事件の始まり10
「確かに…風呂に入って頭を冷やせと言った…」
そう言って竜太朗は息を吸い込み、
「だがな、のぼせるまで入れとは言ってないぞ!このバカ朗!」
と力いっぱいに怒鳴った。
朗は冷たいタオルを額にあて、ソファーにぐったりと倒れ込んでいる。
色々と考えていたら、のぼせてしまったのだ。
「うるさいなぁ…怒鳴るなよ」
朗は力なく言い返す。
「人が心配してるのにうるさい言うな!えらく長い風呂だと思って覗きにいけば風呂場でぶっ倒れていやがるし、風呂で死ぬ奴も居るんだ、お前は一人暮らし止めたほうがいいな」
「考え事してたんだよ」
説教は馴れているものの、また竜太朗に助けられ、少し落ち込んでいる。
「竜太朗さん、あまり怒鳴ると竜之介君が起きますよ。」
凛に注意され、ソファー近くで熟睡している竜之介を慌てて見る。
竜之介は朗を心配して、ずっと側に居たのだが、眠ってしまっていた。
「竜之介を部屋へ連れて行くよ」
竜太朗は竜之介を抱き上げ、
「お前、ここでHはするなよ、じいさんや俺に見られるぞ」
朗に小声で耳打ちする。
直ぐ近くにはもちろん蓮も居た。
朗を心配して側に居てくれたのだが、
「竜…」
恥ずかしさとバカみたいな言葉に朗は思わず大声が出る。
「大声出すな」
竜太朗に言われ慌てて口を閉じる。
竜之介が起きちゃう…、ちょっと焦った。
竜太朗はニヤニヤしながら竜之介を連れて出て行った。
あのエロ大王め!
のぼせているのか…恥ずかしいのか顔の熱さを感じた。
「さて、私も寝に行くよ。お前が大丈夫そうで良かった。」
蓮も立ち上がり、朗の頭をくしゃくしゃと撫で、
「凛ちゃんとの邪魔はせんよ」
と耳打ちをして出て行った。
あーーっ、もう!どいつもこいつも!
朗は心でシャウトした。
「朗はいいなぁ…」
凛は朗のおでこのタオルを取ると、また水に浸して絞る。
「何が?」
からかわれたばかりの朗は怪訝そうな顔になる。
「だって、ここの人達って朗の家族みたいじゃない?竜之介君が朗の弟で、竜太朗さんがお兄さん。そして連さんがお父さん…そんな感じ」
「一つ間違ってる、竜太朗さんはお兄さんと言う年齢を遥かに超えてる…」
「皆、朗が好きなのね…だから過ぎた事はいいじゃない?大丈夫、上手く行くから」
凛は多分、チエコの事を聞いたのだろう。
「そうだね、風呂でずっと考えてた。子供の頃の事をいつまでも引きずっても仕方ないし」
「うん。そうだよ…今は眠って…また、明日どうするか考えたらいいよ」
凛が余りにも優しく微笑むから、素直に言う事を聞きたくなる。
朗は寝ていたソファーの背もたれを寝かせ、ベッドにする。
「寒いから一緒に寝よう」
と朗は毛布をめくり、凛が寝る空間を開ける。
「うん」
凛はその腕の中へと滑り込む。
◆◆◆◆
『目が覚めた?』
目を開けるとカーターが崇を見下ろしている。
周りを見たらホテルのようで…また、倒れたんだと理解した。
『すみません、また…』
崇は起き上がろうとするがカーターに止められる。
『寝てなさい』
『あの、エディは?』
部屋には自分とカーターしかいない…、姿がないとどうしてこんなに不安になるのだろう?
『彼なら…』
と言い掛けた時にエディが部屋に入って来た。
『熱は?』
エディは崇の額に手をあてる
『解熱剤を打ってるから、朝までには下がるよ』
『そうか、良かった。』
エディは安心したように崇に微笑みかけてくれる。
その笑顔で崇も笑顔になれる。
『すみません、俺…また、迷惑かけたみたいで』
『またすぐに謝る、親友には遠慮するもんじゃないよ…それにウォンの事も…そこまで自分を追い詰める事はしなくていいんだよ、ただ…タイミングが悪かっただけだ、責任を感じる事じゃない』
『ウォンは?』
『きっと大丈夫だよ、警察が動いているし、何より、電話を掛けれるって事は元気で居るって事だよ、ただ、今彼もタイミングが悪いだけかも知れない。』
エディに諭され、なんとか納得出来た。
最悪の事態ではない…だって、電話を掛けれるのだから…彼は拘束もされてなく、ただ、どこかに自ら身を隠してるだけかも知れない。
『今日は考えるのはよそう、明日…どうするか考えたよう。眠りなさい』
エディはシーツを掛け直す、崇もまだ薬が効いているのか素直に目を閉じて、しばらくすると寝息が聞こえて来た。




