涙のあと10
朗はいつもの席に竜之介と座った。
珍しく蓮がロジックに居るので、
「蓮さん、店どうしてるの?」
と聞いた。
蓮が居なくては店は開けられないだろうに…
「今日は昼からなんだよ、じゃーな」
と蓮は朗の頭をくしゃくしゃに撫でるとロジックを出た。
「勝手な休業だったんだよなぁ、じいさんはお前が行方不明の間凄かったんだぜ、ミスの連続でさ…皆、お前を心配してたんだぞ」
朗は改めて…凛が言った、ちゃんと愛されてるよ…と言う言葉を実感した。
「…ごめん」
嬉しくなる…
人に謝って、こんなに嬉しくなるのは初めてだった。
「朗君が帰って来てくれて本当に嬉しいよ」
史郎が相変わらずのニコニコとした笑顔で言う。
「ありがとう史郎さん」
朗も微笑む。
ロジックのドアが勢いよく開くと山本が息を切らして走り込んで来た。
「朗さん…良かった。今、そこで蓮さんに会って、朗さんが帰って来たって言うから」
と山本は呼吸を整えると、
「よかった~心配したんですよう」
と朗に抱き着いた。
「もう、離れてよ!」
竜之介がヤキモチをやき、山本を引き離すと自分が朗の膝の上に座る。
「ごめん竜ちゃん」
山本は笑いながら離れる。
「本当良かったです」
カウンターから要も声を掛ける。
…ありがとう。
何度言っても足りないくらいだった。
「今日はずっと遊んでよね、どうせ泊まるんでしょ?」
泊まると決めつけられている事に朗は苦笑いをする。
「おー、朗は泊まるぞ!竜之介を泣かした罰だ、朝まで遊んで貰え」
と竜太朗は力いっぱいに肩を叩く。
「だから痛いって、うん。竜之介の気が済むまで付き合うよ」
竜之介は嬉しそうに朗に抱き着く。
◆◆◆
崇はエディにカウンセリングを勧められた日以来、彼を避けるようになり、エディの通訳も外して欲しいと頼んでいた。
『崇、ウォンから何か連絡あったかい?』
ウォンの上司に呼び止められ、そう聞かれた。
『なにも…』
崇は首を振る。
『そうか…』
『あの、警察からは何も?』
『言って来ないよ、ウォンは何かの事件に巻き込まれたみたいだね…』
上司は心配している。
『もし、何か分かったら教えて下さい。自分も分かったら教えますから』
とお願いをして崇は歩き出す。
『崇』
歩く先にエディが居た。
崇は目を反らすと無視をするように横を通り過ぎようとする。
『待った、無視は無いだろ?』
エディは崇の腕を掴んだ。
『何か用ですか?』
前と違い、笑顔は無い。無愛想にそう言った。
『君の信用を失ったみたいだね…余計な事を言ったって思うよ、だから仲直りをしよう』
エディは笑顔でそう言った。
◆◆◆
朗は晴彦が働く美容室を覗き込む。
晴彦は奥でシャンプーをしているのが見える。
ガラス張りのドアを開けると入口に居た店長と目が合った。
「あれ?朗君久しぶり、やっとカットモデルになる気になった?」
と声を掛けられ、愛想笑いをする。
朗と言う名前に反応した晴彦がこちらを向き、朗と目が合った。
晴彦は罰が悪そうに目を伏せた。
朗は彼の元へと近づき
「晴彦」
と名前を呼んだ。
晴彦はシャンプーを終え、朗に視線を向け
「あのさ…この前…」
と謝ろうとするが上手く言葉に出来ない。
「晴彦、カットモデル探してたじゃん?俺がなってやる」
と朗の方から笑顔で話しかけ、晴彦も笑顔になった。
◆◆◆
「あの…、朗来てますか?」
凛がロジックのドアを開け、入って来た。
「朗?まだ、来てないけど…朗のお友達かな?」
凛とは初対面のマキコは探るように聞く。
「あっ、凛さん」
要と山本が凛の名前を同時に呼ぶ。
「はい。覚えててくれたんですね」
凛は二人に微笑む。
「もちろん!あの、食べていきません?ロジックのハンバーガー美味しいって有名なんです。朗さんもその内来るだろうし」
と山本がカウンターから出て、凛をカウンター席に座らせる。
「山本、彼女にチクるぞ」
要がすかさず突っ込みを入れる。
「食べて行く?」
マキコは笑顔で凛に聞く。
「はい。夕飯食べてないから…お腹空いちゃってて」
と凛も笑顔を返す。
調度ドアが開き、華が買い物から戻って来た。
「ただいま…」
カウンターに居る凛に華はすぐ気がついた。
偶然に目が合い、お互い軽く会釈をした。
「注文は?」
マキコは凛にメニューを渡す。
「あの、オススメってありますか?」
「ロジックスペシャルです!具たくさんだし、大きいからお腹いっぱいになりますよ」
と要が山本より先に返事を返す。




