事件の始まり6
「良いお父さんだね」
エディが席を立つと崇は日本語で話かけた。
「日本語…そうか、崇さんは話せるよね?映画館では日本語だったもんね。お父さんとずっと英語で話すから、日本語話せるんだって忘れてた」
「崇でいいよ」
崇は微笑む。
あぁ~、もう…なんでこんなに笑顔が可愛いのかなこの人は?照れちゃう…。崇の微笑みに華はどうしても照れてしまう。
「呼び捨てとか照れちゃうから崇君で…。お父さんはバカ親なの」
「親バカじゃなくて?」
「度が過ぎるからバカ親なの」
「言えてる」
今までのエディを見て来てたら、そう思えた。
「崇君は本当に恋人居ないの?」
「居ないって…言うか、作らない。女性に興味が無いから」
華は固まってしまった…と言うより、引き気味だった。
「冗談だよ」
華の真剣な驚きに崇は笑い出す。
「もう、ビックリした~。冗談言わない人に見えるのに…」
華はホッとした。
「真面目そうに見える?」
「見える!あと優しそうに…」
「それは眼科に行った方がいいよ、…それに作らないのは本当。変な意味じゃないよ、好きな女の子以外興味無い…」
「…分かる…気がするな。私も好きな人以外には興味ない…だからかな?たまに知らずに誰かを傷つけてる」
それは晴彦の事だった。
「目、本当は泣いたんでしょ?その好きな人のせいで」
その言葉に華は目を伏せる。
「俺の妹もね、泣いた朝にそんな顔してて、夜更かししたんだって言い訳してたから」
「妹さんも色々大変なんだね、私は失恋して…」
華は目を伏せたままに言う。
「一緒に映画館に居た彼?」
「違います!彼は本当に友達で…でも、考えなしでそんな事したりしたからかな?好きな人にいつの間にか恋人が出来てて、私が見た事もない笑顔で彼女を見てて、凄く辛くて…」
華の目にじわりと涙が浮かぶ。
「好きだと伝えた?」
「ううん、だって恋人居るし…」
「今じゃなくて、恋人が出来る前に言えたんじゃない?」
そうかも…と華は思う。でも、言えずに居た。
もし、言った事で朗との関係が壊れたら怖い…
だから、言えずに居た。
「私、狡いんです…傷つきたくないから好きだと言わなかった。でも、言わなかった事で彼に恋人が出来て、結局傷ついて…もっと傷つきたくないからお父さんとアメリカに行く事にしたの」
「いいの?それで…」
「いいの…、もう恋なんてしないの」
もう、恋なんて出来ない。
きっと朗以外…誰も好きになれない。
彼以外、恋はしない…
愛しいと思えない。
「ダメだよ、恋はしなきゃ。自分に負けた事になるよ、傷つきたくないのは分かる。言わないで居たのは今までの関係を崩しそうで怖かったからでしょ?けど、言ったら何か変わったかも知れない。…隣で笑っていたのは君かも知れなかった。逃げるのはいいよ、でも…、逃げても辛いのは君だし、結局はもっと傷つく、何もしないで泣いて後悔するなら、何かやって後悔した方が後ででも前に進める。」
崇は自分にも言い聞かせていた。
華と一緒で傷つきたくなかった。凛も傷つけたくなかった…、言って何か変わるかも知れない言葉は…まだ、崇の胸の中にある。
「…だって、言えないもん」
そう言って華は泣き出した。
自分でも分かっていた…伝えれば良かったと後悔をずっとしている。
「ごめん、泣かすつもりは…」
華に泣かれ、崇はオロオロしだす。
◆◆◆
エディはレストランの外に停車した車内に居た。
『戻った男は彼じゃない…』
運転席に座る男性の視線の先には崇が居る。
レストランは硝子張りで出来ており、窓際に座る崇が車内から良く見えた。
『あれは無かったか…、崇がどこかに持って居るのか、ウォンがまだ持って居るのか…分からないな』
エディは考え込んでいる。
『持っているのは崇です。ウォンの友人を捕まえて吐かせましたから、ウォンから預かり、崇に渡したと言ってました。』
『ウォンの友人を捕まえたのか?ウォンの居場所は?』
『知らないの一点張りで』
『じゃぁ、私が聞こう』
『それは無理です…』
男性は言いにくそうに言う。
『何故?』
『聞いた後に逃げられて、その後…殺されました。』
男性は英字新聞をエディに渡す。
その新聞の端に韓国人が殺されていた記事があった。




