星に願いを2
可愛い…可愛いって言った。
華は昼間の竜之介の言葉を思い出し、にやける。
朗ったら…明日は優しくしてもいいかな?なんて考えてしまう。
◆◆◆
土曜日は晴天だった。さすが晴れ男の朗。
約束の時間は6時。
場所は鯨瀬埠頭のフェリー乗り場だ。
横瀬へは車で行くと1時間以上掛かってしまうのに、フェリーだと20分足らずで着いてしまう。
長崎特有の地形のせいである。
「あれ?今日は朗君居ないね」
いつものテーブルに朗が居ない事に史郎と晴彦が同時に言った。
「夜釣りに行くんですって」
マキコが朗の居ない理由を二人に教えてくれた。
「あぁ、そう言ってたね。私も誘われたよ」
史郎は屋上で朗達に誘われた事を思い出した。
「二人共、注文は?」
「お任せしますよ。朗君が居ないと静かですね、華ちゃんの怒鳴り声も響かないし」
少し物足りないロジックの風景に史郎は違和感を感じているようだ。
「俺は新メニューを下さい。今日、華ちゃんは?」
と、晴彦が聞く。今日は朗も居ないが、華も居ない。
「俺らじゃ不満ですか?」
カウンターの中にいる山本と要が拗ねている。
「別にそうじゃなくて…」
晴彦は妙に焦っている。
「華は買い物よ。すぐ戻ると思うけど、何か用事?」
マキコに聞かれ、晴彦は大丈夫ですと首を振る。
晴彦の片手はジャケットのポケットの中にあって、映画のチケットを2枚握りしめている。
胸はドキドキといつもよりも鼓動が早い。
「ただいまぁ」
ロジックのドアが開き、華の声がした。
一気にドキドキが早くなる。
晴彦はタイミングを計っていた。
彼女を映画にどう誘うか…外に連れだし誘うか、皆の前でさりげなく誘うか…その方が警戒されなくて済むかも…。
チケットを2枚手にした時からこのドキドキと誘う方法をずっと考えていたのだ。
「あら、晴彦君に史郎さん…こんにちは」
華は二人に微笑みかけ、カウンターへと入って行く。
「今日は朗が居ないから静かでしょ?」
華は買って来た品物を袋から出しながらに言う。
「うん。さっき、マキコちゃんにそう言ってたんだよ」
史郎が答えるが晴彦は黙り込み大人しい。
「晴彦君、どうしたの?具合悪い?」
華が心配そうに晴彦の顔を覗き込む。
急に華の顔が視線に入り、晴彦はびっくりして顔を上げる。
「だ、大丈夫…」
晴彦はうろたえながらに返事を返した。
大丈夫と言う言葉で華は安心したように仕事に戻る。
「朗君達はもう船に乗ったでしょうか?」
史郎はチラリと壁に掛けてある時計を見た。
「史郎さん、誘われたなら行けば良かったのに…。随分、横瀬にも帰ってないのでしょう?」
マキコは二人にコーヒーを出しながら言う。
「そうだね…どれくらいかな?」
史郎は懐かしそうな顔をしている。
「あ、史郎さんも横瀬でしたね」
華が二人の会話に入る。
「うん。私はマキコちゃん達より2つ上だけどね。でも、子供の頃は遊んでたよ」
「へぇ~。じゃぁ、朗のお母さんとも?」
「チエコちゃん?もちろん。とても可愛くてね、マキコちゃんと共にアイドルだったよ。」
「まぁ~。上手いわね史郎さん」
マキコは照れながらも嬉しそうだ。
「チエコちゃんとマキコちゃんは唄も上手かったよね」
「あ、覚えてる!確かに朗のお母さん、よく唄を歌ってた」
華が昔を思い出しながらに言う。
「憧れの的だったよ2人共…、そういえば竜太朗君は高校の頃、チエコちゃんと付き合ってただろ?」
「えっ?そうなんですか?」
華は驚いて、カウンターの中から身を乗り出す。
「昔の事よ」
マキコは余計な事を言ってはダメ!と言うような態度で史郎を見た。
「チエコちゃんを最後に見たのはいつだったかな?、あぁ…、雨の日だったな」
史郎は懐かしいような、寂しいような顔をした。
「こんばんは。」
凛が朗達を見つけて駆け寄って来た。
「こんばんは凛ちゃん。船、もう着てるよ」
竜太朗は竜之介の手を取り急ぐように促す。
「ごめんなさい。もっと早く来るつもりだったのに」
凛は申し訳なさそうに謝る。
「いいって」
朗は笑うと彼女の荷物を持ち急ぎ足になる。
フェリー乗り場には小さな船が停泊していた。
4人が中に入ると5~6人程の乗客が既にいた。
船は30名程が乗れる小さな船で、大きなフェリーを想像していた凛は少し驚いたようだ。
「窓際に座る?外は既に真っ暗だけどちょっといけば戦艦が見えるよ」
と朗が窓際を勧め、その横に朗は座る。
真後ろは竜太朗親子が座った。