悲しいキス3
後から…周りの大人達が崇と凛が虐待をされていた事を知っていたと聞かされた。
可哀相な事をしたと…
助けてあげれば良かったと。
そんな事、後から聞いても全てが遅い。
どうせ助けてくれるのなら…
どうしてあの時に…あの瞬間に助けてくれなかったんだろう?
全てがもう遅いのに…
『もう自分を許してあげなさい。…もう苦しまなくていいんだよ…君はカウンセリングを受けるのが嫌なんじゃなくて、大人に助けて貰うのが嫌なんだろ? 助けて欲しい時に助けてくれなかった大人に助けを求めるのが嫌なんだ…、でも…今君は助けを欲しがってる…
だから私は君を助けたい…君をそこから助け出したい。カーターだってそうだよ…君が助けて欲しいと言えば、手を伸ばせば…必ず掴んでくれるから…』
エディの言葉ばストンと心の中に入って来る、ずっと助けを拒んで来たはずなのに…。
なんで、彼の腕はこんなにも優しく懐かしいのだろう?
崇は我慢出来ずに涙をこぼした。
エディにしがみついて泣いている自分はまるで小さな子供みたいで…嫌だったけれど、彼なら大丈夫。
彼なら…泣きやむまで抱きしめてくれる…そう思えた。
そう思えるのは彼の腕が幼い頃、父親に抱きしめて貰った記憶がかすかにあるから…父親を嫌ってたわけじゃない。
優しかったはずの父親に殴られて、裏切られた気持ちになった…
父親が死んだと分かった後、手に残る血の感触を何度も洗った。
洗っても取れない自分の罪と罰。
凛を守りたい…ただ、それだけだった。
父親に裏切られたんじゃない…裏切ったのは自分…。
幸せになんてなれない。
残酷な自分がどんな大人になるのか分からなくて怖くなった。
『幸せにならなきゃ、君が幸せじゃないなら、君が守った凛だって幸せになれない…きっと彼女も崇と同じ気持ちを感じているよ、彼女はきっと自分を責めている。大丈夫だと笑ってあげなきゃ…』
『…ください』
小さな声で崇が言う。
『えっ?』
『助けてください…』
心から振り絞る声だった。
『もちろん、もちろんだよ崇。』
エディは抱きしめる腕に力を込める。
『大丈夫だよ』
エディの声は小守唄のように懐かしかった。
◆◆◆◆
「俺って…携帯2つ持ってたっけ?」
朗はコートのポケットに手を入れ、初めて携帯が2つある事に気付いた。
「どうした朗?」
目の前に座る竜太朗が顔を上げた。
「朗、携帯2つあるんだって」
と朗の横でハンバーグを食べている竜之介が朗に代わり説明をした。
3人は駅近くにあるハンバーグ専門店で昼食を取っていた。
「携帯?」
朗は頷くと携帯を2つテーブルに置く。
2つの携帯は同じ機種、同じ色だった。
「どうしたんだこれ?パクった?」
竜太朗は携帯の1つを手に取った。
「パクらないって…あっ」
朗は昨日、凛にうちに携帯を忘れて行ったでしょ?って携帯を渡された。もう一つは凛の部屋に泊まった朝に外国人に渡された携帯だと思い出した。
「…お前、それ」
「うん…」
「お前、凛ちゃんの部屋に泊まったのか?もうやっちゃったわけか」
竜太朗はニヤニヤする。
「バカ!竜之介の前で」
朗は耳まで赤くして慌てる。
「お前、嘘つけない子だよなぁ」
「やっちゃうって何を?」
竜之介はニコニコと大人二人をみる。
「あ、えっと…、ほら、どっちが俺の携帯かなぁ~って」
と朗は必死に誤魔化す。
「中を確認したら?それかお父さんから電話して貰えばいいじゃない?」
「さすが竜之介」
と朗が携帯を手にした途端、着信がなり驚いて落としそうになる。
「お前の携帯はそれだな」
と竜太朗がいつの間にか電話を掛けていた。
朗は驚かされてたのでキッと竜太朗を睨みながらもう一つの携帯を開けて中身を確認をする。
「あれ?この携帯はローマ字ばかりだ…、アメリカ人の名前がほとんどだ」
携帯の連絡先を検索しながら言った。
ずっと検索しているとTAKASHIと出てきた。
朗は思わず崇を思い出した。
まさかね…
「お前、携帯どうするんだ?」
食事を終え朗達3人は歩いて帰宅していた。
「う~ん、警察に持って行こうかな?それか…」
ローマ字で登録された崇の文字を思い出していた。
電話してみようかな?崇に…そう思った。
「やっぱり出ないなぁ」
朗は携帯を警察に届けるのが面倒になり、とりあえず日本人の名前のTAKASHIに何度となくかけているのだが、タイミングが悪く電話が繋がらない。
「ま、後からでもいいか~」
とポケットにしまう。




