涙のあと2
「公園に近づくなって…」
「はっ?公園?」
「うん。山側にある公園の崖が夏の台風で地盤が揺るんでるから近くなって」
「それだけか?他には?」
竜太朗は朗に詰め寄る
「ないよ、何?どうしたの?何か変だよ、竜太朗さん」
竜太朗から逃れるように朗は壁ピッタリにくっついている。
「それならいい」
とりあえず、話は聞いていないようで、竜太朗はホッとして座り直した。
「朗君、公園って…昔よく遊んだ?」
「そうだよ、裏山自体が危ないって」
「怖いね」
史郎がそう言った時に注文したハンバーガーが出来上がり、史郎の前に置かれた。
「ごめん、華ちゃんやっぱり持ち帰りにして」
と史郎は立ち上がる。
「食べて行かないんですか?」
「もう一カ所回らなきゃいけないの忘れてたんだ」
華は手早く袋に詰めると史郎に渡した。
「じゃぁ、またね」
皆に手を振り、史郎はロジックを出た。
「華ちゃん、コーヒー持ち帰りにして」
と竜太朗は立ち上がり、ハンバーガーを食べている朗の腕を掴み引っ張り上げて立たせる。
「何?」
ビックリしている朗の腕を掴んだまま、
「いくぞ」
と華にお金を渡し、コーヒーを受け取る。
「待って、ココア」
「持ってこい」
竜太朗は無理矢理、朗を引っ張りながらロジックを出た。
華と要はア然として二人を見送った。
「竜太朗さん、何か変だよ」
助手席に無理矢理朗を押し込み、竜太朗は車を走らせる。
「おまえ…」
チエコの話をしようかと思ったが、確信がないし、期待させるのも可哀相で話すのを止め、
「他に仕事の依頼ないの?」
とごまかした。
「来てるけど…手伝いたい?でも、お金は払えないからな」
「お前から金取ろうなんて思わないよ」
竜太朗はようやく笑顔を見せた。
さっきまで…何か迫力があり、怒っているようにも見えた彼が笑ったので、朗もちょっと笑った。
「言いたいのそれだけじゃないよね?」
様子がおかしい事に朗だって気付く。
「なぁ、お前…寂しくないか?」
「はっ?突然なに?」
「寂しくないのかな?って…」
「もう馴れたよ、あっ、凛に俺の話しただろ?そりゃぁ隠す必要はないけどさ…親がいないのは凛も一緒だし」
「逢いたいか?」
「誰に?」
「チエコ…とか」
「はぁ?今更?どこに居るかも判らない奴になんか会いたいワケないだろ!何だよ、竜太朗さんも父親とか気になるわけ?」
チエコと言う名前を聞いて朗はムッとする。
「父親?」
「…違うの?凛に父親に逢いたくないのか?って聞かれたから、父親でさえ…生死わかんないのに」
竜太朗は黙り込む。
その様子に…
「何?竜太朗さん…もしかして、俺の父親知ってるの?」
朗は急に心臓がバクバクと大きく動き出す。
息をするのもやっとで、手にしているココアのカップが小刻みに揺れている。
◆◆◆
チエコが竜太朗に逢いに来たのは大学に入った年。
チエコと高校生の頃、付き合っていたが3年生に上がった時にアッサリと振られた。
他に好きな人が出来たという理由だった。
「竜ちゃん久しぶり」
当時、寮に入っていた竜太朗の元にチエコが逢いに来たのだ。
「チエコ…、どうした?」
彼女を部屋へ入れた。
「部屋…綺麗にしとるね」
綺麗に片付けられている部屋に写真が飾られていた。
「彼女?可愛いね」
写真には後に竜太朗と結婚する愛するハニー冴子が写っている。
「座ってろよ、コーヒーでいいか?」
台所でコーヒーを探す。
「水かお茶がいいな、体に悪いから」
とチエコはその場に座る。
「どこか具合悪いのか?」
竜太朗は冷蔵庫からお茶を出し、コップに注ぐ。
「悪いわけじゃなかとよ。…赤ちゃんかいるとよ」
チエコはお腹を優しく摩る。
思わず、竜太朗は手にしているコップを落としそうになる。
「赤ちゃん…って」
「予定日は12月よ」
「お前、子供の父親は?」
「言ってないよ、言ったら産ませて貰えないもん、赤ちゃんがお腹にいるって分かった時、別れた」
「何言って、お前産むつもりが!まだ自分だってガキだろ!」
竜太朗は何故か怒りが込み上げた。
それはチエコに対してじゃなく…産ませて貰えないと言った相手にだ。
「もうすぐ19よ」
「ガキにはかわんないだろ!どうすんだよ、子供だって父親が居た方がいいに決まってる!」
竜太朗は必死にそう言った。別れたとはいえ、一度は愛した女性だ。
「竜ちゃんは反対?」
チエコの目は寂しそうだった。




