事件の始まり3
「他に痛い所とかない?一応みたところ首以外の外傷がないみたいだけど…」
朗はあちこち触ってみるが、確かに首以外、痛い所は無かった。
「アイツ…何者なんですか?泥棒?」
「う~ん…泥棒にしては変なんだよな…普通、あんなには荒らさないんだよプロならね。いつ住人が帰って来るか分からないし、短時間で仕事を終わらせる為に予め目星をつけるんだよ…」
「変…って何が?」
「荒らされ過ぎてるの、狙いは何か分からないけど、確実に何かを探してたみたいなの…」
凛の言葉に朗は首を傾げる。
「どう言う意味?」
「カーペットとか剥がされたの、あとソファーも切られて中まで見た後があったの」
凛は得体の知れない恐怖に怯えるように身を強張らせた。
「そんな…でも、取られた物とか無かったんだろ?」
「うん。通帳や印鑑…現金やカードは置いて無かったし、宝石とかは元々持ってないし」
「凛ちゃん下着は?」
とエロ目線で言う竜太朗を朗は殴る。
「あれだけ荒らしてたって事は部屋の住人が長時間居ない事を知ってたんだろうな…でも、君が来た」
もし…そうだとしたら、犯人は凛や崇を知ってると言う事になる…
凛を守らなきゃ…朗は心に誓う。
「ねぇ、お父さん、いつまで朗の側行っちゃいけないの?」
部屋の外で話を終わるのを待っていた竜之介だが、あまりの長さにしびれを切らして部屋の中へ入って来た。
「そう焦るな、今日は凛ちゃんも泊まるんだ、後で遊んで貰いなさい」
「やだ、つまんない!」
珍しく竜之介は父親の言う事を聞かない。
大人ばかりで話して、疎外感を感じたのかも知れない。
「竜ちゃん、私と遊ぼう!朗はまだ話があるんだって、ゲーム上手いんでしょ?私に教えて」
凛が立ち上がり、竜之介の手を握る。
「うん!じゃぁ、おじいちゃんの部屋に行こう、ゲームはおじいちゃんが持って行って返してくれないの」
と竜之介はご機嫌になる。
「すまんな凛ちゃん。竜之介、お姉ちゃんの言う事、ちゃんと聞けよ」
「はーい」
竜之介は凛と連の部屋へと行った。
「凛ちゃんは本当、いい子だよなぁ、お前には勿体ない…白衣の美少女かぁ…いいなぁ」
竜太朗はまだ白衣にこだわっている。
「白衣、白衣うるさい、この、エロおやじ!」
「またまたぁ~朗くんったら、そう言いながら凛ちゃんに白衣着せてHな事したりしてんじゃないの、この!この!」
と竜太朗は朗をつつく。
「するかバカ!」
朗は真っ赤な顔で怒る。
「本当かな?お泊りとかしちゃう癖に」
「本当バカじゃねーの、そんなプレイするか!ノーマルだっ…」
と言いかけて、しまった…と口をむすんだ。
「ノーマルねぇ…朗君」
と竜太朗はニヤニヤしている。
朗はシーツを頭からかぶりたい気持ちだった。
「しかし、勿体ないなぁ、俺なら白衣着せてやっちゃうけどなぁ…ねぇ江口君」
「はい。…あ、」
急に話を振られ、思わず即答して…我にかえり苦笑いする。
「同士よ!」
竜太朗はガッチリと江口の手を握り、無理矢理握手を交わされ、朗には冷たい目で見られ…
江口も逃げたい気分だった。
「じゃぁ、顔は見てないんだね」
さっきのエロトークから仕切り直し、江口は朗に犯人を見ていないかを質問している。
「だって、いきなり首筋に衝撃がきてさ…次に目を開けたらココに寝てた」
「そうか…他に気付いた事ない?例えば音とか、体型とか…体臭とか…」
朗は体臭と言う言葉で一つ思い出した。
「音がして振り返った時に…微かに匂いがした…なんか甘い香」
振り返ったあの時、犯人からフワリと香が漂って来たのを思い出した。
「匂い?何の?」
「なんだろう?香水かな?もう一度嗅げば分かると思うんだけど…あと、手が見えて…大きい男性の…なんか日本人じゃ無かった感じがした」
「それは当たり、犯人は外国人だよ、追い掛けたから後ろ姿だけは見てるんだ、栗色の髪でガタイが良い感じだったな」
「外国人の泥棒ね~、まるで怪盗ルパンみたいだな、けど…、金目の物取らないで何してたんだろうな?」
竜太朗が珍しく考え込んでいる。
「あ、こういう時こそ、探偵の出番だな」
と竜太朗は朗の肩を叩く。
「探偵?」
江口が何事かと聞き返す。
「コイツ、一応探偵なんだよ。最近、その設定薄れてるけど」
「設定とか言うな!ちゃんと仕事はしてるよ」
朗はムッとする。
「探偵かぁ、カッコイイね。俺も探偵物語って言うドラマが大好きでね、憧れたよ」
「おっ、工藤ちゃんかぁ…懐かしいなぁ。俺も見てたよ。バイクが欲しくてさ、バイトしたなぁ」




