秘密
『家族の人に連絡取りたいんだけど、君の携帯は充電が切れてるんだ、番号を教えてくれる?』
医師が聞いて来る。
『どうして?だって入院じゃないんでしょ?』
『日本の病院に連れて行って貰わなきゃいけないからだよ』
『大丈夫です!俺、ちゃんと病院へ行きますから』
崇は必死に言う。凛に心配なんてかけたくない、絶対に。
『でも、家族に付き添って貰った方が安心だよ』
『本当に大丈夫です!子供じゃないから自分で行けます』
余りにも必死で言う崇に医師も凛には連絡しないと言ってくれて、ホッとする。
凛に言うつもりもないし、病院に行くつもりも無い。
点滴が終わるまでエディは側に居てくれ、たまに額を冷やすように手をあててくれた。
凄く優しくて温かい手…。
懐かしい手…。
触れられると泣きそうになる彼の手は心地良かった。
点滴が終わると医師に、絶対に病院へ行くようにと約束させられた。
ふらつく体をエディが支えてくれる。
『もうちょっとだから』
健康な時なら玄関が遠いなんて感じないのに、今は遠く感じた。
『崇』
誰かに呼び止められ、二人で振り返る。
『カーターさん…』
崇を呼び止めたのは30半ばに黒髪に少しグリーンがかった瞳が印象的な好青年って感じの医者。
カーターと呼ばれた医師が崇に近づくと、何故か崇は警戒するようにエディの後ろに行く。
『倒れたんだってね、大丈夫か?』
カーターが顔色のすぐれない崇に触れようとするのを彼は交わし、
『大丈夫です!俺、急ぐんで。エディ、行きましょう』
とエディを促した。
『相変わらず君には嫌われてるね』
カーターは苦笑いをする。
『嫌ってません』
そう言いながらも崇は不機嫌そうにカーターを睨む。
『嫌ってない…か、その割りには不機嫌そうだね』
『急いでいるんで』
崇はそれ以上会話をしたくないという態度にカーターも諦めた様子で、
『今日は諦めるよ、でも…、私の…』
『カーターさん、何度も言いますけど、俺は興味本意で心を覗かれるのは好きじゃないんです』
カーターの話を最後まで聞かずにそう言うと、歩き出した。
エディもカーターに挨拶をし、崇の後を追う。
その時にカーターのIDをチラリと見た。
IDには精神科医と記されていた。
『さっきは変な所見せちゃってすみません。』
エディが運転する車内で崇は頭を下げる。
カーターへの態度の事を言ってるのだとエディにも分かる。
何故に精神科医はあんなに人の心を覗くのが好きなのだろうか?
カーターに逢ったのは通訳を始めて間もない頃で、前にも一度倒れた事があり、その時に側にいたのがカーターだった。
その時は彼を普通の医者だと思ってて、彼の質問に答えていた。
でも、その後に精神科医だと知った。
それから、カーターは何かにつけては崇にカウセリングを受けるようにと言って来るようになって、カウセリングなんて受けなくても原因は知っていたし、他人に話をしたからって楽になるなんて思わない。
精神科医は偽善者だと崇は思っている。
人の心をすべて救えると思っている偽善者!
『変な所って君が不機嫌な態度を取った事かな?』
エディの言葉で崇は我に返る。
『不機嫌…そうですね、そんな態度取った事です』
崇は少し笑った。
『正直、驚いたよ。君は温和そうに見えるし、あんな風に不機嫌で素っ気ない態度を見た事がないから』
『あんなもんですよ、人あたりが良く見えるのはそう見せているからですよ。仕事だし、クビになりたくないからです』
崇は冗談っぽく笑う。
『正直だね、それも君の良い所だよ』
『良い所…ですか?エディは良い人ですね…、いつも他人の良い所を見つけて褒める。今日も迷惑かけたのに嫌な顔しないし、俺も見習いたいです。すぐに顔に出るし、優しい言葉も態度も出来ない。 …相手が傷ついているのに気付いているのに意地悪を言って余計に苦しめる』
凛をどれだけ苦しめたかな?
彼女には素っ気ない態度ばかりを取る。
何を聞かれてもロクに返事もしないし、メールの返信も返さない。
丸一日、凛からのメールが来ないのも友達と居るからじゃなく、自分に愛想を尽かしたから?
ふと、そう思った。
『恋人かい?』
『はっ?』
急にエディにそう言われ、崇は顔を上げた。
『君が意地悪な態度を取る相手だよ。若い時は恋人に辛くあたったりするからな、私も辛くあたって結婚がダメになった』
『違いますよ!俺、恋人なんていません』
崇は慌てて否定する。
『恋人じゃないなら誰だい?』
『妹です』
『妹…妹が居るんだったね、可愛いかい?』




