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ロジック  作者: なかじまこはな
130/135

君と手を繋ぐ未来5

蓮は頷く。


「バ…、信じられない!冴子さんの気持ちも考えろよ」


責める瞳で見つめる。


知らなくてもいい事だってある。それで全てが上手く行くのなら知らなくていい…。


「お父さんを責めないで、私、知ってたから大丈夫

よ」


「へっ?」


朗は拍子ぬけをした。


「お父さんが浮気していたの知ってたの…チエコさんにも会った事あるし、別れて下さいって頼みに言った事もあるの…その時、チエコさんはお腹に赤ちゃん居るから、別れるつもりだって言って…でも子供は生みたいから黙っててって言われて…同じ女だし、堕胎してとは言えなかった…朗君が生まれた時も見に行ったのよ、凄く可愛くて…私の秘密の弟だって嬉しかった」


冴子はそう言って朗に笑いかけてくれた。


そう、彼女は全てを知っていて朗を受け入れてくれていたのだ。


「冴子…すまない」


蓮は冴子に頭を下げた。


「お父さんが浮気するの分かる気がしたし…お母さんは気が強くってさ、私もお母さんは苦手だった…でも、チエコさんは優しくて可愛い人だった…私はいいの、愛情を沢山貰ったから、だから今度は朗君の番よ」


「冴子さん…」


朗は泣きそうになる。


「泣かないの!それに知ってる?朗君が今住んでいるアパートね取り壊してマンションにするって大家さんが言ってたの、だから家賃も上がるんだよね…住むとこ無くなったね」


冴子はニッコリ笑う。


「決まりだな」


竜太朗もニヤリと笑う。


「よし、竜之介、朗の荷物取りに行こうぜ」


「うん」


と二人は朗に有無も言わさずに走って行った。


「俺まだ住むなんて言ってないじゃん」


「一緒に住もう」


蓮に力強く言われ、朗は少し考え……ふぅーと一呼吸をし「部屋のカギ持ってんの俺なんだけど?」と蓮と冴子に照れ笑いをして二人の後を追い掛けた。




◆◆◆



玄関に行くと江口と史郎が朗を待っていた。


「珍しい…組み合わせ?どうしたの?」


江口と史郎が絡んだ所なんて見た事が無かったが。


あ、そうか誕生日…史郎さんと江口さんにも声掛けたってマキコさん言ってたし…そう納得した。


「お前に何か話あるみたいだぜ」


竜太朗が手招きする。


史郎達と向かい合わせに朗が立つ。


なに?…と聞く暇もなく


「朗君、すまない!」


とその場で土下座され朗はキョトンとなる。


「許してくれ朗君、本当にすまない」


史郎は額を床に擦りつけるくらいに頭を下げ、尋常ではなかった。精一杯出している声は震えている。


「ちょっと、史郎さん~何?どうしたの?」


朗もその場にしゃがみ込む。


訳が分からない…史郎の肩に触れようとした時に。


「本当にすまない!君の…君のお母さんを…チエコちゃんを…ひき逃げしたのは…僕なんだ、本当にすまない」


「えっ?」


手が止まった。今…何て言った?朗は一瞬にして頭が真っ白になった。


史郎はもう顔を上げる事が出来ずにいる。目を見て謝る事が出来ないのだ。


驚いたのは朗だけじゃない…後を着いてきていた蓮はすぐに朗を心配するように側についた。


竜太朗は怒りで拳を握っている。


「ごめん、史郎さん…今何て言った?」


今にも倒れるかと思った。蓮がすぐに支えた。


「朗、こっちおいで」


朗の体を支えながら立たせると近くの椅子に座らせた。


「どう言う事だよ!説明しろ!」


竜太朗は土下座している史郎を無理矢理立たせた。


「すみません、すみません」


史郎は涙と鼻水でグチャグチャな顔をしている。


「すみません?ふざけんな!人一人殺しておいてすみませんで済むかよ」


竜太朗は胸倉を掴んだまま怒鳴りつける。


「なんで、救急車呼ばなかった?なんですぐに朗や朗のジイチャンに言わなかった!説明しろ!」


あの日…、雨が降っていた…。


たたき付けるような雨でワイパーさえも役に立たたない。


そんな激しい雨の中、史郎は車を走らせていた。


ほんのちょっと…ほんのちょっとよそ見をした…人影に気付いた時はもう遅かった。


ドンッ――


鈍い音がした。


史郎は慌てて、車を降りた。


激しい雨の中、誰かは倒れて動かない。


ドクンドクンと心臓の鼓動が徐々に早くなる。近付くと「チエコ…ちゃん?」そこに倒れていたのはチエコだった。


チエコはピクリともしない。


救急車…救急車呼ばなきゃ…そう頭では分かっていた。


でも、この町には救急病院は無く、救急車が来ても、助からない…。


そう、彼女はきっと助からない…どうしよう、どうしよう…そううろたえている内に時間だけが過ぎて行く。


その時、悪魔が囁いた…そう、悪魔が…。






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