秘密9
崇はエディとランチを終え、彼の車でアパートへと送って貰っていた。
たわいもない会話の最中、崇の携帯がメールを受信した。
開いてみると差出人はウォン。でも、メールの内容は文字化けしているのかアルファベットに数字が入り交じり、全く読めなかった。
『なんだこれ?』
崇は首を傾げる。
エラーかな?とも思った。
『どうした?』
エディが運転をしながら声をかける
『ウォン…あ、友達からなんですけど、文字化けかな?読めない』
と崇は携帯の画面をエディに見せる。
『本当だ、これは読めないね。友達って今日、一緒に居た子?』
エディも画面を覗き、笑った。
『はい、ウォンって言います。香港に住んでた時の高校の同級生なんです』
崇は携帯を閉じるとポケットに入れる。
『同級生か…懐かしいなぁ、学生時代は楽しかった。この道、左だったね』
とエディは左へとハンドルを切る。
『崇、明日は休むんだよ』
念を押すように崇に言う
『でも、明日は…午後から』
『その仕事なら私が断ったよ。いいね、ちゃんと部屋に居なさい!様子みに行くからな。』
まるで父親のように諭すエディに崇は『はい』と言うした無かった。
崇は送ってくれた事とランチのお礼を言うと部屋へと入って行った。
崇が部屋へ入った事を確認すると、エディは誰かに電話を入れる。
『今、部屋に入っていった子を見張っててくれ。外に出ないようには言っておいたが、もし外出するようなら連絡をくれ』
そう言うと電話を切った。
エディが車を走り出させると、入れ違いのように黒い車が崇のアパートの近くに停車した。
◆◆◆
「竜太朗おるね?」
とカステラ屋に母ちゃんが顔を出した。
「何ね母ちゃん、店に来るって珍しか」
奥から竜太朗と蓮が出て来た。
「おや、珍しゅう仕事しょったい。いつもは朗ば連れてフラフラしよるとに。なぁ、蓮さん」
嫌みタップリにそう言う。
「本当に」
蓮も頷く。
「何ね、二人して失礼か!何ばしに来たとよ?」
ちょうど、外から竜之介が戻って来た。
「おばあちゃん、いらっしゃい」
「竜ちゃん、友達んとこ行っとったとね?」
竜太朗には憎たらしい口を聞いても孫には優しい母ちゃんだ。
「うん。おばあちゃん遊びに来たの?」
「そうたい、竜ちゃんに会いに来たと」
と母ちゃんは竜之介の頭を撫でる。
「逢ったばっかりやないね?」
「何ね、孫に会いに来たらダメんか?あー、冷たか息子ばい!」
と母ちゃんは嫌みを返す。
「何ね、せからしか。本当は違うとやろ?用事は何ね?」
竜太朗にはわざわざケチな母親が船賃出してまで来る本当の理由があるのを分かっている様子だった。
「竜ちゃん、ばあちゃんにコーシーいれてくれんか?」
「うん、いいよ」
竜之介は靴を脱ぐと台所へ向かう。
「竜之介、コーヒーだからな」
竜太朗は母ちゃんのコーヒーの発音をわざわざ訂正した。
竜之介の姿が見えなくなると、
「チエコちゃんば見たって人のおるとよ」
母ちゃんは小声で言った。
竜太朗と連は一瞬、言葉を失った。
「…そい、本当ね?ただ似てるだけやないと?誰が見たとね?」
竜太朗の顔は強張っている。
「鈴木のじいさんったい」
「鈴木の?あのじいさん最近ボケの入っとるやろ?あてにならん」
「佐世保駅で見たって言いよったけん、ウチも気になって佐世保まで来たったい」
「いつ聞いたと?」
「昨日」
「そい、朗には?」
「言うとらん、ハッキリしてからじゃないと期待するやろ?違ったら朗が可哀相かけんね、とりあえず朗と1番仲が良かアンタに言うとこって思ってさ」
「そうね…そいが良かもんね。期待させたら可哀相やし、また何か判ったら教えてな」
「もちろんったい」
母ちゃんが返事を返した時に竜之介が戻ってきた。
「竜ちゃん、ありがとう。婆ちゃんと一緒にコーシー飲もうな」
と竜之介と仲良く母ちゃんは奥へ行く。
「コーヒーだって!」
その後ろ姿にしつこく、発音を訂正した。
「竜太朗…どうする?朗には?」
二人の会話を横で聞いていた蓮は心配そうな顔をしている。
「まだ言わん…言えるわけなかたい」
竜太朗は深くため息をついた。
◆◆◆
朗がロジックのドアを開けるとすぐに華と目が合った。
「デートどうだったんだよ」
と朗はニヤニヤしながら華に近づく。
「別に普通。」
華は愛想なく答える。
「華ちゃ~ん、何その愛想のなさ?あっ!分かった。説教して晴彦に振られた」
「うるさい黙れ!」
華は朗のおでこを指で弾く。
「痛ってぇな~!何しやがる」




