涙のあと
「まぁまぁ、二人共仲良くね!」
喧嘩になりそうな華と朗の間に要が入る。
「それより、知ってました?土曜日の夜に殺人があったじゃないですか?あれ、容疑者捕まったそうですよ」
要は必死に話題を変える。
「殺人?何それ?」
朗は知らないのかキョトンとしている。
「あれ?知らないんですか?」
「うん。最近テレビ見てないし」
「見てなくても新聞くらい読めば?」
華が嫌みを言う。
カチンときた朗が反論しようとするが要が間に入った。
「事件は土曜日の夜中に起こったんです、ニミッツパーク入口の上に小さい公園があるじゃないですか?そこのトイレで男性が刺されて殺されてたんですよ。その容疑者が今、取り調べ中…って言っても事故を起こして入院中なんですけどね」
朗の知らない事件の詳細を要が詳しく教えてくれた。
「事故?」
「警察が追って来たのを振り切ろうとしたらしいです」
「へぇ~」
「容疑者が入院してるのは総合病院ですよ」
「総合病院!」
朗は慌ててしまった。何故なら凛が勤めている病院なのだから。
「そうですよ、今朝通ったら報道陣が居ましたもん」
自分の好きな人がそんな危険な奴が居る病院に居るなんて…心配しないわけにはいかない。
「ごめん、ちょっと電話してくる」
と朗はロジックを出た。
凛の携帯に連絡を入れると彼女は偶然にも休憩中で話が出来た。
心配した事を伝えると、
「警察がたくさんいるのよ、かえって安全だよ」
と凛は笑った。
「良かった…」
朗は心からそう思った。
「ねぇ、朗。お願いがあるの」
と凛にお願いをされ、心よく引き受けた。
愛する凛の為だもん!と朗はニッコリ笑った。
「朗君」
史郎が手を振りながらやって来た。
「史郎さん、お昼ですか?」
「そうだよ、朗君も?」
「う…ん、まぁ…」
食べたいがお金がないと朗の顔に書いてあるようで史郎は笑った。
「一緒に食べるかい?マキコちゃを居るんだろ?」
「あっ、そう言えば居なかった」
◆◆◆
「お母さんならお父さんに会いに行ったわよ」
華に聞くとそう返事が来た。
「えっ?おじさん日本に居るの?」
そう言いながら朗はいつもの席に座る。
「2週間前から居るんだって、史郎さん注文は?」
カウンターに座る史郎に声をかける。
「華ちゃんにおまかせするよ。あと、朗君にも…」
「朗なら心配しないで」
と華はココアと一緒にハンバーガーセットを朗の前に置く。
「…もしかして、毒入れた?」
思わず、真顔で言ってしまった。
「じゃぁ、食べなくていいよ」
とハンバーガーが乗っているトレイを持ち上げる。
「嘘、冗談だってば!」
朗は慌てて、トレイを掴む。
「人の好意は素直に受け取りなさいよね」
華は素っ気なく言うとカウンターに戻った。
「華」
朗に名前を呼ばれ振り向く。
「ありがとう」
朗は笑顔だった。
その笑顔が可愛くて華は恥ずかしくて目をそらす。
「どういたしまして」
恥ずかしさがバレないように華は彼を見ずに返事をした。
ロジックのドアが開くと竜太朗が入って来た。
「竜太朗さん、こんにちは」
華と要が挨拶をする。
「おう、華ちゃんに要君こんにちは。史郎さんお昼?」
と声をかけながら史郎の後ろを通り、朗と同じテーブルにつく。
「華ちゃん、コーヒーね」
「あれ?飯食ったの?」
朗がハンバーガーを食べながら聞く。
「あ、うん。」
竜太朗は朗をジッと見つめる。さっき、聞いたチエコの話が頭にある。
「どうしたの?何か変?」
ただ、黙って自分を見つめる竜太朗を不思議そうに見る。
何でもない…と答えるが、もし…朗がチエコの話を聞いたらどうするだろう?
そもそも、本当にチエコは帰って来ているのだろうか?
そんな考えが頭を過ぎって行くのだ。
「横瀬どうだった?魚は釣れたかい?」
史郎が竜太朗と朗に話かける。
「全然ダメ~釣れなかった」
朗が肩をすくめる。
「そうなんだ、じゃぁ後は何してたの?」
「散歩して、じいちゃんの墓参りしたよ」
「横瀬かぁ~懐かしいなぁ、皆元気かな?」
史郎は懐かしそうにそう言う。
「皆、元気だよ。あっ、墓参りしてたら鈴木のおじいさんに会って…」
「何か言われたのか!」
朗の話を遮り、竜太朗は彼に掴みかかる勢いで聞いた。
鈴木のじいさんの名前が朗から出るとは思っていなかったのだ。
あまりの迫力に朗はたじろいでいる。
「なに?ビックリするじゃ…ん」
「何か言われたんだろ?何言われた!」
迫力が増す、竜太朗に朗は引き気味になる。




