センチメンタル3
『久しぶりだね華。元気だったかい?』
エディは華を軽く抱きしめた。
『お父さんも元気だった?いつ戻って来たの?』
華は父親と話す時だけ英語になる。
『えっ?マキコに聞いてなかったのか?2週間前から居るよ』
とエディはチラリとマキコを見る。
『言ってないわよ』
マキコは冷たく返事を返す。
『あの事も?』
マキコは当然の如く頷く。
『あの事って?』
華はキョトンとする。
『いや、後からでいいんだ。今は料理を食べるのが先だ』
エディも席に座り、料理を注文した。
早速、料理が運ばれて来て、食べた事がない高い料理に華はニコニコしながら食べる、そんな娘の姿をエディは愛おしそうな瞳で見ている。
『華はボーイフレンド居るんだろ?綺麗になったし』
エディのフィな言葉に華は咳込む。
『大丈夫かい?』
エディは華に水を渡す。
華は一気に飲むと、『大丈夫』と言葉を返した。
『月曜日、デートなのよね』
マキコがしれっとばらす。
華は言わないで!とマキコに口パクで抗議するが彼女は気にしてないって顔で料理を食べている。
『デート?どこのどいつだ?あ、あの子か?結構綺麗な顔をした』
『朗でしょ?残念ながら違うのよ、美容師をしている子よ』
『もう!お母さん!デートじゃないって言ってるでしょ!それに朗だって好きじゃないもん』
華は必死に否定する。
その否定は明らかに朗の事を好きだと言われた事の方が強かった。
『何だ、恋人は居ないんだね。安心したよ…。恋人が居たら離れ離れになって可哀相だから』
『えっ?』
エディが何を言っているか華には分からなかった。
『エディね、華をアメリカに連れて行きたいんだって』
マキコが説明をしてくれた。
『アメリカ?』
華はまだ何を言われているか理解出来ないでいた。
『華。私と暮らさないか?マキコにも相談してたんだ…。もし、華が行くと言ってくれるなら…』
『アメリカ…』
エディの話は続いているが華の頭の中は真っ白だった。
◆◆◆◆
朗は暗い夜道を一人で歩いていた。気が付けば懐かしい場所に足が向いていた。
優しい月に照らし出されている建物は幼い頃、母と暮らしていたアパートだ。
2階建てのアパートは古くて小さく、もう誰も住んでは居ない。
2階へ上がる階段は大人一人がやっと通れる程の広さだ。
2階の1番奥くが住んで居た部屋だ、朗はポケットから鍵を出すとドアを開けた。
◆◆◆
「ただいま。」
竜太朗は玄関で靴を脱ぐ。
「あれ?一人か?朗は?」
母ちゃんに言われて朗の靴がない事に気付いた。
帰ってないのか…
「後から帰って来るよ、竜之介は?」
「凛ちゃんと居るよ」
母ちゃんと二人、奥へ行く。
「お帰りなさい。竜之介君、寝ちゃいましたよ」
凛が笑顔で出迎えてくれた。
「あれ?朗は?」
「朗?帰ってないんだろ?居る場所は分かってるから後で迎えに行くよ」
と寝ている竜之介の側に座る。
「迎えって?」
「ちょっとクダラナイ事で言い合ってね。少し、拗ねてるんだよ」
「拗ねてるって…?」
喧嘩の原因の凛に理由を話せるわけもなく笑って誤魔化す。
「仲がいいんですね。何か歳の離れた兄弟みたい」
凛には微笑ましく思える。
「父親でもおかしくないんだよ」
「若すぎませんか?」
「朗の母親とは同級生なんだ」
「えっ?朗を置いて行った?」
「あれ?朗から聞いた?」
「いえ、竜太朗さんのお母さんから…」
「あんのババア、余計な事を」
竜太朗はブツブツ文句を言う。
「竜之介くらいかな?チエコが居なくなったのは」
と竜之介の頭を撫でる。
「俺には理解出来ないよ。もし、俺だったら…竜之介を置いて行くなんて出来ないよ。竜之介が産まれた時はそれは嬉しくて…、パパって初めて呼ばれた時は泣けたよ。幼稚園のかけっこで転んで泣いた時も全部可愛くて、悲しませたらいけないって毎日思うのに…チエコは違ったのかな?って」
「駆け落ちしたって聞きました。本当に?」
「居なくなった日、駅で男と一緒に電車に乗るのを見た人が居るんだ」
「…そんな、朗が居るのに」
凛は竜之介に視線を落とす。
「そう。親からしたら宝物みたいな子供を置いてね、それから15年だよ」
「連絡とか無かったんですか?」
「随分経ってからかな?手紙が来たって朗のおじいちゃんが言ってたよ。」
「何って書いてあったんですか?」
「分からないよ、朗が捨てちゃったらしいから」
「何で置いて行ったんでしょうか?」
「俺にも理解出来ない。今もどこかで暮らしてるんだろうけど、罪悪感とか無いのかな」




