悲しいキス
「じゃぁ、それで。あと、烏龍茶」
凛の注文を山本と要が奪い合っている。
華は凛を気にしながら買って来た野菜を冷蔵庫に入れている。
「華、黒コショー買った?」
マキコがベーコンを焼きながら聞く。
「買ったよ」
と黒コショーをマキコの近くに置く。
「華さん…」
凛は横瀬で華と間違えられていたので、ずっと華に会ってみたかったのだ、初めてロジックに来た時は華はずっと後ろを向いていて、顔は知らなかったのだ。
「はい?」
名前を呼ばれ華は凛の方を見た。
「あ、ごめんなさい…。この前、朗と横瀬に行った時、町の人に華さんに間違われて」
凛は慌てて説明をした。
「横瀬…朗と行ったの?」
華の胸はかなり高鳴っている。ドクンドクンと鼓動が激しくなり動揺しているのが自分でも分かるが…気付かれないように冷静を装う。
「横瀬、いい所ですね。」
間違いなく一緒に行ってるんだと華は動揺した。
マキコは華を気にしながら、「えっと、凛ちゃん?」
名前を確認する。
「はい」
「朗に用事みたいだけど、何の?」
「彼がうちに携帯を忘れて帰っちゃって」
「えっ?もしかして、お泊りとか」
山本が冗談混じりに言った。
「はい」
凛は即答した、確かに看病で泊まったから。
要とマキコは華を気にした。
そして、山本に空気読め!と言わんばかりに足で突く。
が、山本はその空気さえも読めずに、
「まさか、付き合ってるとか」
と聞いてはいけない事を口にした。
コイツ、後でボコる…マキコと要は心で思った。
「付き合ってます」
凛は笑顔でそう答えた。
もうダメだ…マキコと要は華が心配で仕方なかった。
「へぇ~あのバカにこんな可愛い彼女出来るなんて、明日は吹雪よ!全く、どこがいいの?」
華は精一杯明るく振る舞った。
「どこって…優しいし」
凛は恥ずかしそうに答えた。
「優しい?アイツが?もう、騙されちゃダメだよ」
華は声に出して笑う。
「誰が騙してんの?」
朗が店内に入って来た。
「アンタの事よ、こんな可愛い子騙してさ」
華はいつもと変わらない口調で言う。
「騙す…って、凛どうした?」
カウンターに凛が居るのに気付いた。
「忘れ物届けに来たらハンバーガーが美味しそうで」
「美味いぜ、ここのは。何頼んだ?」
「ロジックスペシャル」
「俺も食べたい」
と朗はマキコを見る。
「はいはい」
とマキコは笑顔で答えた。
「髪切った?」
凛は短くなった朗の髪に触れる。
「美容師の友達に切って貰った。しかもタダで」
「いいなぁ、美容師の友達が居て…短いのも似合うね」
「マジ?惚れ直した?」
「うん」
凛は笑いながら返事をする。
先に凛のハンバーガーが出来上がり、
「食べろよ」
と凛に促すが、
「朗の分が来るまで待ってる」
と微笑む。
「な~、もう可愛いだろ?」
と朗は山本と要を見た。
「メロメロっすね」
と山本が呆れ顔で言う。
華は懸命に笑うように頑張っていたが、グラスを握る手が震えていた。
◆◆◆
崇は仕方なくエディの車の助手席に乗り込んでいた。
『君の気持ちを考えずに…あんな事言って済まなかったね』
エディは車の中で崇に散々謝っていた。
崇も根負けしたのか、
『もう…いいです』
と答えた。
『それは許してくれるって事かな?』
『…はい』
即答では無かったが声のトーンはいつもの崇と変わらなくて、エディは笑顔になった。
『本当に良かった!』
エディは喜びのあまり、運転していた事を忘れ、崇に視線を向けたままで、前を見ていなかった。
『エディ、前!』
前の車とぶつかりそうになり崇が焦る。
『おっと、』
ぶつかる寸前で車を交わした。
『ごめん、大丈夫かい?』
エディは崇を気遣う。
崇は思わず笑ってしまった。
エディはどちらかと言えば落ち着き貫禄があり、今みたいな失敗をしないタイプで、崇みたいな年下の子供のご機嫌を伺い、許して貰ったら本気で喜んで…
意外な一面に崇は笑いが止まらなかった。
『何で笑うんだ?でも、また笑顔が見れて良かった』
『こちらこそすみません、病院に連れて行って貰ったり、迷惑ばかり掛けたのに生意気な態度を取ってしまって』
崇は素直に謝れた。
『いいんだ…、君はあまり喜怒哀楽を出さないから、違う一面を見れて良かった。…それと、怒らせたら怖い事も』
エディはニヤッとした。
『怖い…って、そんな。確かに俺、怒ったらずっと後を引くんです。自分でも直したい性格なんです、それに素直じゃないし』




