お金がないんです。2
「マキコさんは優しいんだよ、俺を見る度に嫌みか説教しかしない、どこかの誰かさんと違うんだよ」
朗だって、いつも華に負けてばかりじゃいられない、ちょっと強きに出る。
「あら、そんな事言っていいの?今日、お母さん居ないから、朗の朝ご飯無いからね」
華はそう言うとカウンターに戻り仕事を始めた。
「えっ、マキコさん居ないの?何で?俺の朝ご飯どーすんだよ」
強きに出たはずの朗は華の言葉で途端にオロオロとなる。
「お金払えば食べさせてあげるわよ」
意地悪っぽく言う華に朗は子供みたいにアッカンベーをし、彼女は相手に出来ないと呆れる。
「朗さん、ご飯無いなら俺がおごりますよ、この前窓を直してくれたから」
山本が嬉しい名乗りを上げてくれた。
「マジ?いいの?」
子供みたいにカウンターに身を乗り出し朗は笑顔になる。
「山本君、甘やかしたらダメよ」
すかさず華が割り込む。
「うるさい華!」
「うるさいって何よ、バカ朗!だいたい、キチンと定職に就かないからお金に困って自分より年下の子におごってもらうハメになんのよ」
「な、何だよ!仕事ならしてんだろ!」
朗は既に華に押され気味だ。
「仕事?あれのどこが仕事なのよ、便利屋の」
「便利屋じゃねーよ、探偵だ~た・ん・て・い」
「台風で壊れた屋根や、引越しの手伝い、あと…何してたっけ?」
「朝市の荷物運びやってましたよね?」
要がすかさず付け足す。
「そう、それ!それに山本君の壊れた窓」
「華さん、窓はタダで直して貰いました」
山本はハンバーガーに挟む肉をひっくり返しながら答える。
「あぁ、そうなの?で…、それのどこが探偵なの?便利屋でしょ?」
確かに…華の言う通りに探偵の仕事とは縁遠い便利屋のような仕事ばかりが舞い込む。
探偵だと思っているのはもはや朗のみなのだ。
「た、たまには迷い猫を探したり、飲み屋のお姉さんね下着の見張りとか…あと」
と考えて込む朗に華はフ~とため息をつくと、
「だから、それのどこが探偵なのよバカ朗!そんなお金にならない仕事は今すぐ辞めなさい!アンタの通帳の残高情けないわ」
力いっぱい華は怒鳴りつけた。
朗は言い返したいが華の完全勝利なので返す言葉も無い。
ムッとしながら、
「今は朝飯が先!ハンバーガーくれ!」
と言うだけ言うと席に戻った。
「チーズバーガーでいいですよね?」
山本は笑顔で朗にそう聞く。
「山本君、朗にそれ出したらクビにするわよ」
華が低い声で山本に威嚇する。
「えっ?クビは困ります、今月は彼女の誕生日なんです」
山本が慌てたのは華が口にした言葉を実行するタイプだからだ。
「何だよそれ、俺を飢え死にさせる気か」
「勝手に死になさい、皆の為よ」
華の言葉で朗はテーブルに顔を伏せると、
お腹が空いた…を連呼するが華に無視される。
「朗さん、だったら俺が…」
「要君もクビになりたいのかな?」
要がおごりますよ、と言う優しい言葉を遮るように華は低い声で言う。
「まさかぁ」
要は笑顔で首を振る。
「マキコさん~皆冷た~い、特に華!」
朗は聞こえよがしに叫ぶが開店時間近くになり店内が忙しく誰も相手をしてくれなくなった。
華は朗を気にしながらもハンバーガーの注文を取り始める。
ロジックの小さいドアが開き、ベルが店内に響く。
「あ~、お父さん見て!朗が死んでる」
小さい男の子の声がした。
「おっ、見事な死にっぷりだな」
と中年の男性の声もする。




