君と手を繋ぐ未来8
「もうキツイよこれ!」
竜太朗にネクタイを巻かれながら朗は文句を言っている。
「ウルサイ、ネクタイはこんなもんなんだよ、大体、スーツを着慣れていないお前が悪い」
とネクタイを締め終えた竜太朗も文句を言い返す。
「ウルサイなぁ、今の仕事はスーツ着なくていいからいいんだよ」
「あ、そ、…でも良かったな米軍で働けて」
「うん、オジサンのコネとウォンのおかげ」
朗は春から米軍で働いていた。
「弟子にならなくて良かったのか?」
「うーん、蓮さんが、お前の自由にしろって言うから」
とネクタイを緩めた。
「あんのクソジジイ、一人息子にはデレデレだからな…」
竜太朗はブツブツ文句を言っている。
「こら!何時まで用意してるんだ、結婚式に間に合わないぞ、華ちゃんも待ってるぞ」
と下から話題の息子にデレデレのクソジジイの叫び声がした。
「今行く」
そう返事して、竜太朗と急いで階段を下りる。
「けど、マキコちゃんにスーツ貰ってて良かったな、結婚式どころじゃなかったぞ」
「ま~ね、知ってた?始めっから結婚式で着せる為に買ったんだってさ、マキコさんが言ってた」
「マジかよ、あんにゃろ~」
玄関につくと華と竜之介が待っていた。
「遅い!」
仁王立ちした華が怒っている。
せっかくドレスアップして綺麗なのに勿体ない…竜太朗はそう言いたかった。
「先に行ってればいいじゃん」
朗は靴を探している。
「朗は女心分かってないね、朗のスーツ姿を早く見たかったんだよ、ねっ、華姉ちゃん」
と竜之介は天使の笑顔で華を見ている。
季節は冬から春に移っていた。
4月になり、竜之介も学年が上がり、いつしか友達も増えた。でも、相変わらず朗にベッタリ。
山本と要はすでに都会へと行ってしまった。
朗が住んでいた横瀬のアパートは、まだ、掃除をしに行っている。チエコと祖父の墓参りのついでに…。
最近、思うようになったのは。思った事は全て言葉にしようと言う事…伝えたい時に相手がいないのじゃ話にならない。
後から…聞くのは辛い。チエコを亡くしてそう思うようになった。
言葉にしなければ…いつか…未来で会えると思っていたのに、それはもう叶わない…。
いつか…未来で永遠に一緒に居ることになる人には、思いも全て言葉にしよう。
ごめんねも、ありがとうも…。
いつか、そんな人に出会るだろうか?
朗は目の前の華を優しい顔で見つめる。
「やーね、竜ちゃん何言ってんね、外で待つから早くしてね」
華は竜之介の言葉にうろたえ、外へ出ようとするが高いヒールのせいでバランスが崩れ、よろめいた。
「危ないな~華は」
朗は咄嗟に支える
「なれないヒールなんか履くからだろ?お前絶対に足痛くなるか転ぶぞ」
子供扱いにカチンときた華は振り向き、文句を言うが予想以上に顔と顔の距離が近く。
思わず赤面する。
スーツ姿の朗は凄く大人に見えて…いや、大人なんだけど。
かっこよかった。本気で見とれた。
「華、顔赤いけど熱ある?」
額を触る朗にびっくりして、「ないわよ、バカ朗!」と手を払いのけ、ヨロヨロと外へ出た。
「朗…からかうなよ」
竜太朗と蓮は同時に言った。
「そうだよ、華姉ちゃん一生懸命なのに…朗って、鈍感だよね」
竜之介が大人びた発言をした。
「鈍感って何だよ、仕方ないだろ、向こうがすぐに怒るんだから」
3人に注意され、朗はなんだかふてくされてしまった。
「華ちゃん可愛いじゃないか、あの娘なら嫁にいいぞ」
蓮はニヤリと笑う。
「は?また…はじまった…最近、孫の顔みたいってばっかり言ってさ…まぁ、華は黙ってりゃぁ可愛いんだけどな」
「元気なのがいいぞ、それから、コート持っていきなさい」
「コート?もう暖かいじゃん、要らないよ」
「…寒いぞ、これを持って行きなさい」
と蓮は春用のコートを出した。
「…また、買ったな…何でいつも俺のばっかり買うんだよ、老後の為に使えよ」
朗はもう呆れて何も言えない。
「今が老後だ」
蓮は言い出したら聞かない。
「貰っておけよ」
と竜太朗。
朗は仕方ない…
と諦め、素直に受け取る。
「華ちゃん待ってるだろ、先に行けよ」
竜太朗が華に気を使ってくれる。
確かに華は店の入口からこちらをチラチラ見ている。
「仕方ない、先に行ってるよ」
と歩き出すが、何かを思い出したのかのように立ち止まり、振り返ると。
「じゃぁ、会場でお父さん」
蓮を見て微笑んだ。