涙のあと4
「お前じゃない、朗だよ!病気の時くらい素直になれ」
「うるさい」
精一杯悪態をつくが朗の方へ倒れ込んで意識を失った。
◆◆◆
江口は崇の部屋のチャイムを押した。
「はい?」
顔を出したのは崇ではなく朗だった。
「あれ?ここって崇君の?」
江口はそう言いながら表札の名前を確認した。
「あっ、俺は崇の…」
「もしかして、凛ちゃんの彼氏?崇君は?」
「今、眠ってますよ。熱が高くて…あの、何か?」
「凛ちゃんに寝込んでるって聞いたからお見舞いに…でも、寝てるんならいいや」
と江口は見舞いの品を朗に渡す。
帰ろうとするが部屋からいい臭いが漂ってきて、思わず腹の虫が鳴る。
「やば、お昼食べてないからなぁ」
江口は恥ずかしそうに言い訳をする。
「あの、雑炊作ってるんです。崇に食べさせようかな?って、でも作り過ぎちゃって…良かったら食べていきません?」
朗は人懐っこい笑顔を見せる。
「いや…悪いよ」
そう言いつつも、朗の人懐っこい笑顔と空腹に負けて、部屋へ上がり込み。雑炊をご馳走になる事にした。
「美味しかったよ朗くん」
江口は見事に平らげて、台所に居る朗に声をかける。
お互い、自己紹介は済ませていた。
「よかった~自信なかったんで」
朗は手際よく片付けをしている。
「薬飲ませようにも空腹じゃダメだし」
と朗は冷たいタオルを用意して、奥で熟睡している崇の額に乗せる。
「熱は?」
「さっきより、だいぶ下がりましたよ」
「良かった、それにしても朗君は手際いいし、料理美味いね」
「そうですか?」
朗は照れくさく笑った。
「誰に教わったの?お母さん?」
「自然にかな?母親が夜の仕事してたから」
「そっかぁ、お母さん離婚したの?」
江口は夜働くイコール離婚だと思ってるようだ。
「父親は始めっから居ないですよ、シングルマザーだったんです、江口さんの両親は元気ですか?」
「俺?俺のところは両親とも元気だよ。早く結婚して孫の顔見せろってウルサイ」
「それは大変ですね」
朗は微笑む。
「何か手伝う事ない?食べた分働かないと」
江口は使った食器を重ねる。
「あ、じゃぁ、氷割って貰えません?氷枕いくらあっても足りない」
江口は言われた通り、冷蔵庫から氷を出すと台所で砕き出す。
「朗君、若いのに苦労してるんだね」
「苦労なんてしてませんよ。俺、かなりマイペースなんで」
と朗は笑ってみせる。
「そうか、偉いな」
「江口さんは仕事何やってるんですか?」
「仕事?…一応、刑事やってるよ」
一瞬、躊躇したが隠す事はないだろうと思った。
「刑事?カッコイイ!」
朗のテンションはかなり上がった。
そこまでテンションを上げられると江口も悪い気がしない。
「警察手帳とか持ってますか?今、FBIみたいになってるんですよね?」
朗は江口の横に来て目をキラキラさせている。
その目は手帳を見たい!と言っている。
江口は迷いもせずに手帳を朗に見せた。
「すげえ!カッコイイ!」
朗のテンションは更に上がる。
「でも、何で崇と知り合いなんですか?あっ、もしかして補導歴ありとか?」
朗は珍しそうに手帳をマジマジと見ながら聞く。
「聞いてない?」
「はっ?何をですか?」
朗がキョトンとしたので、崇が自分の過去を話していないのだと理解した。
「いや、何でもない…。お隣りさんだっただけだよ」
そう嘘をついた。
話してないなら言う必要ないし、話たいなら崇本人がした方がいい良いだろうと江口は判断した。
「けど、崇君に良い友達がいて良かったよ。彼はすぐ壁を作っちゃう子だからね、心を許す事が出来ない子なんだよ」
江口は作った氷枕を朗に渡す。
「ずっと良い友達でいてあげて欲しい。凄く弱い子だから支えてくれ」
「はい」
朗はしっかりと返事を返す。
「じゃぁ、仕事に戻るね」
江口は仕事へ戻って行った。
◆◆◆
エディとの待ち合わせ時間ギリギリに江口は待ち合わせ場所についた。
本当は崇に通訳を頼むつもりだったのだ。
エディが江口に気付き、近づいて来た。
英語は苦手だ…
学生時代の英語の成績は最悪だった江口はここに崇が居ない不安で逃げたいくらいだった。
「こんにちは。場所を変えましょう」
エディは綺麗な日本語を話、江口は驚きで目が丸くなった。
「日本語?」
「話せますよ」
エディは車に乗るように江口を促す。




