む。
「崇君ってホストか何かしてた?今、さらりと赤面する台詞言ったわよ」
「えっ?」
そう言われた崇は今更ながら照れている。
「本当に貴方いい子ね」
と微笑ましく感じたマキコは崇の頭を撫でる。
「ちょっとお母さん、セクハラ!」
華がハンバーガーを入れた袋を持って外に出て来た。
「まぁ、失礼な子ね。華ばっかりズルイわよ、お母さんだって目の保養したかったの!」
と言うとマキコはロジックへ戻って行った。
「ごめんね崇君」
「お母さん、綺麗だね」
「本人は言っちゃダメよ調子に乗るから」
と華は冗談ぽく言う。
「もう言っちゃった」
「本当?崇君って…」
「ホストじゃないよ」
言われる前に否定したので華は笑った。
月が照らす華の笑顔は綺麗だった。
崇はふと、凜を思い出す。
「今夜は綺麗な月夜だね」
崇は空を見上げる。
空には大きく丸く優しく光る月が浮かぶ。
「うん。崇君、真っ直ぐ帰るの?」
「君のお父さんに呼び出し受けてるよ」
「本当に?じゃぁ、お父さんによろしく」
「うん、あっ、いくら?」
崇はポケットをさぐる。
「おごるって言ったじゃない?私も社交辞令好きじゃないの」
と華は微笑みそう言った。
「ありがとう」
崇は素直に好意に甘えると手を振って歩き出す。
「本当、彼可愛いわね」
いつの間にかマキコが華の後ろに立っていた。
「お母さん、あんな息子欲しかったなぁ」
崇の後ろ姿を見送りながら呟く。
「あれ?朗がいいって言って無かった?」
「朗は義理の息子で、崇君は産みたかったって意味よ」
「あっそう、」
華はそう言いながら、また空を見上げた。
月明かりが強いせいか周りに星が少ししか見えない。
本当に綺麗な月夜だ。
…朗も見ているかな?
華はそう考えていた。
◆◆◆
凜は今夜も竜太朗の家に泊まる事になり、着替えをどうしよう…と悩んでいた。
一人で行くのは怖くて不安だ…。
蓮が竜太朗と一緒に行くようにと勧めてくれた。
「俺も行くよ」
と朗が着いて行こうとするが、
「お前はダメだ!」
と蓮から待ったをかけられる。
「何で?奴らならもう居ないじゃん」
確かに朗を尾行して来たと思われる外国人はいつの間にか消えていた。
「隠れているだけだ!お前が一緒に行ったら余計に凜ちゃんが危ないだろ?あーいう奴らは力の弱い女子供を人質に取ったりするんだ!」
と蓮は力説している。
「蓮さん、詳しいね」
蓮の言う通り、凜と一緒に行動すれば彼女も危ないかも知れない。
「朗、俺に任せろ!こう見えても俺は武術の達人だ!」
と竜太朗は型のポーズを取る。
「凄い!竜太朗さん習ってたの!」
朗は尊敬の眼差しで竜太朗を見る。
「うん。通信教育で…って痛てぇな朗!」
朗は無言で怒りの鉄拳を竜太朗の頭に落とす。
「…もしもし、江口さん?」
と江口に電話を入れた。
「こら、俺を信用しろーっ」
と竜太朗が怒りながら叫んでいた。




