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ロジック  作者: なかじまこはな
131/135

君と手を繋ぐ未来6

史郎には病気の母親がいた。


病院代もバカにならない…人を車で跳ねたなんて会社に知れたら。


きっと首になる。そしたら、誰が母親の面倒を見る?


もし、あの時…車一台でも走っていたら。誰か歩いていたら。悪い方へと考えはいかなかった。


チエコに幼い子供が居る事も知っていた。


でも、あの時はそれが頭には無かった。


後は…気がついたらチエコをあの公園に埋めていた。


ただ…怖かった。


たった、それだけの感情で幼い子供から母親を奪った。それだけの感情で一人の女性の未来を奪った…。


「ふざけんな!怖かっただ?病気のオフクロだ?お前は自分の事しか考えられないのか、朗が…小さかった朗がどんなに辛かったか、チエコの親父さんがどんな気持ちで朗を育てたと思ってんだ、母親に捨てられたなんて悲しい感情知らずに済んだんだ!」


竜太朗は詰り飛ばす。


横瀬の船着き場で朝から晩まで一日中チエコを待っていた朗を知っている。


華がどんなにせがんでも公園で遊ばなくなったのも知っている。


公園で遊ぶ親子を見たくないから…それは成長しても変わらなかった。


制服を着た朗がたまに船着き場でボンヤリ座っていた。


そうさせたのは自分だ…史郎は朗を見る事が出来ない。


「なんとか言えよ」


竜太朗が拳を振り上げる。


「竜太朗さん止めて下さい」


江口が止めに入る。


「竜之介君の前で殴る気ですか?」


江口の言葉で怯えている竜之介が目に入った。


「竜太朗下がれ、彼を殴れるのも詰られるのも朗だけだ」


蓮がキツイ声で竜太朗を叱り付ける。


そして、また朗の前にしゃがみ「朗、どうしたい?」と優しい声で聞く。


「わから…ない」


朗は首を振る。


史郎の告白はかなり朗を動揺させていた。


「分かった」


朗の頭を撫でると、「江口さん、朗は無理みたいだ」と告げた。


江口は史郎を連れて出て行った。


「朗、ベッドで休むか?」


蓮は朗を立たせようとする。


「蓮さん…」


朗は視線を上げた。


「どうした?」


朗の脳裏に史郎の笑顔が過ぎる。


横瀬の船着き場に居た時、史郎がよく声をかけてくれた。


華が公園で遊びたいと駄々こねて泣いた時も史郎が一緒にメダカ取りに連れて行ってくれた。


いつも史郎は朗に笑顔で接していた。それは母親を奪った罪ほろぼしのつもりだったのだろう。


でも…!!朗は立ち上がると走りだした。


「江口さん、待って」


江口の運転する車を止めた。


「朗くん」


窓を開けた。


「あの、あの…史郎さんどうなるんですか?」


後ろに乗って俯いている史郎に視線を向けた。


「ひき逃げ死亡事故の時効は過ぎてるから……事情を聞くだけだよ」


朗はホッとした顔をして、


「史郎さん…俺、史郎さんを許せない」


そう言った。


史郎は顔を合わせる事が出来ずに俯く。


「でも、…でも俺は史郎さんを嫌いにはなれない…」


史郎は驚いて顔を上げた。


「だって、いつも史郎さんは優しかった…俺や華と遊んでくれた…俺の記憶の中の史郎さんはいつも笑ってた…それが安らぎにもなった…今は無理でもいつか…また笑って話せますよね?」


と必死に朗は言ってくれた。


「朗くん…ありがとう」


史郎は大粒の涙を流した。


◆◆◆


「本当に良かったのか?」


蓮がそう聞いた。


「何が?」


史郎が警察へ行き、引越しは明日へと引き延ばした。


朗と蓮は二人で星を見ながら冴子が作ってくれたケーキを食べている。


「史郎さんの事…よく許したな、お前や竜之介が見ていなかったら殴っていたよ」


朗はふと笑って、


「だって、史郎さんは悪い人じゃない…犯した罪は重いけどさ…でもね、多分…前の俺なら殴ってたかもな、今は家族が居るし、殴っても母さんは戻っては来ない…」


そう言った。


「お前は強いな」


と頭をクシャクシャに撫でる。


「あー、もうすぐ子供扱いする」


朗はふて腐れながらクシャクシャになった髪を直す。


「蓮さん頭撫でるの止めてくれない?竜之介と同じ扱いだし」


「蓮さん…か」


蓮は自分を連と呼ぶ朗にずっと言いたかった事があった。


「蓮さん何?」


ケーキをモグモグと食べながら聞き返す。


「いや…その…蓮さんって…なんかな…」


言いにくそうにモゴモゴと口の中で何か言っている。


「何?聞こえないんだけど?蓮さんハッキリ言ってよ」


また、蓮さんと呼ばれた。




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