お金がないんです。5
「本当、マズいよなぁ…体で払うの嫌だし、もちろんホームレスも」
怒鳴られ馴れている朗は平然とハンバーガーを食べ続けている。
華は山本が持って来た水が入ったグラスを奪うように取り、一気飲みをすると、
「もう、体で払えば」
少し落ち着いた声でそう言った。
「え~、ヤダよ」
「残高278円じゃどうしようもねえなぁ」
と竜太朗が言う。
「278円?貯金が?」
晴彦と史郎が同時にハモッた。
竜之介が朗の通帳を開き、2人に見せる。
「その残高じゃ明日までには払えないでしょ?じゃ、体で払うしかないじゃない」
「華、体で払う意味分かってる?」
「いつもの便利屋の仕事でしょ?肉体労働」
「まぁ、ある意味肉体労働だけど…子供の前じゃこれ以上言えないし、ウチの大家知ってるだろ?」
朗の台詞に華はようやく理解した、…朗のアパートの大家は男性だけど…恋愛対象は男性でゲイな大家なのだ。
華は引き攣りながら笑うと、「ホームレスになりなさい」と言った。
「ホームレスは嫌だなぁ」
「けど、朗はあまり部屋帰ってないだろ?あっても無くても変わらない」
と竜太朗。
「確かにそうだけど、あの部屋は事務所にもしてるから無くなったら困る」
「これを機会に便利屋辞めて、真っ当な道にいけばいいじゃない」
「華うるさい!それに探偵だって言ってるだろ」
華にイタイ所をつかれ朗は逆切れしている。
「いくらなの?」
「はっ?」
急に史郎に聞かれ彼に視線を向けた。
「何が?」
「滞納している家賃だよ、水道とか光熱費までは無理だけど立て替えてあげようか?」
史郎の申し出は今すぐ飛び付きたくなるものだったが、
「ダメです!餌を与えてもいいですけど、お金は絶対にダメ!朗の為にならないし、史郎さんだって困るじゃないですか」
朗より先に返事をしたのは華。
「華、横入りすんなよ」
「黙ってて!皆して朗を甘やかすから、いつまで経ってもまともな職に就かないんです、誰かが何とかしてるれと甘い考えは捨てさせなきゃ」
華は真っ直ぐに史郎を見ている。
「…そうだけど、朗君にはいつもお世話になってるし、住む所が無いと仕事にも行けないし、それにあげるんじゃないよ、貸すんだ、朗君はいつもチャランポランだけど貸し借りはキチンとしてるよ。それに私は別に困らない、お金が掛かっていた母も去年亡くなったし」
史郎は優しい微笑みを浮かべるが、どこか寂しそうだった。
「だったら尚更自分の為に使うべきですよ、結婚したりとか」
「あはは、相手が居ないよ、もうオジサンだし」
華の言葉に史郎は照れ臭さそうに笑う。
朗は何か言わなきゃと考えていたがどう切り出していいか分からないのか残り少ないココアを一気に飲む。
「けど、華ちゃんはいつも朗君の事を心配してますね、2人は結婚したらいいのに」
史郎のその言葉で朗はココアを吹き出した。
「朗…汚い」
朗の前に座っていた竜之介がもろにココアをかぶり、恨めしそうに睨む。
「ごめん竜之介、カード濡れてないからな、タオルくれよ華!」
慌てている朗に華はタオルを投げると、
「史郎さん、冗談やめて下さいね!」
キッとした顔で史郎を見た。
「結婚しちゃえよ、夫婦漫才としてロジックの名物になる」
竜太朗もからかうように参加をする。
「俺は嫌だ!」
そう言ったのは朗ではなく晴彦だ。
皆の視線が集まっていると気付くと慌てたように、
「だってホラ、華ちゃんが朗と結婚したら山田華になるじゃん、なんか芸人みたいでイメージに合わないなぁ…って言うか、ねっ?持ち帰りまだ?」
晴彦はうろたえている。
「山田華かぁ、いいじゃん」
竜太朗はニヤニヤしながら華と朗を交互に見た。
「よくない!」
華と朗の声が揃う。
「ほら、息もピッタリ」
「竜太朗さん、もういいから!それから晴彦、俺の名字を言うな!」
朗はムッとしてそう言った。
「いいじゃん覚えやすい名前でさ」
「うるさい、今度言ったら殴る!」
と朗は拳を握る。
「ねぇ、僕…朗の本名知らないよ、山田朗でいいの?」
急に思い出したかのように竜之介が聞く。
「うん、そうさ」
ちょっと、しどろもどろで朗は答える。
「何言ってるのかな?本当は」
晴彦が意地悪そうに名前を言おうとした時に、
「あ~、竜之介だ」
と子供の声がし、テイクアウトの窓から2、3人の男の子達がこちらを見ていた。
「友達?」
朗が聞くと、竜之介は頷くだけで男の子達の方を見れずにモジモジしている様子だ。
「クラスが同じなの」
「そうか…」




