お金がないんです3
「お腹空いた」
朗は顔も上げずに力無く答える。
「死因は餓死か…」
中年男性は冷静にそう言う。
「朗、朝ご飯食べてないの?…あれ?この通帳、朗の?」
テーブルに置きっぱなしの通帳を男の子は手にして開ける。
「うわ…お父さん見て…僕の貯金の方がまだあるよね」
「朗…こりゃ泣けるで」
2人は通帳を覗き込み残高に同情をする。
「竜之介!勝手に見んな!竜太朗さんも同情するならハンバーガーくれ!」
と朗は起き上がり、通帳を奪い返す。
「華ちゃんハンバーガーセット3人分ね」
竜太朗と呼ばれた男性は華に指を3本立て、注文をした。
「さすが竜太朗さん!どこかの意地悪娘と違う」
朗は笑顔になり華をチラっと見る。
華はもう!と不機嫌になり、
「竜太朗さん、朗を甘やかさないで下さい」
と文句を言う。
「いいんだよ、いつも竜之介が遊んで貰ってるし」
と側に居る竜之介の頭を撫でた。
「遊んであげてるのは竜ちゃんの方だよね」
と華は優しい笑顔で竜之介を見る。
「皆して朗を甘やかすんだから、竜太朗さんも見たでしょ?あの通帳…25にもなる男の通帳かって話よ、竜之介君も朗みたいな大人になっちゃダメよ」
華の言葉には刺があり、朗をさらにムッとさせる。
「華ちゃんもあまり怒らない、折角の美人が台なしだよ、なっ!竜之介」
と必死に華の怒りを納めようと竜之介にも助けを求めた。
「うん。でも、華姉ちゃんは怒っても綺麗だね、怒った顔も綺麗な人は本当の美人だっておじいちゃんが言ってたよ」
竜之介は天使のような可愛い笑顔でそう言った。
「や、やだあ~竜ちゃんったら上手ね~もう、今日はお姉ちゃんがおごっちゃう!」
と先程まで朗に怒っていた華は竜之介の言葉でみるみる笑顔になり、鼻歌歌まじりに3人分のハンバーガーを作り出す。
無邪気な子供の言葉はどんなイケメンよりも偉大だなぁ…と竜之介以外の男どもは心底そう感じた。
「竜之介、お前凄いな、不機嫌な華ほど質の悪いものは無いんだぞ」
朗は竜之介の耳元でそう呟く。
「それは朗が悪いの!いつもお姉ちゃんを怒らせてばっかりでしょ?怒ってくれる人が居るのは良い事だっておじいちゃんが言ってたよ」
竜之介のストレートな言葉は刃のように貫く。
その言葉につい、
「はい。以後気をつけます」
と謝った。
「わかればいいの。それよりコレ見てよ」
今まで大人ぶっていた竜之介は、途端に小さい子供の表情に戻り朗に見せる為に持って来たトレーディングカードを、テーブルに並べた。
「おっ、凄いな竜之介、かなり集まったじゃん!これレアカードだろ?当てたんだ、凄いよ」
朗は一枚一枚丁寧に見ては褒めていく、それを竜之介は少し得意げに見ている。
「ねぇ、飲み物は?」
華が竜太朗に聞く。
「俺はビール、仕事休みだからいいよな?竜之介と朗は?」
「僕、オレンジジュース」
「俺、ココア」
「あ~もう!ビールもココアもメニューには無いでしょ?無いヤツを言わないで」
華は迷惑そうに返事を返す。
「ココアはカウンターの下で、ビールは冷蔵庫の野菜室にある」
朗はカードから目を逸らさずに言う。彼に言われた通り、ビールは野菜室に、ココアもカウンターの下にあった。
…お母さんめ!
華は少し、母親に怒りながら、朗専用と書かれたココアの缶を開けた。
また、ロジックの小さいドアが開き、茶髪で耳にピアスの今時のチャラそうな若い男性と、どう見ても人の良さがにじみ出ている中年の男性が店内へと入って来た。
「晴彦君に史郎さんおはよう」
華は2人に挨拶をする。
「おはよう華ちゃん、テイクアウトでハンバーガーセットね」
と若い男性、晴彦がカウンターの席に座る。
「私もテイクアウトで」
と中年の男性史郎も晴彦の隣に座る。
「2人共、今から?」
華は伝票を付けながら聞く。
「うん、竜太朗さん親子に朗もおはよう。竜ちゃん、朗と遊んであげてるんだ!いい子だね」
と晴彦は朗をからかう。
「うん」
竜之介は可愛い笑顔で返事を返す。
「竜ちゃんって…学校でモテそうだよね」
天使の微笑みに晴彦はそう思ってしまった。
「当たり前だ!俺の子だ~俺に似てるから可愛いんだよ竜之介は」
竜太朗は大きな声で自慢する。
「よかったねぇ竜ちゃん、お母さん似で」
竜太朗、竜之介、史郎以外の全員の声が上手い具合に揃った。
竜太朗は逞しく色黒でまるで格闘家みたいに見えるのだが、息子の竜之介は9歳で男の子というより色白な美少女って感じの可愛い男の子だ、…つまりは似てない親子なのだ。
全員の言葉に竜太朗は泣き真似をする。




