事件の始まり4
江口の話に竜太朗も乗っかりオジサントークが始まる。
「そうなんですよね。ベスパ!憧れました。あと、キャメルも」
「おー、俺もキャメルに変えたりしたよ」
「あの~、話…変わってない?」
盛り上がるオジサン二人に朗は突っ込みを入れる。
「何だ、朗!名作の探偵物語知らないのか?」
「うん、知らない」
若い朗は即答した。
◆◆◆◆
崇とエディはレストランに来ていた。
『あの、本当にいいんですか?娘さんとの食事にお邪魔して…』
カウンセリングの帰り道、崇は強引に華との食事に連れて来られていた。もちろん崇は断ったのだが、結局はエディに負けてしまった。
『いいんだよ、元々は3人で予約してたんだ。でも、どたキャンされてね、料理は3人分頼んでたから、勿体ないだろ?でも、すまないね。強引に連れて来てしまって…』
『いえ、親子水入らずに邪魔しちゃうんじゃないかって心配しただけですから』
崇は笑ってみせる。
『ドタキャンした相手…奥さんに本当は来て欲しかったんでしょ?そんな顔してます、寄り戻したいんじゃないですか?』
『元妻だよ』
エディは笑いながら元という単語に力を入れた。
『直球だね、その質問は…。そう、日本に来たのは仕事もだけど、マキコと華を迎えに来たんだ。でも、マキコはここを離れる気がないと断ってきた…』
エディは寂しそうに笑う。
『だったらエディがここに住めばいいじゃないですか?奥さんの事、まだ愛してるんでしょ?だったら諦めずに前に進まなきゃ…それにエディがここに住んでくれたら嬉しいし…』
崇は最後のフレーズは恥ずかしそうに言った。
『ありがとう。そうだね…前向きにならなきゃ。でも、君が前向きな事を言うようになって、そっちの方が嬉しいよ。』
本当に心からそう思う、否定的だった彼が前向きな考えを持つようになっている…カウンセリングを進めて良かったと思った。
『お父さん』
華がエディを見つけて走って来た。
『こら、走っちゃダメだろ』
エディは途端に父親の顔になる。
『ごめんなさい、遅刻しちゃった』
華は約束の時間を15分遅刻していた。
『こんばんは。』
崇が華に挨拶をし、彼の存在に気付いた華は慌てて、崇にも頭を下げた。
『すみません、お行儀悪い所見せて』
そして、崇が映画館で自分を助けてくれた男性だとすぐに気がついた。
『映画館の…ですよね?あの時はありがとうございました。』
華はまた頭を下げる。
『覚えててくれたんだ?』
そう言って微笑む崇は映画館で見せたあの笑顔のままで、華はまた見とれてしまった。
『何のお礼だい?それより早く座りなさい』
エディにそう言われ、崇の横に座る。
『なんで崇の隣なんだ?』
自分の隣に来てくれるとばかり思っていたエディは不服そうだ。
『だって、お父さんの横だと彼の真正面になるでしょ?…こんなにカッコイイ人を目の前にして食べれないよ、緊張しちゃう』
『じゃぁ、お父さんはかっこよくないのか!』
エディは子供みたいな屁理屈を言い、何だか拗ねている。
『そうは言ってないでしょ!お父さんはお父さんだもん緊張しないわよ』
華に言いきられ、エディはちょっとションボリとする。
『それより、料理は頼んだの?』
華はメニューを探す。
『フルコースだからすでに頼んであるよ、私のオススメばかりだ。ただ、デザートは華が好きなのを頼んでいいよ』
わかったと華は頷く。
『華、目どうした?腫れてるように見えるけど?』
泣いてしまった華の目は冷やして来たものの、まだ腫れぼったかった。
公園で朗に会って、泣いてしまい、トイレでのメイク直しの為に華は遅刻したのだ。
『そお?昨日、夜更かししたからかな?』
華はそう誤魔化した。
『早く寝なさい、お肌に悪いぞ。』
『何の嫌味よ』
と華はむくれる。
『それより、崇にお礼を言ってただろ?崇が華を見かけたって話は聞いていたけど知り合いだとは聞いてない』
いくら崇とはいえ、男性である…仲が良い男性は父親としては誰でも気になる。
『知り合いってわけじゃ…』
華は映画館での出来事をエディに話した。
『崇は紳士だな』
エディは感心している。
『いえ、だって 目の前にジュースを大事そうに抱えて人混から抜けれ無いでいる女の子が居たらエディだって助けるでしょ?しかも、こんなに可愛い女の子なら尚更』
華は可愛いと言われた上に崇に微笑みかけられ、顔を赤らめ俯く。
『確かに私だって助けるな、華、どうした顔赤いぞ、酒飲んだのか?』




