涙のあと6
怖いものなんてない…
助けなんかいらない。
あの時から繰り返し心で叫んだ言葉。
息が出来なくなる。
吐き気もしてくる。
『崇?』
苦しそうに息を吐く崇の顔を覗き込む。
『怖くなんかない!理由は知ってる、カウンセリングは受けない、受けても俺の罪は消えない!』
苦しそうに息をつきながら、エディにそう言い放った。
そう…もう、助けなんていらない。
どうせ助けるなら、あの時…あの瞬間…救って欲しかった。
◆◆◆
朗が凛のアパートを出ると見知らぬ外国人に腕を掴まれた。
『お前、崇だろ?ウォンに頼まれた』
と外国人に早口の韓国語まじりの英語で言われ、携帯を渡される。
まだ頭が起きていない朗は携帯だけを見て、携帯の機種と色が自分の物と同じだった事もあり、自分が落とした携帯を彼が拾ってくれたんだと思い込み、お礼を言って携帯を受け取った。
朗は携帯をポケットにしまうと歩き出す。
◆◆◆
華は月曜日からずっと空元気だった、マキコも何となく気付いていた。
「華、どうしたの?何かあった?」
カウンターの中で開店準備をする華に声をかける。
「別に…」
華は視線を上げる事もなく、元気なく返事を返す。
「月曜日から変でしょ?晴彦君に何かされたの?」
「やだな~何もされてないよ、何言ってんの?早く準備しなよ」
「じゃぁ、朗?」
華はピクリと反応した。
「朗と喧嘩した?」
「してないよ」
「デート現場を見られたとか?」
チケットをあげたのはマキコなので、華が落ち込む理由が想像出来た。
「あの子と来てた…」
華は小さい声で言った。
「あの子?」
「凛って子と…」
しまったぁ…マキコはてっきり、竜太朗と行くものだとばかり思い込んでいた。
ロジックのドアが開き、朗と竜太朗、晴彦の3人が入って来た。
華の視界に朗が入り、ドキッとした。たった今、彼の話をしていたから。
この前は普通に接する事が出来たのに…凛の名前を口にすると、気になってしまう。
「今日は3人一緒?何にする?」
マキコがカウンターから声を掛ける。
「さっき、朗に会って、晴彦君とは入口で会った、いつものでいいよ」
と竜太朗はカウンターに座る。
「俺もいつもので…おはよう華ちゃん」
晴彦もカウンターにつき、華に笑いかけるが…華は振り向きもせずに小さい声でおはようと返すだけだった。
どうして…彼女と居たのだろう?凄く気になるのに言い出せない。
あの子と付き合ってるの?
聞きたいが聞けない言葉だった。
「朗は何にする?」
マキコが注文を聞いている。
「ココアだけでいい」
朗は腕を回しながらに言う、どうも肩が痛い。
「朗、四十肩か?」
竜太朗がニヤニヤしながら嫌みを言う。
「オッサンと一緒にするな!床で寝てたからアチコチ痛いんだよ」
と今度は頭を振って首の運動をしている。
「床って…布団くらい敷きなさい、本当に食べなくていいの?」
マキコは朗のココアを用意しながら言う。
「仕方ないんだよ、友達の看病してたらそのまま寝ちゃってさ、朝ご飯はご馳走になった」
「看病?お友達は大丈夫なの?」
マキコは作りたてのココアを朗のテーブルに置く。
「ありがとう。うん、熱下がったみたい、マキコさん砂糖は?」
「相変わらずの甘党ね」
笑いながらスティックシュガーを渡す。
「華ちゃん、焦げてる」
竜太朗の声で華は我に返る。
「えっ?やだ」
華が焼いていた肉から黒い煙りが立ち上がり、焦げた臭いがする。
華は慌てて、肉を返すがすでに真っ黒になっていた。
「やっちゃった」
華はため息をつく。
「華ちゃんらしくないね、どうしたの?元気ないみたいだけど」
竜太朗が心配そうに声を掛けてくれる。
「元気ですよ~やだなぁ、竜太朗さん」
無理に笑ってみせる。
晴彦も心配そうに華を見ている。
「華ちゃん、本当に大丈夫?顔色悪いみたいだけど…」
「晴彦君まで…平気だよ」
無理矢理笑い、晴彦にハンバーガーを出す。
「華ちゃん、間違えてるよ。これは竜太朗さんの頼んだ分だよ」
晴彦は隣に座る竜太朗へとハンバーガーを渡す。
「ごめんなさい、本当、どうしちゃったのかな?」
華は慌てて、晴彦の分を作り出す。
「華、どうした?具合でも悪いんじゃないか?」
朗も心配そうにカウンターまで来た。
華は朗から視線をはずす。
「反応無しかよ、こらっ!」
いつもならここで、華の反撃が来るのに…彼女は黙って肉を焼いて居る。
「皆、心配してるんだぞ。なっ、晴彦」
と晴彦の肩を叩く。
「何だよ」
「何って、上手くやってんのかな?って思って」
「はっ?何が?」




