凛と崇2
「ちょっと待った!」
竜太朗はゲームをストップさせるとチームの中へ入り込んだ。
「こら!お前、今ズルしただろ!俺は見てたんだからな!」
と白人の一人に意気込んで言うが、日本語が通じていないせいか、相手はキョトンとしている。
竜太朗は崇に、「はい!今の通訳して!」と当たり前のように言う。
崇は少し笑いながら、通訳をしてくれた。
「どこにそんな証拠があるのかと言ってるけど?」
彼は相手の言い分まで通訳をする。
「何だと!このバカ外人!俺が本当のバスケを教えてやる!」
と竜太朗はビシッと白人の一人に指さし、鼻息荒く言い放つ。
「お父さん止めてよ、相手の方が本物のバスケットの国の人でしょ?」
竜之介が慌てて止めに来た。
「止めるな竜之介!男はこういう時は戦うものだ!」
竜太朗は上着を脱ぐと竜之介に預ける。
ウォンが気を利かせて自分が抜けると言って、竜之介を連れコートの外へ出た。
そして、竜太朗が混じった3オン3が始まった。
◆◆◆
「あの…、今どちらに?」
凛が聞いてくる。
「えっと、ニミッツパークに居るよ」
「本当ですか?私、近くに居るんで公園の入口まで来て貰えますか?」
「分かった。」
朗がそう返事を返すと、電話は切れた。
朗は慌てて、入口へと走る。丁度、凛が公園の入口の橋の上に立って居た。
白いコートにロングブーツにミニスカート姿は本当に可愛らしく、今日は髪も緩くカールされており、初めて会った時よりも可愛く感じた。
凛は朗に気付くと笑顔で手を振る。
何だか…デートの待ち合わせみたい。…と、勝手な妄想をして朗は照れてしまう。
「朗さん、良かったぁ」
凛は可愛く笑った。
「何が?」
その可愛い笑顔につい、見とれそうになる。
「依頼…断られるかと思っていたから、変な依頼だし…」
「変…って言えば変だけどね。変過ぎて、引き受けちゃった。」
そう言って、二人で笑い合う。
冷たい風が吹く。朗は凛に気を使うように風上に立つと、
「寒いから公園の中の喫茶店に入ろう」
凛を促し歩きだす。
「あの…太朗さん。」
急に本名を呼ばれ朗は吹き出す。
「朗!朗でいいから!」
本名で呼ばれるなんて絶対に嫌だと必死に朗と言う言葉に力を入れる。
「じゃぁ、朗さん?」
「朗でいいよ。皆、そう呼んでるし」
「はい。じゃぁ、朗…。朗ってカッコイイですね」
「はっ?」
凛の不意な言葉に朗の声は裏返る。
「会った時は気付かなかったの。」
凛も決して悪気があるわけじゃなくて…、ただ…俺って、そんなに普段ダメなん?と嬉しいハズが複雑な思いになる。
「それから私、依頼料を払ってないのを思い出して。」
「あ、そうか。俺も忘れてた」
「え~、何ですかそれは?損しちゃいますよ」
凛はクスクスと笑う。
「それから、敬語も使わなくていいよ。なんか…馴れないし」
「えっ、でも」
凛は躊躇する。
「本当にいいから。…それから、依頼料は…うーん、3万くらい?」
朗は真剣に考え抜き出した金額が3万だ。
「はっ?前金って意味?」
「ううん、全部含めて」
「えっ?ちょっと待って、普通は30万とか言われるんですよ。」
「はっ?何その金額?…ぼったくりじゃん」
朗は本気で驚いてしまった。
「ねっ、ちょっと待って!朗はいつもいくら貰ってるの?」
「え~と、5千円とか、多くて5万かなぁ?」
「それでやって行けるの?」
「うん。意外と…仕事は結構来るし、商品券とか、ビール券とか図書券とか貰えたりするし」
朗の言葉に凛は黙り込んでしまった。
その姿に朗は高かったかな?と焦ってしまった。でも、普通は30万って言ってたしなぁ…。
「やっぱり3万じゃダメよ!」
凛は真顔でそう言い出した。
「た…高かったかな?」
朗は恐る恐る聞く。
「違う!30万払う!」
凛は力強くそう言った。
「えっ?ダメだよ、そんな…」
朗は首と両手を一緒に振りながら言う。
「ダメ!払うわ。今日、払おうと一応持って来てたの!」
凛はバッグから財布を出そうとする。
「ダメ!ダメだよ、そんな大金!今すぐ銀行に戻して来てよ」
「ダメ!払う」
「いいってば!」
二人は押し問答を始めるが…、誰かが急に朗の腕を掴むとそのまま後ろに捩上げた。
「痛っ」
朗は痛みで声を上げる。
「相手嫌がってんじゃん」
そう言って捩上げる手に力を入れているのは崇だった。
「ちょっと、痛いって!」
朗は必死に逃れようとするが益々力を入れられる。
「お兄ちゃん止めてよ!誤解なんだってば!」