凛と崇
「やっぱり…、この人だ」
竜之介が写真を食い入るように見て呟く。
「何が?」
朗と竜太朗の声が揃う。
「さっき、ここに来る前に基地の前を通ったらこの人とすれ違ったの」
「へぇ~…えっ?嘘!」
二人は慌てて双眼鏡を奪い合いながら、さっき見てた白い建物に焦点を合わせる。
「いない…」
二人は呟く。
「おかしいなぁ、シフトは5時までだからまだ居るハズなんだけど…」
竜太朗がそう呟くと彼の携帯が鳴る。
携帯に出ると崇の職場と同じ外人からだった。
「えっ?シフト入れ代わったって?3時までって…、あはは。」
竜之介の言う通りに崇はとっくに基地を出ていた。
「追い掛けよう!」
朗は飲みかけの牛乳とカステラの切れ端、双眼鏡を持つ。
「ラジャー!」
竜太朗は竜之介を肩に担ぐと、
「またねぇ~史郎さん!」
と言い終わらないウチに全速力で走り出した。
史郎は笑顔で3人を見送る。
「朗君…いつか言うから」
と寂しそうな顔で呟く。
朗達3人は車に乗り込んだ。
「竜之介、ジャニ男はどっち行った?」
竜太朗は車を走らせながら聞く。
「ニミッツパークに入って行ったよ、ちゃんと確認したもん」
竜之介は助手席から指をさす。
「そうか、偉いぞ!」
ニミッツパークは米軍所有地で、野球の試合やらバーベキューやら、サッカーも出来る、かなり大きい公園だ。
「なぁ、何で依頼受けたんだ?変わった依頼なのに…」
竜太朗は後部席の朗に話掛ける。
「何でって?金欲しいし、それに…」
そう言って朗は黙り込む。
「それに?」
竜太朗はミラー越しに朗を見る。
「何か…彼女が気になってさ」
「朗、まさか彼女に一目惚れしたとか言うんじゃないだろうな?依頼人に惚れるなんざ、探偵失格だ!」
「ば、違うって!」
朗は何故か慌てふためく。
「彼女が言った言葉が気になったんだよ、…ほら、理由が分かったら姿を消す…って変な意味じゃないよね?」
朗は不安げな顔をしている。
「変なって?」
「自殺とか…」
朗は口にしたくない言葉を言う。
「バカだな!笑わなくなった理由が自分だったら、死んじゃうわけないだろ!巣立ちってやつじゃないか?ほら、お兄ちゃんを卒業しますぅ~って意味だろ?」
竜太朗はわざと明るく言う。
公園に着くと、車を路肩に着ける。
車では公園内には入れない。
公園は広い。朗は牛乳を飲みながら歩き出す。
奥まで進むとボールが弾む音が聞こえて来た。
バスケットをしている若者数人が視界に入る。
東洋系の男性2名と黒人の男性、白人の男性3名の3オン3。
東洋系の男性2人はウォンと崇だった。
朗達は見物人の振りをして近くのベンチに座る。朗が持つカステラの切れ端の入った袋を竜太朗は奪うと勝手に食べ出す。
朗が袋を取り返そうとした時に携帯の着信音が聞こえた、それは竜太朗の上着のポケットから聞こえている。
「取れよ」
竜太朗は命令形で言う。
「あっ?」
「取れって」
「何で?」
朗はちょっとムッとしている。
「お前の携帯だから。今朝、滞納した電話代払ってやったんだよ、連絡取り合えない探偵と助手って変だろ?」
「えっ?早く言ってよ」
朗は慌てて竜太朗の上着に手を入れ、携帯を取り電話に出た。
「もしもし」
「こんにちは、凛です。良かったぁ、繋がって」
「えっ?凛さん…」
電話の向こうから聞こえて来たのは美少女凛の声だ、何故か胸がドキドキと高鳴る。
さっきまで、竜太朗に惚れただ何だと言われたせいかも知れない…、そのせいで声が裏返った。
朗は意識するように竜太朗をチラリと見た。
竜太朗はニヤニヤしている。
聞かれてはマズいとベンチを離れた。
「あんにゃろー、遠くに離れるのが怪しいんじゃ!」
竜太朗は電話の会話を聞けなくて面白くないのかふて腐れている。
竜之介の足元にボールが転がって来た。
竜之介がボールを拾うと、
「ありがとう。」
と崇がボールを取りに来た。
「投げてくれる?」
崇は優しく竜之介に笑いかける。
言われた通りに竜之介がボールを投げると、
「ありがとうな」
と笑い。手を振り、またゲームへ戻った。
「マジでジャニ男だなぁ…笑顔が眩しい事で…、でも、笑わないんじゃなかったっけ?」
優しく爽やかな笑顔を見せた崇に竜太朗は首を傾げる。
しばらく、崇達のゲームを見ていたら、白人のチームがズルばかりしているのに気付いた。
ウォンに足を掛けたり、黒人の青年に肘をわざと当てたり、それはスポーツマンにあるまじき行為だ!
気に入らない!竜太朗は立ち上がった。