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ロジック  作者: なかじまこはな
31/135

いとしい人 2

ウォンに聞いた話を通訳していると、「崇君、崇君だよね?」後ろから声をかけられ振り返える。


そこにはスーツを着た、30代後半くらいの、なかなか顔立ちが整ったの男性が立っていた。


「…江口さん?」


崇は記憶を探り、男性の名前を呼んだ。


「やっぱり崇君かぁ、何か益々かっこよくなっちゃって、初めて逢った時は女の子みたいだったのに」


江口は懐かしそうに近づいて来た。


「あの時はまだ中学生でしたから」


「今いくつだっけ?」


「今年26です」


「そっかぁ、俺も老けるわけか」


江口は微笑む。


「江口さんは余り変わってないですよ、モテるんじゃないですか?結婚はもうされました?」


崇も釣られて微笑む。


「イヤイヤ、刑事は不規則な生活だし、仕事柄危ないからね…とか言って、本当は良い子が居ないからの本音だけどね。崇君は今何してるの?香港からはいつ?」


「今は通訳してます。…それより仕事に戻らなくていいんですか?」


崇はざわめく現場を見た。


「そうだった、戻ろなきゃ…あっ、そうだ参考までに聞くけど、昨日はこの道通った?ここって軍関係者が使うだろ?」


「いえ…俺は普段は車だし、この道は使いません」


「そうか、ありがとう」


江口は手を振り歩きだす。


「待って。江口さん」


江口が足を止めると


「あの、犯人は軍の?」


と聞く。


「刺されたのは日本人だけど、外国人と言い争ってたんだ」


「英語ですか?」


「英語と韓国語だよ、ちょっと前に韓国から戦艦が入っただろ?」


韓国語…。


崇はウォンを殴ろうとした男性を思い出した。


「いいですか?俺に教えても?」


「通訳頼もうかな?って、それに君は話を漏らす子じゃないよ」


と笑顔で肩を軽く叩くと現場へ戻って行った。


崇は嫌な予感がしていた。



◆◆◆◆



朗は凛と携帯を取りにアパートへ来ていた。


竜之介も誘ったが、


「親友の恋を邪魔するほど子供じゃないもん」


と言われた。


最近のガキは…。


「このアパートに住んでたの?」


凛がそう言いながら階段を上がる。


海から離れた山近くにアパートはある。


「うん。」


返事をしながら部屋のドアを開けた。


「綺麗にしてるんだね」

凛は朗と部屋に上がる。


「たまに掃除しに来るからね」


「偉いね」


凛は微笑む。


「掃除くらい誰でもするだろ?あっ、あった。」

部屋の真ん中にポツンと置かれた携帯を見つけた。


「違うよ。アパート買ったんでしょ?」


「もしかして竜太朗さんが言った?」


「うん。お母さんの事も」


朗は竜太朗め、余計な事を!と思ったが本当の事だし隠す事ないからなぁ…と自分を納得させた。

「あのさ、聞いたからって…、あんまり気とか使うのは無しだからな」


「自分は使うくせに?」

凛は優しく笑う。


「私に優しいのは同じだから?」


「違う、そうだけど違う。」


凛は朗と向かい合って立ち、


「変な日本語」


と声に出して笑った。


朗も一緒に笑うと奥くの部屋に二人で進むと壁に寄り掛かり座る。


「朗はどんな子供だった?」


「どんなって?普通の子だよ」


「お母さんはどんな人だったの?」


朗の頭にチエコの思い出が過ぎる。


「…料理は下手だったな…、得意料理なんて目玉焼きだせ、しかも裏は必ず真っ黒で…カレーとか美味しいって言うと一週間ずっとカレーだったし」


朗は懐かしそうに語り出す。


「それから?」


「掃除は嫌いだし、洗濯も!その2つは俺がしてた。…後はやたらと派手だったなぁ、俺の服はそんなに無いのに自分の服や化粧品は買いまくるし。 …まぁ、水商売してたから毎日、同じ服じゃマズイからとか今ならちょっとは分かるけどね。でも、子供の頃は嫌いだった、母親より女を優先している感じがして」


そう言うと朗は寂しそうな目で凛を見つめる。


「お母さんの事、嫌い?」


「さぁ?小さい時は好かれようと努力してた気がする…」


「今は?」


「分からない…、男と駆け落ちする母親を許す奴が居たら会ってみたいよ」


朗は俯き、


「しばらくして手紙が来た」


小さい声で言った。







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