星に願いを4
そんな彼女が自分の知らない男に…自分が見た事もない笑顔を見せているのを見て、凄く腹が立った。 だから、泊まろうかな?と言う言葉を聞いて邪魔してやろうかと思った。
そんな自分を我ながら子供だと思ってしまう。
そして、朗にもイラついた。
余りにも普通だから。
ルックスが良いのもあるけど、普通に見えたからだ。
例えば、凄く年上や年下だったら…
誰が見てもチャラ男だったら…
明らかに悪い事をしていそうに見えたら…
反対出来る要素が彼には何一つ無かったからだ。
崇は何とも言えない自分の感情を吐き出せずにいた。
『崇』
英語訛りの発音で名前を呼ばれ振り向いた。
『ウォン、遅かったな』
名前を呼んだのはウォンだった。
『ごめん。今日はどうする?』
ウォンは申し訳なさそうに言う。
彼等の会話は英語だ。
ウォンは韓国生まれだが、幼い時に両親が離婚をし、ウォンは母親に引き取られアメリカに渡った。ゆえに英語がウォンに取っては母国語のようなものだ。
崇とは香港で出会った。
母親の再婚相手が仕事の為に香港へ行く事に決まり、ウォンも一緒に来たのだ。
崇は生まれは佐世保だが中学の時に叔父が住む香港へ凛と二人引き取られた。
なので崇も日本語よりは英語が楽で好きだった。
『あ~、今日はどうしようかな?凛は友達の家に泊まりに行って居ないし』
『じゃぁ。ウチに来る?また日本語教えてよ、俺ね片仮名少し覚えたんだよ。この前、日本人の親子と仲良くなったでしょ?その、男の子の方と公園でまた会ったんだよ、その時に片仮名教えて貰ったんだ』
『親子ってバスケの時の?』
『うん。名前…なんだっけ?リュウ…』
発音が難しいのかウォンは口ごもっている。
『竜之介だろ』
『そう!その名前!難しいよね』
ウォンには竜之介の発音は難しいらしい。
『じゃぁ、今日は俺んちに来いよ。凛が夕飯を食べ切れないくらい作ってたから』
『本当?行く行く!あっ、ちょっと待って忘れ物』
ウォンは少し、そそっかしい所もある。
彼は走って職場に戻って行った。
崇は人間関係を煩わしいと思っている方だが、ウォンとは何故か気が合い、一緒に居て楽しいと思える唯一の友人。
凛から連絡が来ない寂しさが紛れた。
◆◆◆
「華ちゃん。俺…彼女居ないんだよ」
晴彦は華の説教の合間をぬって、ようやく本題に切り出そうと意気込む。
「えっ?あれ?だって、朗が」
華は困惑しているようだ。
「あれは朗の冗談だよ!信じて華ちゃん!俺、本当に彼女居ないから。」
晴彦は特に最後の言葉を強調する。
「私の勘違い?」
恐る恐る聞く華に晴彦は力強く頷く。
自分の勘違いだと分かった華は見る見る、顔が赤くなる。
「ごめんなさい!私ったら偉そうに説教しちゃった」
「いいよ。変な冗談を言った朗が悪い」
「じゃぁ映画は誰と行くの?」
華に話を振られ、晴彦はゴクンッと唾を飲み込み、胸のドキドキを押さえる。
心の準備をし、頭の中で何回も誘う言葉を繰り返して、
「だから華ちゃん…どうかな?って思ってさ」
晴彦はなるべく明るく、軽目に言ってみた。
断られた時にごまかす事が出来るからだ。
「うん。いいよ」
なんと意外にもアッサリとOKを貰った。
「えっ?行って下さるので?」
余りにもアッサリと返事が返って来たので晴彦は嬉しさと驚きで変な言葉使いになった。
「うん。その映画ずっと見たいと思ってたし、説教しちゃったお詫びにお昼はアタシに奢らせてね。いつにする?」
晴彦のテンションは上がっていた。
「月曜日!美容室が月曜日休みだから」
晴彦は声大きく叫ぶ。
「月曜日なら大丈夫だよ。じゃぁ、月曜日ね。何時にする?」
華と映画の約束にこぎつけた晴彦は説教バンザイと思ってしまった。
横瀬には20分足らずで着き、船を降りると辺りは電気が少ないせいで薄暗かった。
「先に俺んち行くぞ、母ちゃんが飯作って待ってる」
と竜太朗は竜之介の手を引き、先頭を歩く。
「えっ?夕飯までご馳走になれませんよ、船賃まで出して貰ったのに」
凛は遠慮がちにそう言った。
「いいって、俺んちは横瀬にたった一軒しかない民宿やってるんだよ、だから飯は美味いし、温泉もあるし、部屋も貸し切りだ、シーズンオフだからな」
「でも…」
それでも凛は躊躇する。
「お姉ちゃん、一緒にご飯食べようよ」
竜之介も可愛い笑顔で誘う。
「遠慮しなくていいよ、俺なんて世話になりっぱなし」
朗も遠慮するなと言わんばかりにそう言ってくれた。




