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ロジック  作者: なかじまこはな
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センチメンタル

ウォンが忘れ物を取りに行くと言って、軽く30分は経過していた。


崇はウォンの携帯に電話を入れながら歩き出す。

彼の仕事場は待っていた場所から5分とかからないのに、随分と遅い。


何度コールしてもウォンは出ない。


崇は建物に入ると警備をしている男性にウォンを見なかったか?と聞いてみると、誰かがウォンを訪ねて来て、裏手にその誰かと向かったと言われ、崇も建物の裏手に回った。


裏手に回ると、後ろ姿の男性が視界に入り、その男性と向かい合ってウォンが立っていた。


崇がウォンに声をかけようとすると、男性がウォンに殴りかかろうとする。


振り上げられた腕を崇は掴み『何やってんだよ』と男性を睨む。


『崇』


ウォンはホッとしたような顔を見せた。


男性は崇の手を払い、殴りかかろうとするが、崇はそれを交わし、自分に向けられた腕を掴むと勢いよく投げ飛ばした。


『警察呼ばれたいわけ?』


崇にそう凄まれ、男性は立ち上がると逃げ去った。


『ウォン大丈夫?』


崇はウォンの側に行く。


『ありがとう。大丈夫』


彼は何ともないようで崇もホッとする。


『アイツ何?見ない顔だけど…』


『今日、韓国から戦艦が入港しただろ?その乗組員みたい』


確かにさっきの男性は東洋系だった。


『はっ?何でソイツが殴りかかろうとするわけ?』


『アイツ…、兄さんの知り合いだって言ってた。居場所知らないかって聞いてきて…両親が離婚してからあまり兄さんに会ってないのに』


ウォンの兄は父親と韓国に残ったのだ。


『知らないって言っただけで殴ろうとしたのか?』


『うん。知らないって言ったら今度は何か預かってないかって、それも知らないって言ったら嘘つけって…兄さん、何かヤバイ事してるのかな?』


ウォンは不安げな表情だ。


『ずっと…会ってないのか?』


『うん。メールのやり取りや電話はたまにしてたけど、俺が日本に来てからは全く…』


『そうか…、とりあえず俺のアパートに居た方がいいな』


『でも、それじゃぁ崇や凛に迷惑がかかるよ…』


『大丈夫だよ、戦艦の乗組員なら滞在期間は決まっているし、基地の外に出る時はチェックされるし、外出時間も決まってるだろ?…それに、凛は友達の家にでも…』


ふと…朗の顔が頭を過ぎった。


男に守って貰った方がいいかな?本当は嫌だけど…凛の安全の為なら…。


『とにかく、俺んちに行こう』


と崇はウォンを促し歩き出す。





◆◆◆


朗と竜太朗は夜釣りへと出掛けていた。


凛と竜之介は寒いという理由で民宿に置いていかれた。多分、気を使ってくれてるのだろうと凛は思った。


竜之介を寝かしつけていると母ちゃんが毛布を持って来た。


「あの…、さっきはすみません」


凛は泣き出した事を謝る。


「謝る事なんかなかとよ、泣いたらスッキリしたやろ?」


母ちゃんは優しく笑いかけてくれる。


「はい。スッキリしました。」


「朗も優しかけんね。凛ちゃんも良か男ば選んだたい」


「朗が居てくれて助かりました。」


「朗にも両親が居らんけん、凛ちゃんの気持ちが分かるとよ」


「えっ?居ないって?」


凛は驚く。


「亡くなったんですか?」


「いや…、父親は始めからおらん、母親は朗が竜之介くらいの時に…蒸発したとよ。あげな可愛い子ば置いて行くって…ウチには考えられんよ」


母ちゃんは愛おしそうに竜之介の頭を撫でる。


きっと、幼い頃の朗と重なったのだろう。


凛は自分を抱きしめ、元気づけてくれる朗が自分と同じ辛く寂しい思いをしていたのかと…初めて知った。







「今日、あんまり釣れないね。史郎さんや蓮さん来なくて正解。」


朗と竜太朗は2時間近く釣り糸を垂らしているがピクリともしない。


「あっ、そうだ。じじぃが帰りにまた寄れって」


「いいけど…飯食わしてくれるなら。それより釣れないから帰ろうよ。何か寒いし」


「…」


竜太朗は言葉も発っさず朗をジッと見ている。


「何?」


「釣れないから帰るんじゃなくて、彼女が気になってるからだろ?」


「なっ、バカ!違うよ」


朗はまた声が裏返った。


「違わないな、お前は図星つかれると声が裏返るんだよ」


そう指摘され言葉を無くす。


「依頼人に惚れたらダメだろ?仕事、依頼される度に惚れる気か?あの子はお前に金払って仕事依頼して来たんだ、プライベートと仕事はキチンと区別しろ、お前この仕事向いてないじゃないのか?」


「何だよ、向いてるとか向いてないとか、今までそんな事言わなかっただろ!」


朗はカチンときたのか声が大きくなる。


「今まではな、けど今回は違う。あの子に入れ込み過ぎてる」


少し、キツイ言い方だった。


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