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ロジック  作者: なかじまこはな
33/135

いとしい人4

何度も崇の名前を呼ぶが彼は返事もせずに俯いたまま。


『どうした?気分悪いのかい?』


エディは席を立ち、崇の側へ来た。


『気持ち…悪い』


それだけ言うと崇はエディの方へ倒れ込んだ。


『崇!』


何度か呼ばれたのは分かった…、でも…目の前が真っ暗になり、その後の事は覚えてはいない。




◆◆◆



朗と凛は祖父の墓参りに来ていた。


祖父の墓は小高い丘の上にあり、海を見渡せる。


「何ね、朗やないか…久しぶりたい」


近所に住む鈴木のおじいさんが声をかけてきた。

彼も墓参りだろう。


「こんにちは」


朗は軽く会釈をする。


「偉かね、よう祖父さんの墓参りしとるもんね、今日は女の子も一緒か?華ちゃんかね?相変わらず綺麗かね」


鈴木のおじいさんは凛を華と勘違いしているようだ。


「違うよ、この人は凛って言うんだよ」


「あれ?そうか。最近、目がよう見えんけん。」


そう言っておじいさんは二人に手を振り歩き出した。


「あっ、言い忘れとった」


おじいさんはゆっくり振り向くと、


「すぐ下の公園は近づいたらいかんばい、夏に来た台風のせいで崖が崩れかけとるとよ」


と言ってまた歩き出した。


「あ~もう!どこに行っても顔見知りに会うから田舎は嫌なんだ!」


朗はおじいさんが去った後、ぼやく。


アパートから墓に来るまでの間、必ず誰かとすれ違い、声をかけられ、一緒に居る凛を興味津々で見られ、彼女に何度も謝ったのだ。


「でも、温かいと思うよ、都会は周り知らない人ばかりで隣の人の名前さえ知らなかったりするじゃない?町の人全員顔見知りだったら不安も何もないし」


不満げな朗に凛は笑顔でそう言ってくれた。


「けど、ウザイぞ」


「それだけ、関心あるのよ。けど、私とここに来て良かったの?悪い気がするんだけど…」


「何で?それはこっちの台詞、観光する所ないし、散歩がてらに墓参りなんてつまらないだろ?」

朗は申し訳なさそうに謝る。


「違うよ」


凛は笑うと、「華ちゃんだっけ?朗の彼女なんでしょ?町の人、皆で私を間違えてたもん」そう言った。


「バカ!何言ってんだよ!さっきも付き合って無いって説明しただろ!」


朗は力の限りに否定した。


「それにしてもやたら華ちゃん、華ちゃんって言われたけどな、綺麗なんでしょ?」


「だーかーらー違うってば!華は幼なじみで妹みたいだし、それにアイツは説教好きなガキだよガキ!」


朗はどう説明して良いのかわからず、妙に焦って否定していた。


華が嫌いなわけじゃない…


ただ、凛に華と付き合っているという誤解を何とかしたかった。


「ムキになる所が怪しいな」


一生懸命に誤解を解こうとしている朗にワザとそう言った。


朗があまりにも必死で、何だかからかいたくなったのだ、今ならいじめっ子の気持ちが分かるかも~と凛は思った。


「本当に違うってば!」


朗は必死と言うより泣きそうに見えた。


「なんて嘘よ、朗が余りにも一生懸命に説明するからイジメたくなったの」


凛は悪戯っ子のように笑う。


からかわれた朗は小さい子供みたいに拗ねた顔になった、その顔があまりにも可愛くて凛は笑ってしまった。


「本当に彼女居ないの?」


「いないよ」


膨れっ面なままで朗は答える。


「何で?朗って優しいし、カッコイイじゃない?絶対にモテると思うんだけどなぁ」


「あまりモテないよ、キチンと定職についてないしさ」


「前は居たでしょ?」


「うん、前はね。学生の頃とか結構付き合ったんだけどさ、いつも最後はフラれて終わるんだ…向こうから付き合ってって言って来るのに」


朗は一層拗ねた顔になる。


「理由は?」


「二十歳の頃、付き合ってた子に別れようと言われた時に理由を聞いたんだ…そしたら寂しいからって言われた。」


「寂しい?逢って無かったの?」


「逢ってたよ、時間のある限りは逢ってた…。最初の三ヶ月は楽しくて、彼女もいつも笑ってて…、けど…、いつの頃からは笑わなくなって…その時から寂しかったって言われた。朗は私を見てないって、誰にも興味がないでしょ?って、好きな人にキチンと見て貰えないのは辛いって言われたよ。 …俺、ちゃんと見てた気がするんだけどなぁ」


そう言ったものの、少し考えて、


「本当は誰も見ていなかったのかも知れない。今、考えると彼女の事だって本当に好きだったのかも分からないし…、誰にも本気で付き合って無かったのかもな…」


と言った。


「愛せるよ。ちゃんと相手を信じればいいだけだもん」


凛はそう言うと朗の手をギュッと握る。


「信じる?」


「うん。相手を信じて、それで自分も相手に信じて貰うんだよ、そうすれば本気で愛せる… いとしい人って案外近くにいたりするんだよ」


と凛は優しく朗を見つめた。



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